ストレスの種類による分泌の違い
アドレナリンもノルアドレナリンもストレスに反応して分泌される物質です。ところが、ストレスを受けたとき、そのストレスが肉体的なストレスなのか、精神的なストレスなのかによって分泌される割合が異なります。更に、同じストレスを過去に受けたことがあるかどうかでも、分泌のされ方が変わってきます。
肉体ストレスと精神ストレスによる違い
例えば、路上で暴漢に突然襲われたり、トラックに跳ねられそうになったとき、言わば『肉体的なストレス』や『生命の危機』に直面したときは、ノルアドレナリンよりもアドレナリンが多く分泌されます。肉体的なストレスへの対抗手段として、血圧を上げて、筋力をアップする必要があるためです。
ところが、上司からパワハラを受けたときや、大事な商談の前に緊張しているときのように、不快な感情を覚えるような『精神的なストレス』を感じたときは、ノルアドレナリンが多く分泌されます。精神的なストレスは、肉体ではなく感情への作用や影響が強いためです。
ストレス経験の学習による違い
人の脳には、過去に経験したストレスを記憶・学習する仕組みも備わっています。
何らかのストレスを受ける場合でも、過去の経験の有無によって、アドレナリンとノルアドレナリンの分泌のされ方が変わります。これは人が『ストレスを学習する』ためです。
例えば、過去にそのストレスと同じようなストレスを経験をしたことがあり、脳が『このストレスには前回も対処できたから、今回も対処が可能だ』とか、『前回は失敗したけど、なぜ失敗したか原因はわかっているから、今回は前回よりもうまく対処出来るはず』と直感できるストレスの場合は、アドレナリンはあまり分泌されません。ただ、対処可能な場合でも、脳にとっては不快なストレスであることには変わりないので、ノルアドレナリンは依然として分泌されます。
一方、大きな災害が発生したとき、UFOに誘拐されたとき、お化け屋敷に入ったときのように『経験したことのない未知の恐怖』に遭遇した場合は、アドレナリンの分泌が多くなります。
ストレスの学習は肉体の省エネ機能
『闘争か逃走』を司り、身体機能を向上させるアドレナリンが分泌されるということは、その分、体力の消耗が激しいため、脳としては不要なアドレナリンの分泌は出来るだけ避けたいわけです。
そこで、人が様々なストレスを経験する中で、ストレスを学習して順応していくことが出来るよう、ノルアドレナリンやドーパミンと言った物質が分泌されるときに、『物事を記憶して学習する』という作用を働かせることで、アドレナリンという最終兵器を出来るだけ使わなくても良いような仕組み(恒常性維持機構)になっているのです。
要は、アドレナリンが分泌されるような状況は、肉体が酷使されて疲れるのであまり頻発されるのが望ましくないため、アドレナリンの前駆体であるノルアドレナリンにはストレスを学習することで、肉体を省エネさせる働きがあると考えられるのです。
最初は怖かったお化け屋敷も、何度も通うと恐怖が薄れていくのはこうした学習機能によるものと言えます。
違いの特徴-まとめ
色々と紹介してややこしくなりましたが、アドレナリンとノルアドレナリンの違いを簡単に表すと以下のようになりますので、これだけでも覚えて頂ければ幸いです。
- アドレナリンの特徴
アドレナリンは血管や筋肉など、身体への作用が強い - ノルアドレナリンの特徴
ノルアドレナリンは怒りやイライラなど脳や感情への作用が強い
参考文献:サル脳のフェニルエタノールアミンN-メチル基転移酵素の存在と分布
photo credit: This was a timely capture (license)