昔から「寝る子は育つ」と言われる理由は、成長期の子供の睡眠中には成長ホルモンが分泌され、急速に身長や骨格を成長させるためです。実は、成長ホルモンは子供だけでなく、成長期が終わった後の大人にも分泌され続けるということは意外と知られていません。大人にとっても、成長ホルモンは非常に重要な役割をしているのです。

成長ホルモンとは

成長ホルモン(Growth Hormone, GH)は、主に脳下垂体前葉の「GH分泌細胞」という細胞から分泌されるホルモンです。

成長ホルモンの分泌は、主に脳の視床下部で分泌される成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)と成長ホルモン分泌抑制ホルモン(ソマトスタチン,SRIF)という二つのホルモンによって調節されます。

  • 成長ホルモン放出ホルモン(GHRH)は成長ホルモンの分泌を促進します。
  • 成長ホルモン分泌抑制ホルモン(SRIF)は成長ホルモンの分泌を抑制します。

また、成長ホルモンは空腹時(血糖値が低下したとき)に胃から分泌されるグレリンというタンパク質によっても分泌が促進されます。

成長ホルモンの効果と作用

成長ホルモンの主な作用は「成長に関する作用」と、「代謝をコントロールする作用」の二つがあります。これを分類すると以下のようになります。

1.身長を伸ばす
これは一般的に最も知られている成長ホルモンの作用ではないでしょうか。幼児期から成長期にかけては、生涯の中でも成長ホルモンの分泌が特に活発に行われる時期です。
成長ホルモンはIGF-1(ソマトメジンC)という成長因子の分泌を促進して、骨端線という骨細胞の分裂や増殖を促し、身長や骨格が成長していきます。成長期が終わると、成長ホルモンは分泌量が減り始めます。また、ほとんどの場合、身長を伸ばす効果も成長期以降は失われます
つまり、身長を伸ばすには、成長期に多くの成長ホルモンを分泌させることが重要です。成長ホルモン以外に、身長を伸ばす作用のあるホルモンとして、主なものに甲状腺ホルモンエストロゲンがあります。
2.疲労や怪我からの回復
もう一つの重要な成長ホルモンの働きです。成長ホルモンには、疲労・破損した体組織を修復・再生する働きがあります。肉体を酷使した場合(つまり筋肉の疲労)や、身体に怪我を負った場合、成長ホルモンがその細胞や体組織に働いて、回復させます。
激しい運動や筋トレをしたあとに、筋肉が修復されて大きくなるのもこうした成長ホルモンの働きによるものです。
3.病気への抵抗力、生活習慣病の予防
成長ホルモンは、体組織の修復・再生をする働きがあるため、体を修復し、体力を回復させることで、身体の働きを正常に保ち、病原体(菌やウイルス)や病気への抵抗力・免疫力を高める働きがあります。また、成長ホルモンの分泌が盛んな睡眠中は、同時に睡眠ホルモンのメラトニンが分泌される時間でもあります。良質な睡眠を取ることは、メラトニンの抗酸化作用とNK細胞の活性作用なども相乗効果となり、免疫力の強化と生活習慣病の予防にも繋がります。
4.美肌、アンチエイジング
成長ホルモンには、体の様々な組織の修復・再生をする働きがありますが、肌もその一つです。成長ホルモンは、睡眠中に肌の新陳代謝を活発化させたり、血行を良くして肌の老廃物を取り除いたりしてくれるため、肌がスムーズにターンオーバーするためにも、美肌やアンチエイジング、シミやシワの防止のためにも、成長ホルモンの分泌は必要不可欠です。
5.脂肪を分解する
太りやすさには日々の運動量や基礎代謝量も関係していますが、成長ホルモンの分泌量も大きく関係しています。成長ホルモンは、体組織の修復・維持をする際に、体脂肪を分解して血中に放出します。分解され血中に放出された脂肪は遊離脂肪酸と言われ、エネルギー源として利用されます。
6.髪の毛の発育
成長ホルモンが再生させる体組織の一つとして、髪の毛も該当します。身体の各組織のうち、生命を維持する上で、より重要な役割を担っているのは、脳や内臓組織です。そのため、一般的にはそうした重要な組織ほど、成長ホルモンによって修復・再生されやすく、髪の毛や肌、爪などのは後回しになりやすい場所です。つまり、成長ホルモンの分泌が不足すれば、真っ先に影響を受けやすい部位でもあります。
抜け毛の原因は、遺伝や男性ホルモンの多寡、栄養不足や加齢など、様々な原因がありますが、成長ホルモンの不足も原因の一つと考えられています。
7.血糖値の維持
成長ホルモンには血糖値が低下しすぎるのを防ぐ働きがあります。血糖値が一定値以下(60-65mg/dL以下)になると、それ以上低血糖状態が進行するのを防ぐため、成長ホルモンが分泌されて肝臓でのグリコーゲンの分解を促して、血糖値を上げるよう働きます。
成長ホルモン以外にも、コルチゾールグルカゴンアドレナリンなどが血糖値上昇作用を持ちます。

