セロトニンが不足することで、気分の落ち込みや無気力などの症状や不眠症状、うつ病等の精神疾病など、様々な悪影響が現れる可能性があります。セロトニンは、ノルアドレナリンドーパミンと並んで「三大神経伝達物質」と呼ばれており、不足すると衝動的になったりキレやすくなるなど、心身のバランスも崩れやすくなります。
→セロトニン不足チェック

セロトニンと三大神経伝達物質

セロトニンが不足した時の症状やその原因を紹介する前に、簡単に3つの神経伝達物質の役割や作用をおさらいします。

三大神経伝達物質の主な作用
セロトニン:衝動、心身の安定、心の安らぎ
ノルアドレナリン:興奮、意欲、不安、恐怖
ドーパミン:快感、意欲、学習、モチベーション

心身のバランスを保っているセロトニンの不足や過多により、ノルアドレナリンやドーパミンの作用が過剰(効きすぎる)になったり、逆に過度に抑制されやすくなります。心のバランスにとって理想的なのはこれら3つの物質が過不足なく分泌された状態です。

セロトニン不足時に起こりやすい症状

セロトニンが不足していると、以下のような様々な症状が起こりやすいと考えられています。
(症状の一例です。症状は人により異なります。)

セロトニン不足の身体症状
疲れやすい ・食べ過ぎる/食欲がない(過食・拒食) ・寝付きが悪い/眠れない(不眠) ・日中眠い ・肩こりになりやすい ・偏頭痛がでる ・痛みに敏感になる ・便秘や下痢 ・老け顔や暗い顔 ・姿勢が悪くなる ・低体温 ・免疫力の低下で風邪を引きやすくなる
セロトニン不足の精神症状
・ぼーっとする ・やる気が起きない ・集中力がない ・怒りっぽくなる ・イライラする ・キレっぽい ・落ち込みやすい ・すぐくよくよする ・感情的になりやすい ・衝動的になりやすい ・何事にも過敏/敏感になりやすい ・欲求不満 ・緊張しやすい ・ストレスが溜まりやすい ・依存症になりやすい

こうした身体/精神症状が慢性的に現れるような場合は、脳内のセロトニンが不足している状態、いわゆる「セロトニン欠乏脳」になっている可能性があります。

特に気をつけたい症状

セロトニンの不足は、心身に様々な影響を及ぼします。その中でも、特に気をつけ無くてはならないいくつかの症状をご紹介します。

メラトニン不足から不眠を招く
特に、セロトニンは睡眠ホルモン『メラトニン』の前駆体であるため、セロトニンが不足するとメラトニンも不足しやすくなり、その結果、寝付きが悪い、不眠、寝不足、日中眠たいなどの睡眠に関する弊害が起こりやすくなります。

成長ホルモン不足で疲労や免疫低下
さらに人の睡眠時には成長ホルモンが分泌されていますが、メラトニンが不足して睡眠不足睡眠の質が低下すると、成長ホルモンが分泌されにくくなるため、そこから免疫力が低下して風邪を引きやすい、傷が治らない、疲れが取れない、シミやシワが増える、肌が老化する、脂肪が増えて肥満になりやすい、などの影響も出てくることが考えられます。

ドーパミンの暴走
セロトニンはドーパミンが適切に働くようにバランスを取る働きをしているため、セロトニンが不足すると、ドーパミンは暴走しやすくなります。

別名『快楽ホルモン』とも呼ばれるドーパミンの暴走が起こると、後先考えずに目先の快楽や快感ばかりを求めてしまい、様々な依存症にもなりやすいとされます。

買い物依存症/ギャンブル依存症/アルコール依存症/ネット依存症/ゲーム依存症/テレビ依存症などの依存症はセロトニンが不足すると陥りやすいと言われています。

ノルアドレナリンの暴走
セロトニンの不足は、ドーパミンの暴走だけでなく、ノルアドレナリンの暴走も招きます。

怒りのホルモンとも呼ばれるノルアドレナリンが暴走することで、すぐにハイテンションになって暴れたり、攻撃性が増すことが考えられ、イライラしてキレやすく怒りっぽくなるのも、セロトニンの不足によってノルアドレナリンの暴走したときの精神特徴の一つです。

様々な精神疾患に罹りやすい
最後に、セロトニン不足は様々な精神・身体疾患との関連もあるとも考えられています。

うつ病
自律神経失調症
不眠症を始めとした睡眠障害
・統合失調症
・パニック障害
・強迫性障害(潔癖症など)

