うつ病(鬱病、欝病)とは、抑うつ気分や不安・焦燥、精神活動の低下、食欲低下、不眠症状などを伴う事を特徴とする脳と心の病気です。
人は誰でも感情の浮き沈みがあり、一時的な感情の落ち込みがあります。
強いストレスや継続的なストレスなどで、抑うつ状態が慢性的になり、脳の働きが低下することでうつ病といわれる状態になります。

うつ病とは

厚生労働省によると、うつ病の定義は以下のとおりです。

「憂うつである」「気分が落ち込んでいる」などと表現される症状を抑うつ気分といいます。抑うつ状態とは抑うつ気分が強い状態です。うつ状態という用語のほうが日常生活でよく用いられますが、精神医学では抑うつ状態という用語を用いることが多いようです。このようなうつ状態がある程度以上、重症である時、うつ病と呼んでいます。
引用元:うつ病|疾患の詳細|専門的な情報|メンタルヘルス|厚生労働省

現代社会において、うつ病は決して珍しい病気ではありません。
厚生労働省が実施している患者調査によれば、日本の気分障害患者数は1996年には43.3万人、1999年には44.1万人とほぼ横ばいでしたが、2002年には71.1万人、2005年には92.4万人、2008年には104.1万人と、著しく増加しています。
うつ病の中でも多いのが軽度のうつ病で、うつ症状が軽いため、いろいろな検査をしても異常が発見されずに見逃されてしまったり、周りに理解してもらず、単なる怠けと捉えられたりして、症状が進行してしまうことがあるようです。

近年の国内において、うつ病は深刻な社会問題としてしばしば取り上げられています。
長く続く不況の中、重労働と高いストレスを抱える日々を過ごす人々が続々とうつ病となり、社会復帰が困難になったり、自殺してしまったりするケースがたびたび報道されるほどです。

うつ病は女性のほうが男性よりも2倍ほどなりやすいとされており、さらに、大人だけでなく、子供でもうつ病になる場合があります。
原因として、学校でのいじめや過度なストレスなどが考えられます。
子供への治療を対象にした、小児心療内科というものもあります。

このように、うつ病は誰しもに取っても身近な病気であり、決して他人事ではありません。
また、現在うつ病で悩んでいる多くの方が存在するのも紛れもない事実ですし、自分の家族や友人、会社の同僚がうつ病になることもありえるわけです。
私達には、そうした現状を理解したうえで、うつ病と正しく向き合って生活していくための知識が必要です。

うつ病の分類

一口にうつ病と言っても、症状は人により多種多様であり、一見うつ病とは分からない人から、社会生活を送ることが困難な重篤な症状に至る人まで様々です。

うつ病の分類は、うつ病を引き起こす原因別に3つに分けられます。

(1)外因性うつ病(身体因性うつ病)
事故などによる脳へのダメージがあった場合や、アルツハイマー型認知症、パーキンソン病、脳腫瘍、更年期障害甲状腺ホルモンの分泌低下を起こす甲状腺機能低下症のような病気、さらに副腎皮質ステロイド薬のような薬剤、ホルモンバランスの崩れなど、怪我や脳疾患など、ほかの病気や物体が原因となって引き起こされるうつ病のことです。
(2)内因性うつ病
遺伝や体質などの先天的な要因が影響して発症するタイプのうつ病です。
何らかの心理的ストレスや喪失体験などの経験が引き金になって発症しやすいと考えられます。
心因性うつ病との区別が難しいタイプです。
(3)心因性うつ病
主にストレスが原因で発症するタイプのうつ病です。
意識・無意識にかかわらず、身内の不幸、大災害、職場や家庭環境内での継続的なストレスなどが原因で起こる反応性のうつ病です。(ストレス反応としてのうつ病)

