オキシトシンは、脳の下垂体後葉から分泌されるホルモンです。近年の研究では、親子や家族、恋人間での信頼や愛情など、人間関係を形成する上でオキシトシンが影響を与えているとされ、癒やしのホルモンや幸せホルモン愛情ホルモンなどとも呼ばれるようになりました。また、いわゆるコミュ障を改善する効果も期待出来ます。

オキシトシンとは

オキシトシンは、従来は『出産時の子宮収縮薬や陣痛促進剤』として広く使用されてきました。

出産時に分泌される
オキシトシンは女性が出産するときに分泌され、子宮の筋肉を収縮させて陣痛を誘発することが知られています。陣痛促進剤として人工的にオキシトシンが投与されることもありますが、副作用などが起こるケースもあるため、当然ではありますが、医師の指導のもと慎重に判断頂く必要があります。

母乳の分泌
オキシトシンは、出産後の母乳の分泌を促進する働きをします。授乳の際にオキシトシンが分泌されると乳腺が収縮して、母乳の分泌が促進されるのです。

当初オキシトシンは、出産と授乳時に欠かせない『赤ちゃんのための愛情ホルモン』として分泌されることが広く知られるようになりました。

ところが、近年の研究で徐々に明らかになりつつあるのが、オキシトシンは出産時や授乳時だけに分泌されるホルモンではなく、ましては女性だけに分泌されるホルモンではなく、男性にも分泌されるということ、そして、オキシトシンが人間関係を形成する上で非常に重要な役割を果たしているということです。

昨今オキシトシンが注目を浴びているのも、こうした人間関係の形成や改善に関する効果からです。

人との信頼関係を築いてくれるホルモン
オキシトシンは、親子、家族、恋人、親しい友人など、親しい間柄の人と喋ったり、触れ合ったり、何らかのコミュニケーションを取ることで分泌されやすくなります。

親子で家族団らんの会話するときや恋人同士で触れ合うとき、脳内でオキシトシンが分泌され、相手に対する信頼感や愛情を増してくれるのです。

母親が我が子に注ぐ無条件の愛のように、オキシトシンが分泌されると相手に対して心を開き、信頼することが出来るようになります。言い換えれば、オキシトシンが分泌されると、そのとき相対している人にへの警戒心や不信感を解いてくれるのです。

人間と人間の関係は、お互いの間に信頼感があるか無いかによって、大きく異なります。

満員電車で知らない他人と肌を寄せ合うことは、ほとんどの人にとって苦痛で不快です。しかし、それが親しい間柄の人であれば、不快感はずっと少なくなります。

こうした人と人との間の、心の距離を近づけてくれるのに役立つのがオキシトシンなのです。

脳は知らない人を無意識に警戒する

そもそも人間は、家族や村、国など様々な規模の『コミュニティ』を形成して生活する生き物です。同じコミュニティに属し、それが近い関係であればあるほど、相手は「自分の命を脅かす脅威」になりにくいことを、誰でも本能的に知っています。

逆に、見たことがない人、知らない人は自分に対して害をなす可能性があるため、無意識に警戒心を持って接することになります。

こうした他人との間に生じる信頼感や警戒心といった、『無意識な心の距離感』は、脳内でオキシトシンが分泌されることで近づけることが出来るのです。

見たこともなく知らない他人と接するとき、(それが無意識であれ)警戒心や不信感から、体内ではノルアドレナリンアドレナリンコルチゾールと言った、様々な抗ストレス物質が分泌されます。

代表的な抗ストレス物質であるノルアドレナリンは脳を緊張させて不安やイライラを感じることで、とっさに襲われたり強奪されるような万が一の事態を想定して備えます。

ところが、話をするうちに、実はその人は「自分へ害を与えることがない」ということがわかると、今度は脳は相手への警戒を弱めるためにオキシトシンを分泌させて、相手への警戒心を和らげることで、心身のストレス状態を解除するのです。

仕事でも学校でも、一度信頼関係を築いた相手に対しては簡単に心を開ける(オキシトシンが分泌される)し、見知らぬ訪問販売員には少なからず身構えてしまう(オキシトシンが分泌されない)のです。

このように、相手との間に信頼関係が生まれたとき、心の距離感を縮めてくれるがオキシトシンです。

オキシトシンの効果

人間関係の強化、ストレスへの耐性強化、鎮静作用、催眠作用、コミュニケーション能力の向上、疾患予防など、オキシトシンが持つ様々な効果について、具体例をご紹介します。