★成長ホルモンの働きを簡単に表すと、成長ホルモンは人体の様々な機能を正常に保つ働き(代謝の促進、免疫力の向上、神経細胞の修復と再生、皮膚や髪の毛、骨や筋肉など体細胞の修復と再生、など)をしているということです。

年齢で異なる成長ホルモンの働き

成長ホルモンは、子どもだけでなく大人にも分泌されるホルモンですが、幼児期、成長期、成人後、中年、老年と、各年齢によって成長ホルモンの分泌量や働きは異なってきます。

幼児期~成長期後
幼児期から成長期が終わる(15歳~16歳)までの間は、人生のうちで最も成長ホルモンの分泌が活発な時期です。この時期特有の成長ホルモンの役割は、一般的な成長ホルモンの効果として知られる、文字通り『体を成長させること』です。

具体的には、身長を伸ばすこと(実際は骨を伸ばすこと)と、それに伴い体組織(筋肉や臓器など)も同時に成長・発達させることです。成長期には成長ホルモンの作用により、細胞は活発に細胞分裂を行い、体を成長させていきます。

この時期の成長ホルモンの作用
身長を伸ばす(骨を伸ばす)/体組織の発達(筋肉や臓器)/体組織の修復と再生/代謝促進

成人後~大人(青年期)
成長期が終わり成人を迎える頃になると、成長ホルモンの分泌量は加齢とともに徐々に減少していき、体の成長も鈍化していきます。(個人差があります。)

成人後の成長ホルモンの役割は、成長期のそれとは少し変わってきます。この時期の成長ホルモンの役目は、体を成長させることではなく、成長が終わり成熟した体をメンテナンスして維持していく時期です。

この頃の成長ホルモンの主な作用は、肌、筋肉、骨、髪の毛、臓器など、体内の体組織や細胞などを修復したり再生したりと、細胞の新陳代謝を活性化することです。

この時期の成長ホルモンの作用
体組織の修復と再生/代謝促進/体組織の発達作用は次第に失われる身長を伸ばす作用は次第に失われる

中年~老人
中年期以降は成長ホルモンの減少による影響が顕著に現れはじめます。成長ホルモンの減少と共に、成長ホルモンの作用も限定的になっていきます。

体組織の修復や再生する力は損なわれれていきます。脳細胞や肉体を支える細胞たちは、細胞分裂の限界を迎え、どんどん減っていきます。細胞が減ることで、顔にはシワが増え、髪の毛は薄くなり、筋肉は細くなり、体は以前よりも小さくなっていきます。

免疫細胞も少なくなるため、免疫力も低下していき、様々な疾患にかかりやすくなります。脳細胞も減少するため、記憶力や集中力が衰えたり、認知機能も低下しやすくなります。

こうした現象はまさに肉体の老化でもあり、『老い』を実感する時期となります。

男女ともに更年期が重なる時期でもあるため、ホルモンバランスの乱れなどにより、精神的にも不安定になりやすい時期でもあります。

この時期の成長ホルモンの作用
代謝促進/体組織の修復と再生作用は次第に失われる

成長ホルモンが不足すると?