※定説ではない仮説も含みます。例えば、セロトニン不足がうつ病の原因であるという説(セロトニン仮説)は有名ですが、これは有力な仮説の一つであるものの、科学的に確定した定説ではありません。詳しくは『うつ病の原因』をご覧下さい。

→セロトニン不足を簡単にチェックできるアプリ

セロトニン不足時の神経伝達物質のバランス

セロトニンはノルアドレナリンやドーパミンなどの働きを正常に保ち、精神のバランスを保つ働きをしています。そのためセロトニンが不足すれば精神のバランスが崩れてしまいます。

セロトニン不足によって起こる症状は、同じく神経伝達物質であるドーパミンやノルアドレナリンがどのように分泌されているかによっても症状が異なってきます。

セロトニン不足+ドーパミン過剰
ドーパミンが過剰になると、欲望の暴走という形で症状が現れやすくなります。

普段はセロトニンによって担われていた、「欲望への歯止め」が効かなくなるため、過食やギャンブル、タバコ、酒、恋愛、共依存、ネット依存、スマホ依存など、何かに深くのめり込みやすく、『依存症』を起こしやすくなります。

ドーパミンの暴走は、日常生活での「感情の抑圧」や「我慢のしすぎ」によって起こるストレスが引き金になります。「やりたいことが出来ない」、「言いたいことが言えない」というストレスは、我慢を続けることでセロトニンを消費し続ける一方、やりたいことへの渇望が、「お預け中の犬」のようにドーパミンの分泌を増加させてしまうのです。

セロトニン不足+ドーパミン不足
ドーパミンは、物事への意欲やモチベーションを生み出す物質です。セロトニンとドーパミンが同時に不足すると、物事への意欲が喪失し、「やる気が出ない」状態になります。無気力で物事への関心も薄れます。

ドーパミンには意欲によってストレスに打ち勝つ作用もありますが、不足すればそうした作用は失われ、ストレスを受けるとすぐにくよくよしたり、行動力が低下して家から出るのもままならなくなり、引きこもりがちになったりします。

セロトニン不足+ノルアドレナリン過剰
世の中には常にハイテンションな人や、ちょっとしたことでも怒り狂って怒鳴り散らす人がいます。こうした人の中にはノルアドレナリンの分泌が過剰になっている人がおり、同時に過剰なノルアドレナリンによってセロトニンが消費されて、不足してしまうことがあります。

セロトニンの不足とノルアドレナリンの過剰によって起こるのは、すぐに激昂する、狂喜乱舞、攻撃性や暴力性を増す、常に落ち着きがない、集中力がない、などの症状が現れやすくなります。

また、ノルアドレナリンは交感神経系を刺激して血圧を上昇させますので、ストレス等によって慢性的に過剰な状態が続けば、長期的には高血圧症や、それによって起こる心筋梗塞、脳梗塞、また、様々な生活習慣病などの発生リスクを高めます。

セロトニン不足+ノルアドレナリン不足
ノルアドレナリンやセロトニンは、ストレスに対抗するために分泌されます。ストレスが長期間続けば、やがてこれらの物質は材料が枯渇して、不足に転じます。

セロトニンとノルアドレナリンの両方が不足した状態では、ストレスへの耐性が下がり、パニックを起こしたり、普段は気にならない小さなこと(例えば周囲の音や臭いなど)が気になって仕方がない、消極的になる、ネガティブな感情が現れる(恐怖、自殺観念、強迫観念、不安感など)、プレッシャーに弱く物事から逃避してしまう、などの症状が起こりやすくなります。

セロトニンとノルアドレナリンが同時に不足したときの症状は、うつ病の発症時の症状ともよく似ており、実際、うつ病の治療に使用される抗うつ薬では、セロトニンやノルアドレナリンの脳内の濃度を高める薬が用いられることが多いです。

セロトニンの不足と、それによって神経伝達物質のバランスが崩壊することで、様々な症状が起こります。特に、ストレスがセロトニンを不足させ、神経伝達物質のバランスを乱す最大の要因です。

セロトニンが不足する原因

ストレス
脳内のセロトニンが欠乏する大きな原因になるのがストレスです。ストレスで落ち込んだりすることは誰にでもあることですが、大抵の場合は時間の経過と共にストレスは減り、気分の落ち込みも治るものです。

しかし、例えば職場でパワハラを受け続けたり、学校でのイジメなど、長期間に渡って慢性的なストレスを受けることで、脳内のノルアドレナリンやセロトニンが徐々に不足して枯渇していく可能性があります。