親子の絆を深める
オキシトシンは、人と人との間での信頼性や安心感を与える物質です。親と子という間柄は、最も距離感の近い他人であるため、最もオキシトシンが分泌されやすく、深い絆を築きやすい関係だといえます。

ストレスへの耐性を高める
オキシトシンは、信頼できる他人との間で分泌が促進される物質です。オキシトシンが分泌されると、ストレスホルモン(ノルアドレナリン、コルチゾールなど)による恐怖心や不安感、イライラと言ったストレスが中和され、ストレスを感じにくくなります。

典型例として、悩み事(というストレス源)を抱えている人が、家族など信頼できる人に悩みを相談するとき、オキシトシンが分泌され、悩み事による不安やイライラと言った症状を緩和してくれるのです。

こうしてオキシトシンは、ストレスへの耐性を強めてくれるのです。

脳の疲れを取る
脳が疲れを感じるのもストレスが原因です。長時間集中して勉強したとき、一日中仕事に奔走したとき、時間の経過とともに脳に疲れが溜まっていき、脳の働きも低下して、やる気や集中力は次第に衰えていきます。オキシトシンはこうした脳の疲れを効率的に癒やしてくれます。

一日の終りに、家族や恋人とその日の出来事を話せば、脳に溜まった疲れも解消されやすくなるのです。

鎮静、催眠作用
オキシトシンによる鎮静や催眠作用は、脳のストレスが緩和されることでもたらされます。生活の中で起こる様々なストレスにより昂ぶった交感神経系は、放置すると脳を覚醒させ続け、不眠や抑うつなどの症状を引き起こします。

しっかりとオキシトシンを分泌させて、日々のストレスを上手にリセットしてあげることで、ストレスから脳や心を守り、安心して休むことができるようになるのです。

学習能力の向上、認知症の予防
恐怖や不安、イライラと言った状態では、脳が緊張して集中力を欠き、物事の判断力も低下しやすくなります。こうして心が落ち着かない状態を、オキシトシンが分泌することで緩和・解消することによって、集中力や判断力が向上して、学習能力や認知機能の強化に役立ちます。

自閉症スペクトラム障害の改善

今後のオキシトシンの可能性を示す一つの成果として、東京大学などが発表した研究結果では、オキシトシンを点鼻で投与することで、自閉症スペクトラム障害(アスペルガー障害の発達障害などを含む、自閉症等の障害の総称)が改善すること分かったそうです。
自閉症スペクトラムは、対人コミュニケーションが困難であることを特徴とする障害です。

東京大学 大学院医学系研究科 精神医学分野 准教授 山末 英典は、同研究科 統合生理学分野 特任助教(当時) 渡部 喬光らと共同で、ホルモンの1種であるオキシトシン注2)をスプレーによって鼻から吸入することで、自閉症スペクトラム障害において元来低下していた内側前頭前野注3)と呼ばれる脳の部位の活動が活性化され、それと共に対人コミュニケーションの障害が改善されることを世界で初めて示しました。

引用元:共同発表:自閉症の新たな治療につながる可能性~世界初 オキシトシン点鼻剤による対人コミュニケーション障害の改善を実証~

この研究により、オキシトシンには対人コミュニケーションにおいて、優れた効果を発揮するということが裏付けられ、いわゆるコミュ障の改善が期待できるのです。

空気が読めるようになる

オキシトシンによる対人コミュニケーション能力の改善効果が発揮されると、人との会話の中で「空気を読む」ということがそれまでよりも楽になるかもしれません。

オキシトシンが分泌される間柄、つまり親しい人とコミュニケーションを取るとき、相手に対する共感性や協調性が向上します。相手に共感し、他人と歩調を合わせて協調するということは、「空気を読む」という行為に他なりません。

つまり、会社や学校、地域のコミュニティ、ママ友たちとの間で、オキシトシンがしっかりと分泌されるような人間関係を築くことができれば、そうした相手と良好な関係を築くことに役立ち、例えば会社なら出世や商談獲得、学校でも信頼される人間として内申点が上がる、ママ友とも良好な関係が築ければ、一人で孤立することもありません。

詳しくは『幸せホルモン『オキシトシン』を増やすとビジネス能力が上がる!』をご覧ください。

ストレス症状を緩和する

オキシトシンは人と人との信頼関係を形成することで、ストレスを緩和する効果を発揮します。

他人との間で、オキシトシンが分泌されるような信頼関係が築かれていると、そうでない場合に比べて、ストレスを感じにくくなり、ストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が抑制されることがわかっており、コルチゾールの増加によって起こる不安やイライラ、集中力や記憶力の低下、抑うつ気分などをオキシトシンは緩和してくれているといえます。

参考:NCBI – 「Social support and oxytocin interact to suppress cortisol and subjective responses to psychosocial stress.

