アドレナリンとノルアドレナリンの違い

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興奮した時に分泌される物質の代名詞とも言える『アドレナリン』。似たような名前を持つ『ノルアドレナリン』との違いは何でしょうか?実際、この2つの物質には、名前が似ている以外にも、共に血圧上昇や心拍数上昇の作用を持つなどの共通点がたくさんあるため非常に紛らわしいのです。

アドレナリンとノルアドレナリンの共通点

アドレナリンとノルアドレナリンは、作用や原料などの共通点がたくさんありますので、まず共通点から紹介します。

原材料が同じ
アドレナリンとノルアドレナリンは、ともにチロシンというアミノ酸から生合成される物質です。チロシンは必須アミノ酸であるフェニルアラニンから体内で合成されるアミノ酸の一種で、ドーパミンも含めたカテコールアミンを合成する原料となっています。

前駆体が同じ
アドレナリンとノルアドレナリンは、ともに快感物質であるドーパミンを前駆体として合成される物質です。ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンは、全て交感神経系を興奮させる物質で、抗ストレス作用を持ちます。

合成経路
ノルアドレナリンとアドレナリンの合成経路(原材料から合成される順番)は以下のようになります。
(1)フェニルアラニン(必須アミノ酸)

(2)チロシン(アミノ酸)

(3)Lドーパ

(4)ドーパミン(神経伝達物質)

(5)ノルアドレナリン(神経伝達物質)

(6)アドレナリン(副腎髄質ホルモン)

チロシンやドーパミンといった、共通の物質が経路上流で原料や前駆体になっているのがわかります。

同じような作用を持つ
アドレナリンとノルアドレナリンは、以下のように同じ作用を持ちます。
心拍数の上昇/血圧の上昇/筋肉増強/脂肪の分解促進/消化吸収の制限、など。

同じような作用もありますが、作用する部位に存在する受容体(α1,α2,β1,β2)の種類によって、作用する強度が異なるのが特徴です。こうした、作用の強度や作用場所が異なる特徴を活かし、アドレナリンは止血剤やアナフィラキシーショックの薬として使用される一方、ノルアドレナリンは血圧低下時の昇圧剤に使用されます。

アドレナリン受容体の種類と特徴

全身にあるアドレナリン受容体(アドレナリンやノルアドレナリンの刺激で何らかの作用をする細胞)の特徴を簡単にご紹介します。

 主な作用主な部位
α1受容体血管収縮
血圧上昇
血糖値上昇
脂肪の分解促進
血管平滑筋
α2受容体血小板凝集
交感神経系抑制
鎮痛作用
鎮静作用
自律神経系の末梢
β1受容体心拍数増加
心収縮力増加
心臓
β2受容体血管拡張
血圧低下
気管支拡張
消化機能抑制
気管支・消化管・血管平滑筋

生成される場所の違い

ノルアドレナリンは主に中枢神経系の青斑核(せいはんかく)という場所で多く生成され、その他交感神経系の抹消や副腎髄質でも分泌されます。

一方、ノルアドレナリンからアドレナリンを合成するには、『フェニルエタノールアミン-N-メチルトランスフェラーゼ(PNMT)』という酵素が必要で、これがある場所でしかアドレナリンは合成されません。PNMTはほとんどが副腎髄質に分布し、残り少しが脳内の中枢神経系にも一部存在します。

そのため、アドレナリンは副腎髄質でほとんどが合成されます。(一部脳内でも合成されます。)尚、ノルアドレナリンやアドレナリンが分泌される、副腎髄質での両物質の分泌比率は[アドレナリン17:ノルアドレナリン3]とされます。

作用する場所の違い

ノルアドレナリンは脳の中枢系での働きが主で、怒りやイライラ、やる気などの情動や感情に強い影響を与えます。脳がストレスを感知するとノルアドレナリンが放出され、副腎髄質でアドレナリンの分泌を促進して交感神経系を刺激します。

同時に、ノルアドレナリンは副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)を分泌させて、副腎皮質でのコルチゾールの分泌も促進します。つまりストレスホルモンの分泌はノルアドレナリンが起点となっているという見方もできます。

