アドレナリンの働きは生物の生存本能そのものと言っても過言ではなく、非常に強力な作用を持っています。アドレナリンが大量に分泌されるような状況下では、人間の三大欲求(食欲、睡眠欲、性欲)でさえ制限されます。

アドレナリンの効果や作用

アドレナリンの作用の根幹は、体内の血管の拡張や収縮を操り、場所によって血圧を上げたり下げたりして、血流をコントロールすることで、ストレス下においても、適切な判断と迅速な行動が出来るようにすることです。こうした、血圧が上がったり下がったりと、一見相反するような働きは、体内に分布するアドレナリン受容体の働きによって起こります。

血管の拡張と収縮

アドレナリンが分泌されると、体内の血管が部位によって拡張や収縮を起こします。その結果、場所によって血圧が上がったり下がったりします。

末端組織では血行不良
皮膚や頭皮、粘膜、指先などの体の末端部分(運動や思考に重要でない場所)では血管が収縮し、血流が制限されて血流が悪くなります。運動時など、短時間のアドレナリン分泌であれば、血流が悪くなっても影響は殆どありませんが、強いストレスに晒されるなどして、アドレナリンが分泌され続けると、末端部分の血行不良により、冷え症や抜け毛の増加と言った症状が起こることがあります。

骨格筋では血流増加
体を動かすための骨格筋(運動するために筋肉)では、アドレナリンが分泌されると血管が拡張して血流が増加します。すると筋肉内の血流も多くなるため、筋肉がより多くエネルギーを生み出すことが出来るようになり、運動能力の向上につながるのです。

心筋では収縮力アップ
全身へ血液を送るポンプである心筋(心臓壁の筋肉)は、収縮力を増し脈拍は速くなり、血液循環が活性化されます。緊張したときにドキドキと心臓の鼓動が高まるのを感じるのはこのためです。

内臓機能は制限される
アドレナリンが分泌されると、内臓機能のうち、胃や腸などの消化器官に存在する血管平滑筋は弛緩(拡張)して活動が抑制され、消化や吸収、排便などの機能が制限されます。また、腎臓の働きも制限され利尿機能も制限されます。

アドレナリンによる血管への一連の作用のイメージは、飛んだり走ったりするときに必要なところ(筋肉)ではより血流を増やして、必要でないところ(皮膚や内臓)では減らす、というものです。

気道拡大・呼吸数の上昇

アドレナリンが分泌されると、気道は拡張して呼吸は荒く、速くなります。すると、細胞の主たる活動エネルギーである『酸素』を肺がより多く取り込むことが出来るため、身体がより長い時間活動することが可能になります。

血糖値上昇

アドレナリンが分泌されると、肝臓や筋肉に蓄えられたグリコーゲンの分解が促進されます。肝臓では糖新生が起こり、グリコーゲンが血中に放出されることで血糖値が上昇し、脳の覚醒レベルが保たれます。これがアドレナリンによる集中力判断力を高める効果を生み出していると考えられます。また、筋肉の活動エネルギーとなるグリコーゲンを供給することで、筋肉が継続して活動出来るようになります。

脂肪の燃焼促進

アドレナリン受容体(アドレナリンの刺激に特定の反応をする細胞)のうち脂肪細胞内にあるβ3受容体は、アドレナリンが分泌されると、全身の筋肉のエネルギーとして必要な脂肪酸を産生するために、脂肪細胞の燃焼を促進させて、血中に遊離脂肪酸を放出します。

体温上昇と発汗増加

アドレナリンの分泌によって筋肉や体組織の血流が増加すると、その分筋肉でのエネルギー消費も増し、筋肉は熱を生み出して体温は上昇します。しかし、体温が過度に上昇し続けると脳にダメージを与えるため、体温の上昇に伴い汗腺からの発汗が増加して、熱を速やかに体外へ排出して体温は調節されます。