現代社会には、至るところにこうした逃れることが難しいストレスが満ち溢れているため、全てのストレスを回避することは容易では無く、その結果、多くの人がセロトニン不足に陥ってしまうのだと考えられます。

詳しくは『セロトニンとストレス』をご覧ください。

BDNF(脳由来神経栄養因子)の減少
BDNFは、脳内の神経細胞の新生を促したり、神経細胞を保護する働きのある物質です。セロトニンを合成するセロトニン神経も、BDNFの働きによって機能が正常に保たれていると考えられます。

BDNFはストレスによって減少することが明らかになっており、[ストレスが長く続く→BDNFが減少する→セロトニン神経の機能が低下する→セロトニンの合成量が減少する→セロトニンが不足する]という流れでセロトニン不足が起こる可能性があるのです。

太陽光を浴びない生活
セロトニンは太陽光(またはそれに似た強い光)を知覚することで活性化されるため、太陽光を浴びないとセロトニンが不足する可能性があります。太陽光は心の健康にとって非常に重要です。

日頃忙しくゆっくり太陽光を浴びる機会がない人や、紫外線が気になる人には光目覚まし時計がおすすめです。

詳しくは『光目覚まし時計』をご覧ください。

運動不足
脳内のセロトニン神経はスクワットや階段の昇り降りのような、周期的に繰り返されるリズム運動で活性化されることが分かっており、リズム運動の不足がセロトニン不足を招く恐れがあります。意識して行えるリズム運動には、呼吸、ウォーキング、ランニング、サイクリング、咀嚼、フラフープ、ダンスなどがあります。

ダイエットや栄養の偏った食生活
セロトニンの原料となる、トリプトファンという必須アミノ酸は食事から摂取する必要があります。トリプトファン以外にも、炭水化物やビタミンB6、ミネラルなどもセロトニンの生成には必要なため、ダイエットなどで偏食により、栄養バランスが偏るとセロトニンが不足する可能性があります。

また、食べ物を噛む行為(咀嚼:そしゃく)は上で挙げたリズム運動に合致しますので、例えば流動食のようなアゴを使わずに食べれるものばかりでは咀嚼が減ってしまい、よくありません。

不規則な生活習慣
セロトニンは太陽が出ている日中の交感神経系が優位な時間帯に生成されますが、起きる時間や就寝時間がバラバラで不規則な生活習慣を続けている人や、夜更かし、寝不足、交代勤務、徹夜、昼夜逆転など、多様な現代社会の生活スタイルがセロトニン不足を誘発する可能性があります。

人との交流/コミュニケーションの不足
セロトニンはグルーミングと言われる、人との交流の中で活性化される性質があります。核家族化が進み、ご近所付き合いも少なって、人との関わりが希薄な現代社会は、セロトニンが不足しやすい環境でもあります。

また、不登校や引き篭もりをして社会との関係を途絶してしまうと、セロトニン不足はさらに深刻化します。パソコン上でのコミュニケーションはセロトニンの合成には向かないと言われています。

腸内環境の悪化
セロトニンの原料である『トリプトファン』は、体内で分解される際にビタミンB6を必要とします。ビタミンB6は、食事から摂取する以外に腸内細菌(善玉菌)によって生合成されています。

偏食などで腸内環境が悪化すると、腸内の善玉菌も減少してしまうため、トリプトファンの分解効率が悪くなり、その結果セロトニンが不足してしまう可能性があります。

詳しくは『セロトニンと腸内環境』をご覧ください。

尚、抗生剤を飲むと、腸内細菌が減少してしまうことが知られています。また、腸内環境が悪化する原因は、ご紹介しているストレス/運動不足/偏食/不規則な生活など、セロトニンが不足する原因とも合致します。

つまり、腸内環境を整えることは、セロトニン不足の改善にも役立ちます。
詳しくは『セロトニンと腸内細菌』をご覧ください。

加齢
人の神経細胞は加齢により減少していき、神経細胞の一種であるセロトニン神経も減少します。加齢によるセロトニンの減少は自然な現象ではあります。しかし、加齢によってセロトニンが減少する場合も、セロトニン不足による様々な影響が生じることに変わりありません。一般的に加齢によってセロトニンが減少することで、背筋が曲がったり、顔がたるむなどの影響が出やすくなります。

詳しくは、『加齢とともにセロトニンが減少する』をご覧ください。

また、加齢によって起こるホルモンバランスの乱れも、セロトニンを減少させる原因となります。ホルモンバランスの乱れは自律神経系の乱れに繋がり、自律神経系の乱れがセロトニンが不足しやすくなると考えられます。

ホルモンバランスの乱れによって起こる代表的な症状は、50代の男女で起こしやすい更年期障害です。

詳しくは、『更年期障害になるとセロトニンが不足しやすい』をご覧ください。

女性は男性よりセロトニンが不足しやすい!