成長ホルモンは幼児期から成長期に多く分泌され、成長期を過ぎると急激に分泌量が減少します。成長ホルモンの不足は「成長過程にある子ども」と「成長期以後の大人」では、意味合いが異なります。

子どもにとっての成長ホルモン不足
成長過程にあり、成長ホルモンの分泌が特に活発に行われるべき子どもたちにとっての成長ホルモンの不足は、正常な身体の発育の阻害に繋がります。

成長ホルモンの分泌異常で起こる疾患のひとつに、下垂体前葉の機能低下により成長ホルモンが分泌されにくく、身長の伸びが著しく遅くなる「成長ホルモン分泌不全性低身長症」があります。有名なサッカー選手のメッシもこの病気で幼少期は成長ホルモンを投与する治療を受けていました。

大人にとっての成長ホルモン不足
大人にとっての成長ホルモンの不足は、一般的な概念で言うと、「老化しやすい」ということにつながります。

成長ホルモンは、成人以降は加齢共に減少していくことは自然なことですが、 成人にとっても体の様々な機能の維持に必要不可欠で、分泌量が減ることで、細胞の再生能力が低下して、記憶力、肌のハリ、髪の艶など、細胞の量が減っていくに従って心身の機能低下が起こります。

また、成長ホルモンが減ると、筋肉が減少して基礎代謝量も減るので、肥満体質やメタボにもなりやすくなり、肥満や乱れた生活習慣が相まると、様々な生活習慣病(動脈硬化、心筋梗塞、糖尿病など)にもかかりやすくなります。

こうして成長ホルモンの不足は「老い」につながっていきます。

詳しくは『成長ホルモンが不足すると』をご覧ください。

成長ホルモンを増やすには?

成長ホルモンを増やすには、実は特別な事をする必要はありません。

しっかりとバランスよく食事を取り、適度の運動をして、充分な睡眠を取ることです。成長ホルモンの原材料はタンパク質(肉や魚、穀類豆類などに含まれる)で、成長ホルモンが主に分泌されるのは運動後や睡眠中だからです。

人は本来、お腹が空いたらご飯を食べ、朝起きて夜眠りますので、夜に眠っている間に、勝手に成長ホルモンが分泌され、知らず知らずのうちに体の組織の再生をしてくれているのです。

ただし、睡眠の質が悪いと成長ホルモンの分泌効率は悪くなります。成長ホルモンは睡眠のうち、特に睡眠の深い『徐波睡眠』と言われる睡眠時に多く分泌されます。睡眠の質が悪いと眠りが浅くなりやすく、徐波睡眠が発生しにくくなります。

詳しくは『成長ホルモンを増やす3つのポイント』をご覧ください。

メラトニンが睡眠の質を改善する上で重要

睡眠の質が悪くなる原因のひとつは、睡眠ホルモン『メラトニン』の分泌量が不十分である場合です。メラトニンは成長ホルモンの分泌が増加する徐波睡眠の発生率を高める働きを持ちますので、メラトニンをしっかりと分泌させることも成長ホルモンの分泌を増やす上では重要となります。

さらに、メラトニンには直接成長ホルモンの分泌を促進する作用はありませんが、視床下部に作用して睡眠の質を高め、睡眠の質が向上させる作用があります。視床下部への刺激は成長ホルモンの分泌を司る脳下垂体に作用し、成長ホルモンの分泌も促進されるため、メラトニンは間接的に成長ホルモンの分泌をサポートしているといえます。

現代人の多くは睡眠不足

成長ホルモンを分泌させるのに、特別なことは必要ありません。

しかし、ここで多くの人に困った問題が生じます。我々現代人は、偏った食事をして、不規則な生活を送り、睡眠時間が不足しているのが現実です。これは大人に限らず、成長期の子供にも言えることです。

成長ホルモンを沢山分泌させて、大人はいつまでも健康で若々しく、子供はしっかりと成長するために、一番難しいことこそ、『規則正しい生活を送ること』なのかもしれません。

睡眠不足で起こる成長ホルモンの減少と疲労の蓄積

不規則な生活や睡眠不足は成長ホルモンの減少を招く恐れがあります。そして、成長ホルモンの減少は、脳や体の疲労の蓄積へとつながります。

成長ホルモンが減少すると、体組織や細胞の修復や再生が滞ることを意味します。これは単に肌荒れや皮膚トラブルが起こるだけでなく、脳や体を機能させるのに必要な細胞のメンテナンスが十分に行われなくなることで、怪我や疲労の回復が遅れることにつながります。