鎮痛作用

アドレナリンのα2受容体は、痛みを抑制する鎮痛作用を持ちます。

生き物が外敵に襲われて生命の危機に瀕しているとき、その状況から逃げ切るか、相手を攻撃して退けるしか生き残る方法はありません。そんな状態のとき、『痛み』という体の動きや判断を鈍らせる感覚は不要です。アドレナリンは、生命の危機的状況下では痛覚を遮断し、例え肉がちぎれ、骨が折れたとしても、体が動くようにするのです。

人間も普段の生活の中では、その持てる力の全てを使うことはできないと言われています。それは肉体や筋肉を激しく酷使してしまえば、体が壊れてしまうからで、普段は脳がリミッターをかけている状態なのです。いわゆる『火事場の馬鹿力』と言うのは、アドレナリンの分泌によりそのリミッターが外れた状態です。

アドレナリンがドバドバ分泌されるような極限状態では筋力が通常の限界を超えて発揮され、老人が火事場から金庫を一人で抱えて持ちだしたとか、女性が車を持ち上げたなどという話があるほどです。

ダイエット効果

運動などをしてアドレナリンが分泌されると以下のようなことからダイエット効果が期待できます。

  • 食欲低下
  • 脂肪燃焼促進
  • 新陳代謝アップ

アドレナリンが分泌されると、血糖値が上昇して食欲が抑制されます。運動をするとエネルギーが消費されるためにお腹が空いてしまうと考えてしまいがちですが、実際はアドレナリンが分泌されることで食欲は低下します。また、アドレナリンには脂肪細胞の燃焼を促進する効果もあります。さらに、運動をすると体温が上がり、新陳代謝を高める効果も期待できます。つまり食欲低下と脂肪燃焼効果、新陳代謝アップが得られる『運動』は、ダイエットには最適なのです。

アドレナリンの副作用

アドレナリンが分泌されることで起こる、体への副作用や悪影響をご紹介します。

動悸

緊張するとアドレナリンが分泌されて、心臓はドキドキと動悸が激しくなります。動悸が頻繁に起こると、心筋への負担が増すことから、心筋梗塞を招く恐れが増えます。また、動悸により脳への血流が増えると、脳が混乱して、パニック症状を起こすこともあります。

不安やイライラ

脳の危機管理センターとも言える『扁桃体』が、何らかのストレスを察知するとアドレナリンが分泌されます。ストレスは本来、命の危機や外敵の脅威を知らせる警告シグナルであり、ストレスを察知してアドレナリンが分泌されると、脳は不安、イライラ、といった不快感を感じることで、その状態を脱しようとするわけです。こうした不安やイライラが長く続くと、心の平静を脅かし、抑うつ症状が現れる原因になるほか、自律神経系のバランスを崩して自律神経失調症を起こす原因にもなります。

血圧上昇

アドレナリンによる血圧の上昇は、運動やスポーツなど一時的なものであれば、心肺機能を刺激して、心身を健全に保つ効果があります。ところが、ストレスが長く続くと、常に血圧が高い状態が続き、慢性的な高血圧症になると、全身の血管は傷つき動脈硬化を起こして、心筋梗塞、脳梗塞、くも膜下出血、などの重大疾病に繋がる恐れがあります。

睡眠障害

アドレナリン分泌による交感神経系の興奮は、脳を覚醒させて、睡眠を阻害します。ストレスでアドレナリンが分泌されるような状態が続くと、寝付きが悪くなったり、眠りに就いても眠りが浅かったりと、睡眠の質を悪化させます。さらに症状が続くと、不眠症を起こしたり、うつ病などの精神疾患を発症することもあります。

血行不良

アドレナリンによる血管への作用は、皮膚や指の先など、体の末端細胞では血行不良を招きます。血行不良が続くと、肩のコリ、冷え症の発症、抜け毛の増加、性機能の抑制などにつながります。

免疫力低下

交感神経系が興奮してアドレナリンが分泌されると、副交感神経系は抑制されます。すると副交感神経系が担う免疫作用などの働きも抑制されるため、免疫力が低下して、風邪を引きやすくなったり、病気に罹りやすくなります。


このコーナーでは、アドレナリンについての話題を全3ページで紹介しています。
★次のページでは『アドレナリンとストレス』をご紹介します。

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