循環器系の疾患予防

ストレスは交感神経系を興奮させ、心拍数や血圧を上昇させるため、特に『慢性的なストレス』は高血圧症や心筋梗塞など、心臓や血管など循環器系の疾患リスクを高めることが明らかになっています。

一方で、オキシトシンはストレスによって血管や心臓が傷つくのを防ぐ効果があることが、いくつかの研究で明らかになりつつあります。

ある研究では、心臓にはオキシトシンの受容体があり、心臓でオキシトシンが合成されると、損傷した心臓細胞を回復させたり、細胞を強化させることが出来るとされています。こうしたオキシトシンの効果は、心疾患の予防や治療に役立つ可能性があります。

また、別の研究では、心臓で合成されたオキシトシンは、血管内で血圧の低下、副交感神経の亢進、血管の拡張、抗炎症作用、抗酸化作用、代謝の促進作用などを発揮し、血管細胞の新生を刺激することも示されています。

こうしたオキシトシンの働きは、ストレスによって傷つきやすい心臓や血管を保護し、血圧上昇に起因する疾患リスクを低減してくれる可能性を持っています。

参考:NCBI – 「Oxytocin in the heart regeneration.」,「The role of oxytocin in cardiovascular regulation

筋肉の再生と維持

老化プロセスのひとつとして、加齢に伴う筋肉量の減少があります。この加齢による筋肉量の減少には血中のオキシトシンが関わっている可能性があります。

骨格筋の修復能力は加齢と共に減少していき、筋肉量は徐々に減少していきます。一方、オキシトシンの血中濃度も加齢と共に減少することも明らかになっています。

動物実験の結果ではありますが、オキシトシンを血中へ投与すると、筋肉細胞が活性化して、筋肉の再生能力を改善すると言います。

このことから、加齢に伴う筋肉量の減少は、体内のオキシトシンの分泌を活性化させることで改善させることができる可能性があり、筋肉量の減少による様々な弊害、例えば体温低下、免疫力低下なども軽減することができるのではないかと考えられます。さらに、老化現象の一端を解明する手がかりになるかもしれません。

また、こうしたオキシトシンと筋肉に関する研究が進めば、将来的にはサルコペニアのような筋肉量の低下を伴う疾患の治療にも役立つ可能性もあります。

参考:NCBI – 「Oxytocin is an age-specific circulating hormone that is necessary for muscle maintenance and regeneration.

食べ過ぎを防いで肥満予防にも

オキシトシンによるストレスの緩和作用は、肥満予防にも役立ちます。

脳の視床下部にある食欲を司る『摂食中枢』はストレスに反応して刺激されるため、ストレスが増えれば増えるほど食欲が増して、その結果体重が増加して肥満になりやすくなります。
(ストレスで食欲が制限される場合もあります。)

脳がストレスを受けると、視床下部、下垂体、副腎(HPA軸)の間でストレス応答が起こり、副腎ではストレスホルモンである『コルチゾール』の分泌が増加し、同時に視床下部で摂食中枢が刺激されて食欲が増進し、食事の量が増加して、長期的には体重増加により肥満を起こしやすくなります。

オキシトシンは、こうしたストレスに起因するコルチゾールの分泌が増加するのを抑制し、食欲を抑える働きがあるため、オキシトシンが分泌されていると、食欲を抑えて、食べ過ぎから来る肥満を予防する効果が期待できます。

また、オキシトシンによりコルチゾールの分泌が抑制されることで、食後に『血糖値の上昇』を抑制させる働きもある(コルチゾールは血糖値を上昇させる)ため、血糖値の急上昇などが原因で起こりやすい『糖尿病』の予防にも効果があると考えられています。

こうしたオキシトシンの効果は、正常な食欲までもを制限するという意味ではなく、ストレスを抑制することで、ストレスによって必要以上に食べすぎてしまうことを防いでくれるということになります。

参考:NCBI – 「Oxytocin reduces reward-driven food intake in humans.」,「Oxytocin’s inhibitory effect on food intake is stronger in obese than normal-weight men.