女性はすぐ感情的になる」とか「女性はヒステリックになりやすい」、と表現されるケースが多く見かけられますが、それは根拠のないデマでしょうか?その他にも、女性は冷え性になりやすいとか、不眠や便秘にも女性のほうが男性よりもなりやすいとも言われています。

詳しくは『女性はセロトニンが不足しやすい』をご覧ください。

こうした話の背景には、女性特有の月経周期と女性ホルモンの増減の影響以外に、男性と女性のセロトニンの分泌量の差が大いに関係していると考えられており、PMS(月経前症候群)の発生や、PMSの悪化、また閉経後の更年期障害の発生などとも関係があります。

女性の場合、生理周期の特定時期になると、視床下部がプロゲステロン(黄体ホルモン)の分泌を抑制しだし、そのときセロトニン神経の活動も抑制されてしまうため、セロトニンの分泌量が減少してしまうとされます。

このことから、脳内でセロトニンを生成する能力は男性のほうが女性よりもおよそ50%程高い、または、女性は男性の半分程度であるとされています。

つまり、もともと女性は男性よりもセロトニンが不足しやすく、上で挙げたような感情的になりやすい、ヒステリックになりやすいなどの、セロトニンが不足している人に起こりやすい症状が現れやすいというのも事実であるといえます。

したがって、女性は感情的になりやすいというのは、あながち嘘でもないのです。

便秘を起こしやすいのもセロトニン不足の影響が

ストレス等によって腸のぜん動運動に異常が起こり、便秘や下痢などを引き起こすIBS(過敏性腸症候群)と言われる症状は女性のほうが発症しやすいことからも、女性がセロトニン不足を起こしやすいことを垣間見ることができます。(※IBS患者数は女性のほうが男性よりも2倍多いと言われています。)

日本人の誰もがセロトニン不足になりやすい

現代の日本はセロトニンが不足する要因が蔓延しています。

小さい頃から受験や習い事などで忙しく、年々子供の睡眠時間も減り続け、受験戦争を生き抜いて大人になってもブラック企業に就職すれば、待っているのは上司のパワハラ、その上、薄給と長時間残業。子どもから大人までがストレスまみれです。

ストレスだらけの生活に嫌気がさして仕事を辞めれば、不景気で新たな職も無く、気がつけばニートや引きこもりになり、一日中部屋に閉じこもるしかありません。ちなみに引きこもりもセロトニンが不足する原因となります。

負け組の生活に怯えながら、ストレスを我慢して一生懸命働いても、定年後に待っているのは熟年離婚かもしれません。

このような状態が続く日本は、社会全体が病んでしまっていると言えるでしょう。そして、こうしたストレスだらけの環境で過ごしていると、誰しもが知らず知らずのうちにセロトニン不足やセロトニン欠乏脳になってしまっている可能性があります。

セロトニン不足の解消方法

どうすればセロトニンが不足しないように生活出来るでしょうか?

実は、(当然といえば当然ですが)セロトニン不足を解消する方法は、『セロトニンが不足する原因として挙げたことの逆』を実践する事にあります。

セロトニンが不足する原因となるのは、以下のような事柄です
・太陽光を十分浴びない
・ストレス
・運動不足
・ダイエット・偏食・好き嫌い
・不規則な生活や睡眠不足
・人との交流やコミュニケーション不足
・腸内環境の悪化

つまり、ストレスや運動不足、偏食や不規則な生活などが、セロトニン不足の原因となるのであれば、その逆にストレスを溜めない、運動をする、規則正しい生活やバランスのとれた食事をすること、腸内環境を整えること、などがセロトニン不足を解消する方法であると言えます。

セロトニン不足の解消の詳しい方法は、次のページ『セロトニンを増やす方法』でご紹介します。

photo credit: Old Roses (license)


参考文献
厚生労働省 e-ヘルスネット – セロトニン
国際生命情報科学会誌 – セロトニン神経活性化の臨床的評価:脳波α2成分の発現
NCBI – PMID:1752859
NCBI – PMID:25108244
Wikipedia – セロトニン