チロシンとはアミノ酸の一種で、ドーパミンやノルアドレナリン、アドレナリンの材料となる物質です。
また、細胞の代謝に関わる甲状腺ホルモンや、皮膚を守るメラニン色素の材料になることでも知られています。チロシンは必須アミノ酸であるフェニルアラニンが体内で分解されて合成されるアミノ酸でもあります。
チロシンの効果
チロシンは、脳の意欲や興奮などを司る神経伝達物質『ドーパミン』や『ノルアドレナリン』などの材料になる物質です。チロシンが充足することで、それらの神経伝達物質の働きが促され、ストレスの緩和、抑うつ症状の改善といった効果が見込めます。以下は、ドーパミンとノルアドレナリンの一般的な作用です。
▼ドーパミンの作用
意欲の向上/学習効果の向上/記憶力の向上/運動機能や性機能の向上/疲労緩和/モチベーションの向上
▼ノルアドレナリンの作用
心拍数・血圧の上昇/心身の覚醒/気分の高揚/集中力や判断力の上昇/抗ストレス作用/痛覚遮断
▼アドレナリンの作用
チロシンは、交感神経系の刺激に欠かせない、アドレナリンの合成を促進させるため、チロシンを摂取することで、交感神経系を興奮させ、血圧や体温を上昇させる効果があります。交感神経系の興奮により脳が覚醒し、集中力や運動能力の増加が見込まれます。
▼強い抗ストレス作用
脳がストレスを感じると、ストレスに対抗するためにノルアドレナリンやアドレナリンなどのストレスホルモンが分泌され消費されます。ストレスホルモンの消費が続くと、それらの物質が不足して、ストレスに抗う力弱くなり、次第に疲労を感じやすくなったり、気分が落ち込みクヨクヨしたりしやすくなります。チロシンを摂取することで、ノルアドレナリンやアドレナリンを新たに作り出す原料となるため、抗ストレス作用の増強に繋がります。
その他にも、チロシンは甲状腺ホルモンや、メラニン色素の原料にもなります。甲状腺ホルモンとメラニンの効果もご紹介します。
▼甲状腺ホルモンを生成
チロシンは甲状腺ホルモンの原料となります。
甲状腺ホルモンには、以下の様な効果や作用があります。
炭水化物、たんぱく質、脂質などの合成と分解を促進する
臓器の酸素消費量を増大させて、細胞の新陳代謝を活性化させる
成長ホルモンの合成を促進する
胎児の発育や子供の成長を促す
熱産生を行い体温を上昇させる
▼メラニン色素を生成
チロシンはメラニン色素の原料となります。
メラニン色素には、白髪予防や皮膚細胞のガン化を抑制する作用があります。
チロシンが不足すると
チロシンが不足すると、チロシンが原料となっている、ドーパミンやノルアドレナリンなどの神経伝達物質や、甲状腺ホルモン、メラニン色素などが不足して、気分の落ち込み、意欲の減退、慢性疲労などの症状が現れやすくなります。
チロシンが不足する原因
チロシンは食品のたんぱく質に含まれるアミノ酸の一種です。また、チロシンは必須アミノ酸であるフェニルアラニンから合成されるアミノ酸でもあります。チロシンはバランス良い食生活を心がければ不足しにくい物質ですが、ダイエットや偏食などによって、フェニルアラニンの摂取量が不足すると、その代謝物であるチロシンも不足してしまう原因となります。
チロシンが不足したときの症状
チロシンが不足することで、起こりやすいのは気分の落ち込みや意欲の減退といった、抑うつ症状です。これはチロシンが原料となって生成される、ドーパミンやノルアドレナリンの生成が滞ることで起こると考えられます。
▼主な症状
意欲の減退/気分の落ち込み/無気力/イライラ・怒りっぽい/ストレス耐性の低下/学習能力の低下/集中力の低下/記憶力の低下/依存症状/疲労感・疲れやすい/体温低下/免疫力低下/過眠/肥満/運動機能の低下/性機能の低下/白髪増加
▼成長期の乳幼児に起こりやすい症状
成長期の乳幼児にチロシン不足が起こると、甲状腺機能低下症の原因となる可能性があります。甲状腺機能低下症では、甲状腺ホルモンや成長ホルモンの分泌が減って、発達障害や成長障害が起こる可能性があります。
▼慢性疲労症候群