騙されたり金銭トラブルに巻き込まれやすくなる

オキシトシンが持つ「他人への信頼感を増幅する効果」には、思わぬ落とし穴があります。

2005年にコスフィールドによって行われた『信頼ゲーム』では、参加者が投資家の役を演じるのですが、オキシトシンを吸引したグループとそうでないグループで、ゲームの結果を見ると、オキシトシンを吸引したグループの投資家(役)は、そうでないグループの人よりも、他人に安易に自身の資金を提供してしまう傾向があったことが明らかになっています。

これは、たとえば信頼する知人から借金の相談があったときに断ることが難しいようなことですが、それが例え本来は信頼できない人間であっても、オキシトシンが分泌されてしまうと、つまり一度相手に気を許してしまうと、投資詐欺や訪問販売のような強引な商法などにも引っかかりやすくなってしまう可能性があることを示しています。

振り込め詐欺のように、お年寄りの孫への愛情を利用するようなケースも、オキシトシンの特性が利用されていると言えるかもしれません。

悪意を持って笑顔で近づいてくる相手に対して、相手を盲信してしまうオキシトシンの効果は厄介な代物だと言えます。信頼できる間柄であっても、金銭や、何らかの利便を図る行為には特に慎重に、そして冷静にならなくてはなりません。

参考:Social Science Evolving – 「The Trouble with Oxytocin, Part I:Does OT Actually Increase Trusting Behavior?

オキシトシンを増やすには

オキシトシンを増やす主な方法は、人と良好な人間関係を構築すること、食事によってオキシトシンの材料をたくさん食べること、そしてオキシトシンが増えるような生活、行動をすることです。

人間関係を構築すること

オキシトシンの分泌は良好な人間関係を築くことで促進されます。親子、家族、恋人、友人、部下と上司、同僚、お隣さんなど、社会のありとあらゆる人間関係にオキシトシンを分泌するチャンスがあります。

最初はただの顔見知りでも、会話を重ねて相手を知るにつれ、好意を抱くようになり、相手への信頼度がますに連れ、オキシトシンの分泌も促進されます。

対人関係におけるオキシトシンの特徴を捉えておくことは、自身がオキシトシンをうまく分泌できるようになるだけでなく、恋愛や仕事の場面で、他者との人間関係の構築がより円滑に進められるようになる可能性を意味します。

営業をしている人などは、初見の人は中々商材に見向きもしてくれないことを経験則で理解していると思います。これは、所見の相手に対してはオキシトシンが分泌されにくいからです。

そして、何度も相手先に足を運び、相手の警戒心が溶けるに連れて、商談のチャンスは広がっていきます。実はこうした信頼関係が生まれることで相手の出方が変わってくるのも、相手が自分に対してオキシトシンを徐々に分泌してくれるようになった結果なのです。

つまり、恋愛でも仕事でも、意中の相手に振り向いてもらいたければ、いきなり告白したり商談を持ちかけるのではなく、まずは人間関係を構築して、相手が自分に対してオキシトシンを分泌してくれるようになるのを待つことが、成功への近道となるのです。

食事で増やすには

オキシトシンは、9つのアミノ酸が結合して構成されたペプチドホルモンです。(ペプチドとはアミノ酸が2個以上結合したもののこと。)

9つのアミノ酸の種類は以下
システイン、イソロイシン、チロシン、グルタミン、アスパラギン、プロリン、ロイシン、グリシン
※システインは2つ

オキシトシンそのものをサプリメントなどで経口摂取しても、胃や腸で分解されてしまうため、効果がありません。

詳しくは『オキシトシンのサプリメント』をご覧ください。

従って、オキシトシンを食事から増やすには、オキシトシンの原料となるの9つアミノ酸が含まれたタンパク質、つまり肉や魚、豆、乳製品、卵などを食するのが効果的であると考えられます。

また、オキシトシンの材料となるアミノ酸のうちいくつかは、脳内へ到達するのに炭水化物を摂取すると効率が高まりますので、食事の際は、タンパク質はもちろん、炭水化物も一緒に摂取すると良いでしょう。