そのため、成長ホルモンが減少すると、脳や体は疲労を感じやすくなるのです。

脳の細胞のメンテナンスが遅れると、やる気や集中力、意欲などが低下して、脳はすぐに疲労を感じやすくなります。肉体の細胞の修復が遅れれば、傷ついた骨や筋肉は中々もとに戻らず、疲れがたまったまま体が重たく感じて、思うように動かすことができません。

忙しい現代社会では、睡眠がどうしても不足しがちです。睡眠不足により成長ホルモンが減少しないようにするには、限られた睡眠時間で、効率よく成長ホルモンを分泌させることが重要となります。

成長ホルモンが分泌される時間帯『睡眠のゴールデンタイム』

成長ホルモンの分泌は絶えず行われているわけでは無く、特定の条件下や時間帯で分泌されます。一日の中で成長ホルモンが最も分泌されるチャンスは、夜の睡眠中、しかも『眠りに落ちた直後』です。

入眠後の最初の徐波睡眠(ノンレム睡眠)
成長ホルモンは、食事や運動後にも僅かずつ分泌されますが、最も多く、ほとんどの量が分泌されるのが夜間の睡眠中で、特に、入眠後の30分後~1時間後以降に現れる、一番最初の徐波睡眠中(ノンレム睡眠の中でも特に深い眠り)に多くの成長ホルモンが分泌されます。
よくダイエットやアンチエイジングの記事などで、睡眠のゴールデンタイムとか、睡眠最初の4時間が重要、とか言われるのは、脂肪の分解やアンチエイジングの効果を持つ、成長ホルモンの分泌が入眠後の時間に集中しているためです。
その後、睡眠中はレム睡眠とノンレム睡眠を繰り返し、ノンレム睡眠を迎えるたびに徐々に量を減らしながら分泌され、起床時には成長ホルモンの分泌はほぼ止まります。深いノンレム睡眠の発生は、睡眠の質とも深い関わりがあり、睡眠の質が悪いと、眠りが浅くなるため、成長ホルモンが分泌されにくくなってしまいます。
成長ホルモンを分泌しやすくする『良質な睡眠』を取るには、『快眠のための10のコツ』をご覧下さい。
睡眠と成長ホルモンに関する詳しい情報は、『睡眠と成長ホルモン』をご覧ください。

その他の成長ホルモンの分泌タイミング

睡眠中が最も成長ホルモンが分泌されやすい時間帯ですが、その他にもいくつか成長ホルモンが分泌されやすいタイミングがあります。一日のうちで「運動をした後」、「空腹を感じたとき」にも成長ホルモンが若干分泌されやすくなります。

運動した後
運動した後は成長ホルモンが分泌されやすくなります。運動や肉体労働をすると、筋肉や細胞組織が破壊されます。それを修復・再生するために、成長ホルモンが分泌されます。特に、筋肉への負荷が強い、無酸素運動が成長ホルモンを分泌させるには有効であると言われています。
空腹時
空腹になると成長ホルモンが分泌されやすくなります。成長ホルモンには血糖値を維持させる作用があり、空腹になり血糖値が低下すると、胃からグレリンというペプチドホルモンが分泌され、成長ホルモンの分泌を促して、血糖値が下がり過ぎないように維持させる働きをします。満腹で常に血糖値が高い状態だと、成長ホルモンの分泌は減り、太りやすくなります。
ただし、食事と食事の時間を空けすぎたり、一度の食事で食べ過ぎると、血糖値の急上昇や急降下が起き、糖尿病のリスクが高まります。

意図して空腹を作ることは、(糖尿病リスクなど)人によっては弊害もあるためあまりお勧め出来ませんが、運動は多くの人にとって、成長ホルモンの分泌以外にも様々なメリットがあリますので、是非取り入れていただきたい生活習慣です。

★次のページでは『成長ホルモンを分泌させる5つの条件』をご紹介します。