うつ病の種類

ここでは、うつ病の定義として段階や症状・特徴別にうつ病の種類を大別します。

軽度うつ病
軽度うつとは、社会生活(仕事や就学など)が一応できる状態で、周りからは一見うつ病とはわからないような程度の状態を言います。
軽度と言っても、本人は様々な事(人間関係、仕事、学習、外出)に苦しんでいる場合が多く、放置は禁物です。
状態が軽度なことから、周りからは「怠け者」のように見られてしまうことがあります。
多くの場合は、時間の経過と共に自然治癒するようですが、 特に注意しなくてはならないのは、当初は軽度うつであっても、放置すればいずれは重度のうつに移行する可能性があるという点です。
重度うつ病
重度のうつ病となると、周りもその変化に気づくほど症状が本格化している状態です。 一度うつ病が長期化・重度化すると自然に症状が改善されることは少なく、治療や環境の変化(休養、離職、引越しなど)が必要となります。
季節性うつ病
特定の季節になるとうつ病の症状が現れるもので、季節性情動障害とも言われます。
日照時間に関係しているとも言われており、日照時間の短い東北地方などではうつ病を患う人が多いともされています。
日照時間の短くなる秋から冬にかけて「冬季うつ病」と呼ばれる症状になる人がいることや、5月頃には『5月病』という言葉があったり、雨が多くて天気が悪い梅雨の時期にも季節性うつになりやすいとされます。
仮面うつ病(隠れうつ病)
仮面うつ病とは、うつ病の精神症状(気分の落ち込み、ネガティブ感情など)よりも、身体症状(頭痛やめまい、倦怠感など)が前面に現れるタイプのうつ病のことです。
うつ病の精神症状があっても、強くは現れないため、一見するとうつ病に見えず、自覚が難しいです。
また、自律神経失調症との区別も難しく混同されがちです。
新型うつ/非定型うつ病
新型うつは最近耳にすることが増えてきた言葉です。
従来のうつ病が内向的で自責的な場合が多く、時と場合を選ばず症状が現れるのに対し、新型うつの特徴は、仕事場に限定して症状が出ることが多く、物事がうまくいかない原因を他人のせいにする場合が多いこと、気分の浮き沈みが激しいこと、また仕事場以外では元気だったりする点です。 特に、若い女性(20~30代)にその症状が現れやすいとされ、育った環境などが影響を与えていると推測されています。
症状も仕事場でしか現れないなどの特徴から、怠けグセや甘えなどと混同されることがあるようです。
気分が落ち込んでいても、興味のあることや楽しいことは楽しめるため、『お天気屋うつ病』と呼ばれることもあります。
産後うつ
女性は女性ホルモンの影響から、男性よりもうつ病になりやすいと言われています。
とりわけ、妊娠・出産と言った女性ホルモンが大きく変化する時期にうつ状態に陥りやすく、『マタニティーブルー』と言う軽うつ状態は出産前後の女性のおよそ半数程度にその症状が現れると言われています。
産後の軽うつ症状は、通常は長く続きませんが、それが長期化すると産後うつといわれる状態に陥る可能性があります。
産後うつの症状は通常のうつと大きな違いありませんが、特徴的なものとしては、子育てへの強い不安や自信の喪失、育児放棄など、子供への影響が心配される症状が現れる可能性が指摘されています。
また、女性特有のうつ症状として、産後うつの他にも『更年期うつ』や『月経』に伴う気分の落ち込み(PMS:月経前症候群)など女性ホルモンの変化に伴う症状が挙られます。
退行期うつ病(初老期うつ病)
中年期から老年期に差し掛かる頃で、定年退職や生活環境の変化を経験することで発症するタイプのうつ病です。
初老期うつ病や、定年うつ病などと呼ばれることもあります。
また、女性の場合は、閉経による更年期うつ病も含まれます。
老化による体の衰えで、今まで当たり前に出来たことができなくなったり、定年により社会的地位を失ったことに対する喪失感、歯がゆさ、なんとも言えない気分の焦りや不安を感じるのが特徴です。
双極性障害(躁うつ病)
双極性障害(躁うつ病)とは、気分が病的に高揚する躁状態とうつ状態を繰り返すものを言います。
根本的にはうつ病とは異なる病気として考えられていますが、うつ状態時にはうつ病との区別が非常に難しい病気です。
躁状態のときはテンションが高く、気分や意欲も高まった状態になりますが、うつ状態になると、意欲の低下、気分の落ち込みなどが現れるようになり、これらの状態を不定期に繰り返す病気です。

うつ病の研究が進むにつれ、うつ病として捉える範囲が広まりつつあり、うつ病という病気自体の概念も曖昧になってきているのが現状です。
うつ病は症状や原因に、個人差が特に大きく現れる病気ですので、気分や体の変調を感じたら、我慢せずに専門医に相談する事をお勧めします。