慢性疲労症候群は、チロシンを摂取することで症状に改善がみられる場合があります。そのため、チロシンやチロシンによって生合成される物質(ドーパミンやノルアドレナリン、甲状腺ホルモンなど)が慢性疲労症候群に関わっている可能性が考えられます。慢性疲労症候群とは、原因不明の疲労感が長期に渡って現れる症状のことです。ストレスによる副腎疲労や甲状腺ホルモンの分泌異常が原因とも考えられています。
▼過眠と不眠
チロシンが不足すると、過眠や不眠の症状が現れる可能性があります。これらの症状は一見、相反する症状ですが、ストレスによてってノルアドレナリンが枯渇することで起こる過眠症状、またノルアドレナリンの枯渇により引き起こされるセロトニンの不足によって起こる不眠症状は、チロシン不足が慢性化することでそれぞれ引き起こされる可能性があります。
チロシンを増やすには
チロシンは、食品のたんぱく質に含まれるアミノ酸で、食事によって食品からチロシンを摂取することで体内に取り込むことが出来ます。また、チロシンは必須アミノ酸であるフェニルアラニンから合成される物質でもあり、フェニルアラニンを摂取することでも、チロシンを増やす効果があります。その他、チロシン含有のサプリメントなども人気があります。
チロシンを多く含む食材
チロシンを豊富に含むのは、乳製品や豆類、肉類などたんぱく質を豊富に含む食材です。
- 乳製品(カゼイン、チーズ、ヨーグルト、牛乳)
- 豆類(大豆、湯葉、高野豆腐、きなこ)
- 小麦タンパク(グルテン、生麩(なまふ)、焼き麩)
- 赤身魚(かつおやマグロ)
- 肉(豚肉、牛肉、鳥胸肉)
- すじこ、たらこ
- しらす干し
特に『カゼイン』という牛乳に含まれるたんぱく質の一種にチロシンは豊富に含まれています。しかし、カゼインに含有される成分の「α-casein」は牛乳によるアレルギー症状を起こす主原因でもあるため、カゼインの大量摂取は注意が必要です。
チロシンの摂取量の目安と過剰摂取の副作用
▼チロシンの摂取量の目安
WHOの推奨摂取量は成人の場合、体重1kg当り25mgが目安となります。
※ただし、チロシンとフェニルアラニンの合計摂取量
・WHOの推奨摂取量
体重60kgの人の場合、[60x25mg=1,500mg]が摂取量の目安です。
Protein and amino acid requirements in human nutrition-WHO
また、アメリカのNCBI(国立生物工学情報センター)のレポートによると、体重1kg当り150mgを3ヶ月間まで安全に摂取できたという報告がありますので、この数字を摂取上限と考えると良いかもしれません。
・NCBIのレポートに基づく摂取量
体重60kgの人の場合、[60x150mg=9,000mg]が摂取量の目安です。
The effects of tyrosine on cognitive performance during extended wakefulness.-NCBI
チロシンはフェニルアラニンからも合成されるアミノ酸であるため、バランスの良い食事を取っていれば不足しにくい栄養素だといえます。ただし、過度のダイエットや偏食、好き嫌いには注意が必要です。
▼過剰摂取による副作用
チロシンは体内で合成されるアミノ酸でもあるため、毒性はなく、重篤な副作用の報告もありません。ただ、大量に摂取すると、血圧の上昇を招く恐れがあり、大量摂取が慢性化すると血管に負担がかかり、高血圧症や心筋梗塞、脳卒中の原因となる可能性があります。また、チロシンの過剰摂取は「甲状腺機能亢進症」という甲状腺ホルモンが過剰分泌する病気の原因になる可能性があります。甲状腺ホルモンの過剰分泌する甲状腺機能亢進症の原因のひとつには、バセドウ病があります。
また、チロシンを過剰摂取すると、メラニン色素が必要以上に合成されて、皮膚に「シミやそばかす」を発生させやすくなる可能性があります。
尚、アミノ酸の大量摂取は、その種類を問わず、腎臓や肝臓といった臓器の負担を増大させます。それらの臓器に疾患がある場合、また妊娠中や授乳中の場合も、必ず事前に医師への相談をして下さい。
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