一方、アドレナリンは中枢系ではわずかしか分泌されず、主に副腎髄質で分泌されるため、肉体(血管や筋肉など末梢神経)への作用は強力ですが、副腎髄質で分泌されたアドレナリンは血液脳関門(BBB)を通過することができないため、脳の精神への作用は限定的です。

精神作用の有無による違い

アドレナリンとノルアドレナリンの最も大きな違いは、脳の精神への作用の大きさです。アドレナリンは血圧上昇など交感神経系へ強い作用を持ちますが、脳の中枢神経系へ直接入ることができないため、副腎髄質で合成されたアドレナリンの精神作用はありません。

一方、脳内で直接合成されたノルアドレナリンは、怒りやイライラ、やる気や恐怖心などの感情を生み出します。

また、こうしたノルアドレナリンの精神作用は、ノルアドレナリンが不足するとうつ病や不眠症、また双極性障害などの精神疾患に関わることが考えられます。

ストレスの種類による違い

アドレナリンもノルアドレナリンもストレスに対して分泌される物質です。ところが、あるストレスを受けたとき、そのストレスが肉体的なストレスなのか、精神的なストレスなのかによって分泌される割合が異なります。

例えば、路上で暴漢に突然襲われたり、トラックに跳ねられそうになったとき、言わば『肉体的なストレス』に直面したときは、ノルアドレナリンよりもアドレナリンが多く分泌します。ところが、上司からパワハラを受けたときや、大事な商談の前に緊張しているときのように、不快な感情を覚えるような『精神的なストレス』を感じたときは、ノルアドレナリンが多く分泌されます。

ストレス経験の学習による違い

何らかのストレスを受ける場合でも、過去の経験の有無によって、アドレナリンとノルアドレナリンの分泌のされ方が変わります。これは人が『ストレスを学習する』ためです。

例えば、過去にそのストレスと同じようなストレスを経験をしたことがあり、脳が『このストレスには前回も対処できたから、今回も対処が可能だ』とか、『前回は失敗したけど、なぜ失敗したか原因はわかっているから、今回は前回よりもうまく対処出来るはず』と直感できるストレスの場合は、アドレナリンはあまり分泌されません。ただ、対処可能な場合でも、脳にとっては不快なストレスであることには変わりないので、ノルアドレナリンは依然として分泌されます。

一方、大きな災害が発生したとき、UFOに誘拐されたとき、お化け屋敷に入ったときのように『経験したことのない未知の恐怖』に遭遇した場合は、アドレナリンの分泌が多くなります。

ストレスの学習は肉体の省エネ機能

闘争か逃走』を司り、身体機能を向上させるアドレナリンが分泌されるということは、その分、体力の消耗が激しいため、脳としては不要なアドレナリンの分泌は出来るだけ避けたいわけです。

そこで、人が様々なストレスを経験する中で、ストレスを学習して順応していくことが出来るよう、ノルアドレナリンやドーパミンと言った物質が分泌されるときに、『物事を記憶して学習する』という作用を働かせることで、アドレナリンという最終兵器を出来るだけ使わなくても良いような仕組み(恒常性維持機構)になっているのです。

要は、アドレナリンが分泌されるような状況は、肉体が酷使されて疲れるのであまり頻発されるのが望ましくないため、アドレナリンの前駆体であるノルアドレナリンにはストレスを学習することで、肉体を省エネさせる働きがあると考えられるのです。

違いの特徴-まとめ

色々と紹介してややこしくなりましたが、アドレナリンとノルアドレナリンの違いを簡単に表すと以下のようになりますので、これだけでも覚えて頂ければ幸いです。

  • アドレナリンの特徴
    アドレナリンは血管や筋肉など、身体への作用が強い
  • ノルアドレナリンの特徴
    ノルアドレナリンは怒りやイライラなど脳や感情への作用が強い

参考文献:サル脳のフェニルエタノールアミンN-メチル基転移酵素の存在と分布

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