アミノ酸の働きなどについてはこちらをご覧ください。

オキシトシンと食事の関係について詳しくは、『オキシトシンと食べ物について』をご覧ください。

グルーミングで増やす

オキシトシンは、親子や恋人同士の触れ合いやスキンシップ、家族や友人、仲間とのおしゃべりなど、時には、飲みニケーションやマッサージなどいわゆるグルーミングと言われる行動の中で分泌されやすくなり、オキシトシンが分泌されることで、脳は癒され、ストレスへの耐性の向上やセロトニンという脳内物質の活性化にも作用しているとされます。

一人暮らしの場合など、人との触れ合いが少ない人は、ペットとの触れ合いでもオキシトシンを増やす作用が期待できます。また、ペットもいないという人は、お気に入りの人形やぬいぐるみを抱くことでも補えるそうです。

詳しくは『グルーミングでセロトニンを増やす方法』をご覧ください。

グルーミングの他にも、オキシトシンを増やす方法としていくつかの方法があります。詳しくは『オキシトシンの増やし方』をご覧ください。

また、オキシトシンを増やす方法の多くは、セロトニンを増やす方法にも合致します。セロトニンを増やすには、規則正しい生活をする、日光を浴びる、リズム運動をする、食べ物をよく噛む、などが効果があるとされています。

オキシトシンには副交感神経系を刺激して脳をリラックスさせることでストレスを緩和・解消させる働きがあるので、交感神経系を興奮させるストレスホルモンである、コルチゾールノルアドレナリンとは逆の性質があると言えます。

人を褒める

人を褒めることで、その人との間にオキシトシンの分泌を促進する効果が期待できます。

褒めると
人を褒めることは、相手の態度や行為を肯定し、尊重するということの意思表示になります。相手のことを肯定して尊重することは、そ相手への信頼が増すことになり、その分、相手に対するオキシトシンの分泌が促進されます。

褒められると
人から褒められると、褒められた側としては、自尊心を満たすことができるため、心地よいと感じます。そして、心地良い気持ちにさせてくれる相手、つまり褒めた側の人に対しての警戒心は薄れ、信頼感は向上するため、オキシトシンの分泌が促進されます。

こうしてお互いの間でオキシトシンの分泌が促進されると、人間関係はさらに深化していきます。

感謝すること

人に感謝すること、また、人から感謝されることはオキシトシンの分泌を増やす効果が期待できます。

他人の何らかの行為に対して、感謝の気持ちを伝えることは、自分の(感謝という)気持ちを相手に伝えるコミュニケーション行為のひとつです。気持ちをしっかり相手に伝える、または気持ちが相手に伝わる、ということが特に重要で、相手に謝意が伝われば、自分と相手との間には、相手の行為に対して感謝し、感謝されたという「価値観の共有」が生まれます。

また逆も成り立ちます。誰かに感謝してもらうことでも、その相手との信頼関係の構築に役立ち、オキシトシンの分泌は促進されます。

このような謝意の意識や価値観を他人と共有すること、そしてそのような感謝を幾度も積み重ねていくことは、オキシトシンの分泌促進に役立ちます。

また、社会やコミュニティの中で人に感謝し、また感謝してもらうこと、つまり、人の役に立つこと、親切心、ボランティア精神などは、コミュニティのなかでのオキシトシンの好循環にもつながるのです。

オキシトシンと恋愛

オキシトシンが恋愛ホルモンとか愛情ホルモンと言われる所以は、オキシトシンが恋愛関係にある恋人同士の間で、特有の効果を発揮するためです。

恋人間で分泌されるオキシトシンの効果
・安心感、安らぎを増やす
・互いの信頼感を増やす
・心の不安を減らす
・ストレスを減らす
・愛情を深める
・幸福感を増やす
・心を癒やす

恋人間のオキシトシンの分泌は、会話、ハグやキス、手をつなぐ、密着する、一緒に寝る、などスキンシップやグルーミングを介して深まります。

言い換えると、恋人のような密接なスキンシップを取れる関係なら、より濃厚にオキシトシンを分泌しやすいとも言えます。恋人に近い距離感は、親子の間でも成立します。特に生まれて間もない赤ちゃんと、その母親の関係は特別なもので、恋人同士のように多量のオキシトシンの分泌が起こり得ます。