うつ病の症状

うつ病の症状には、以下のようなものがあります。

■うつ病の精神症状の特徴
空虚感や悲しさ/気分が晴れない・落ち込む/ぼーっとする/口数が減る/学校や会社を休みがちになる/集中力がなくなる/運動能力や記憶力の低下/学習能力の低下/細かいことが気になる/自己嫌悪/自尊心の低下/自分には難の価値も無いと感じる/感情が薄れる/以前楽しかったことや趣味に興味がなくなる/ネガティブな感情/自殺願望、など
■うつ病の身体症状の特徴
激しい頭痛/不眠症・睡眠障害/吐き気/口がかわく/便秘/疲れやすい/めまい/動悸/胃炎・胃潰瘍/摂食障害/食欲の低下/体重の減少または増加/性欲の低下、など
※うつ病の8割に不眠、1割に過眠の症状が見られます。

これらの症状に当てはまればうつ病である、と言うわけではありませんが、幾つも当てはまる人は要注意です。

うつ病は、治すことの出来ない病気ではありません。
正しく医師の診断を受け、適切な治療を受ければ8割方の人に効果があると言われています。
ただ、精神の病気であるという性質上、言い出しにくかったりして診断を受けるのを敬遠する人が多く、結果として病状が深刻になってしまうケースがあるようです。

詳しくは >>『うつ病の症状』へ

うつ病の原因

実は、うつ病が発症する原因は諸説ありますが、未だ仮説の域を脱していません。
ここでは主な仮説をご紹介します。

モノアミン仮説
モノアミン系の神経(セロトニンノルアドレナリンアドレナリンヒスタミンドーパミンなど)の低下によりうつ病が起こるとする仮説。

BDNF仮説
脳内の神経細胞を新生させる働きを持つBDNFというタンパク質の一種が減少することが、うつ病の原因であるという仮説です。モノアミン仮説をさらに発展させた仮説として注目されています。

神経損傷仮説
脳の海馬の神経が損傷することによりうつ病を発症するという仮説。この仮説では、遺伝子レベルでその原因の要素が存在するとも考えられている。

病前性格論
心理学的な仮説として有名。
うつ病にかかりやすい病前性格として、メランコリー親和型性格(社会的役割や規範への愛着、几帳面、生真面目、律儀、融通が効かない、など)、執着性格(勤勉、几帳面、責任感が強いなど)、循環性格(社交的で温和だが、優柔不断、決断力が弱い、など)などが挙げられる。 現在は仮説に該当しない、ディスチミア親和型(若年層に多く見られ自己愛が強い傾向、責任を他人に押し付ける、自傷や大量服薬など)、パーソナリティ障害の傾向を持つケースが多数報告されている。

薬物およびアルコールの使用
アルコール依存症うつ病の発症リスクが増加する。
その逆にうつ病がアルコール依存症の原因になることもある。

ライフイベント・社会的要因
近親者との死別・分離、貧困・就業上や人間関係のトラブル、孤立、幼児期の虐待など。

扁桃体の興奮説
過度のストレスなどにより、扁桃体の興奮が副腎を刺激して、コルチゾールというストレスホルモンが慢性的に放出されるようになり、ノルアドレナリンの枯渇、セロトニンの不足などが起こり、うつ病になるという説。

グルタミン酸仮説
グルタミン酸はアミノ酸の一種で体内で神経伝達物質としても機能しており、このグルタミン酸の働きに機能不全が起きることでうつ病の原因になるという説です。

近年はモノアミン仮説から派生した「セロトニン仮説」がよく用いられ、SSRIやSNRIと言ったセロトニンやノルアドレナリンの分泌を促進させる薬が治療に用いられることが多いが、これはうつ病患者のセロトニン分泌量が減少することに着目し、その分泌促進を促す対症療法であり、そもそもなぜうつ病になるのかの原因が特定されているわけではありません。

セロトニン仮説によると、うつ病になる原因は、強いショックやストレスが心身に掛かり、脳内の神経伝達物質の動きが鈍化することにあると言われています。この神経伝達物質がセロトニンノルアドレナリンドーパミンです。

これらの伝達物質のうち、どれかひとつの働きが悪くなったりしてバランスが崩れると、うつ病に限らず心のバランスが崩れてしまうのです。

3つの神経のうち、セロトニンは特に重要な役割を担っており、 他の2つのノルアドレナリン・ドーパミン神経の暴走を制御する役割があるというのです。

うつ病は特にこのセロトニン神経の働きが鈍化することで引き起こされると考えが主流です。

詳しくは >>『うつ病とセロトニン』へ

★次のページでは『うつ病の症状』をご紹介します。