執着心を生み出す

恋愛ホルモンと呼ばれるオキシトシンは、人と人との関係を深める役割を果たしていますが、その中には人が人への『執着』を深める作用と言うものが含まれています。

オキシトシンは脳内の様々な部位に作用するホルモンで、その一つに『側坐核』があります。

側坐核はドーパミンに代表される『報酬系』が作用することで快感、物事への意欲ややる気、モチベーション、また恐怖や忌避などを生じさせる部位です。

ある人の側坐核にオキシトシンが分泌されるとき、その人と相対する人やペット(恋人、友達、親、兄弟、犬や猫)に対しての『執着』が生じます。

執着は相手を愛おしい、一緒にいたい、大事にしたいという健全なものから、独り占めしたい、どこにもいかせたくない、一緒にいないと不安、他の人と話していると嫉妬する、強い依存などストーカーめいた強く行き過ぎた執着まであります。

「可愛さ余って憎さ百倍」と言うように、オキシトシンが生み出す執着とは良く言えば、人と人との絆であり、悪く言えば、恨みや妬みの源泉でもあります。

オキシトシンと睡眠

オキシトシンが分泌されることによる効果の一つとして、催眠作用が挙げられます。オキシトシンが充分に分泌されることで、脳の疲れが取れ、また、気分が安定して、人は幸福感を得るとされています。 その結果、安心して眠りに着くことが出来るのではないでしょうか。

また、オキシトシンは脳内物質セロトニンを活発化させます。セロトニンは、睡眠ホルモンである『メラトニン』の分泌に必要な脳内物質なので、セロトニンが活発化することで、睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌も増え、よく眠れるようになるというわけです。

詳しくは『オキシトシンと睡眠』をご覧ください。

オキシトシンが不足すると

オキシトシンは、他人への信頼感を高めることで、恐怖や警戒などから来る脳のストレスを和らげてくれるホルモンですから、オキシトシンが不足すると、他人とのコミュニケーションが難しいと感じやすくなったり、空気が読めない行動を起こしやすくなる場合があります。

オキシトシンが不足しやすい人の特徴は、

  • 一人で孤立しがちな人
  • 他人を信頼するのが苦手な人
  • 引きこもりがちな人
  • ホルモンバランスが乱れやすい女性
  • 更年期を迎える世代の人(男性にも更年期があります)

また、日本の場合、社会そのものがオキシトシン不足を助長するような、冷たい社会になりつつあります。

詳しくは『オキシトシンが不足すると』をご覧ください。

オキシトシンとセロトニンの関係

幸せホルモン『オキシトシン』と、脳内の神経伝達物質『セロトニン』は密接な関わりがある物質です。東邦大学の有田秀穂医学部教授はその関わりについて、以下のように解説しています。

オキシトシン受容体は、前頭前野と扁桃体にありますが、まさにそれは心に関係した脳の場所にあるわけです。ですから、心の状態に影響を及ぼす脳内物質ともいえます。セロトニン神経の神経細胞にオキシトシンの受容体があります。

ですから、オキシトシンがたくさん分泌されてオキシトシン受容体に届くと、同時にセロトニン神経が活性化されることになるのです。

引用元:「脳の疲れ」がスーッととれる!”癒しホルモン”オキシトシンの増やし方

オキシトシンをうまく分泌させるには、前述のようなグルーミング、つまり人と人との触れ合いや会話などの交流が効果的です。しかし、残念なことに、インターネットが発達し、コミュニケーションの手段も多様化した現代では、業務上でもメールだけでやりとりしたり、働かずに部屋に引きこもる人が増えたり、人と人とのコミュニケーションが減りつつあります。

オキシトシンとセロトニンには密接な関わりがあり、オキシトシンの分泌が減るような環境では、セロトニンも不足しがちになるでしょう。

セロトニンはうつ病や不眠症などの疾病に大きな影響がある脳内物質であるとされています。近年、若者を中心に新型うつと言われる、新しいタイプのうつ病になる人が増えているとされたり、うつ病だけでなく、他にも様々な精神疾病や眠りに不満を持つ人の数が増えているのも、現代社会に生きる我々が、いかにストレスを多く抱え、オキシトシンとセロトニンをうまく分泌できていないかの現れなのかもしれません。

オキシトシンとセロトニンの関係について、詳しくは『オキシトシンとセロトニンの相互関係』をご覧ください。

★次のページでは『オキシトシンが不足すると』をご紹介します。

photo credit: Julio Roman Fariñas Sofi and Lore… (license)