BDNF(Brain Derived Neurotrophic Factor,脳由来神経栄養因子)とは、脳の神経細胞の成長や新生を促すタンパク質の一種です。BDNFは、ストレスなどで神経細胞が傷つかないように保護し、神経ネットワークの維持のために働きます。平たく言えば、「脳の機能を正常に保つ働きをしている物質」であると言えるでしょう。

BDNFの効果

BDNFは脳内では海馬や大脳皮質などに高濃度に分布しており、運動や学習、経験、記憶したことを効率的に海馬に記憶しておくために重要な役割を持っていると考えられています。

特に、学習能力との関わりが大きく、脳内のBDNFを増加させれば、学習能力が向上して、学業や仕事の能率アップに繋がる可能性があります。

BDNFは加齢によって減少することが明らかになっており、加齢によって発症率が増える認知症やアルツハイマー病は、BDNFが減少して学習機能に障害が起こることが原因のひとつであると考えられています。

認知症以外にも、うつ病や運動障害など、加齢によってBDNFが減少することで発症率が上がる可能性のある疾患は少なくありません。

神経伝達物質の合成を促進する

BDNFは、神経細胞を正常に動作させる作用があることから、結果としてセロトニンドーパミンなどの神経伝達物質の合成を正常化させ、記憶の定着や学習効果の最適化、意欲や情動のバランスを整える作用があると考えられます。

BDNFが減少すると精神疾患になることも

うつ病や統合失調症、アルツハイマー病などでは脳内のBDNFが減少していることが確認されており、BDNFは脳内の様々な神経系が正常に動作するための重要な役割を持っていると考えられています。

うつ病の原因として有名な従来のモノアミン仮説などは、矛盾を孕んだ仮説であるとして現在では有力視されていません。

代わりに注目されているのが、脳内のBDNFの減少がうつ病などの発症に関わっているというBDNF仮説(神経可塑性仮説)で、モノアミン仮説など従来の仮説の矛盾点を補強しつつ、うつ病の真の発症原因に迫る仮説として有力視されています。

うつ病など精神疾患の詳しい発症原因は特定されていないものの、BDNFが何らかの形で関与していることは明らかで、BDNFを減らさないようにすること、またはBDNFを増やすことが、心の健康のために重要であるといえます。

BDNFが減少する原因はストレス

脳内のBDNFはストレスによって減少することが明らかになっています。

脳がストレスを感じると、HPA軸の働きによって副腎から糖質コルチコイド(主としてコルチゾール)が分泌されます。

コルチゾールの血中濃度が上昇すると、脳内の様々な神経系がダメージを受けます。コルチゾールによる神経系のダメージはうつ病を始めとした精神疾患の発症原因のひとつであると考えられています。

特に過度のストレスによってコルチゾールが過度に分泌され続けると、HPA軸の働きが破綻し、コルチゾールの分泌が止まらなくなります。

コルチゾールによって脳の海馬扁桃体がダメージを受けて、記憶や感情への影響が生じるのと同様に、またセロトニン神経を始めとした神経系も減弱していき、こうしたダメージがうつ病などの発症に結びついていると考えられています。

脳内のコルチゾールが増加するとき、逆に脳内のBDNFは減少することが明らかになっています。ストレスでコルチゾールの濃度が上昇すると、BDNFのは発現は低下していき、ストレスの解消と共にBDNFの発現も上昇します。

ストレスによって海馬やセロトニン神経系がダメージを受けるのは、コルチゾールが増えた結果なのか、BDNFが減った結果なのか、正確なところはまだまだ分かっていません。

いずれにしても、BDNFは神経細胞の新生や保護の作用があるため、減少するとその分セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン、グルタミン酸、その他様々な神経伝達物質の合成が抑制されることと、BDNFの減少によって起こるセロトニンなどの合成量減少が、うつ病など精神疾患の諸症状を引き起こす原因のひとつになっていることが考えられます。

運動でBDNFが増える

運動は脳内のBDNFを増やす効果があることが確認されています。どのような運動が適しているかをご紹介します。

有酸素運動が効果的
BDNFを増やす運動として、ウオーキングやサイクリングのように、有酸素運動が特に適していると考えられます。尚、ウオーキングやサイクリングは、セロトニン神経を活性化させるリズム運動としても効果的です。

単純な運動が適する
ルールや対人関係が複雑なサッカーやバスケットのような球技よりも、難しいことを考えず運動そのものに集中できる個人運動のほうがBDNFを増やすには効果的です。

比較的短時間の運動
3時間、4時間と比較的長時間の運動ではなく、30分から1時間程度の比較的短時間の運動でもBDNFが増加することが確認されています。30分から1時間程度、継続して行える運動がBDNFを増やす運動として適しているといえます。

運動を習慣化させると増えやすい
BDNFは、単発の激しい運動よりも、運動習慣を長期間継続することでより増加していきます。具体的には週に30分から1時間程度の運動を3日程度、習慣化させると良いでしょう。

BDNFの増やし方をまとめると、ウオーキングやサイクリングなど、単純で没頭できる運動を、30分から1時間程度、週3回、長期間継続して行うことが、BDNFを増やすために最も効果的です。

過度の運動には注意が必要

体を動かす運動は、実はそれ自体が肉体にとってのストレスです。従って、過度に激しい運動をすればその分体に負担が増します。

また、激しい運動で、「運動が辛い(=不快)」と感じれば、脳へのストレスとなり、ストレス反応が起こりストレスホルモンであるコルチゾールの分泌が増えて、BDNFの働きが抑制されてしまうため、逆効果となってしまうことがあります。

特に若いうちは良くても、年を取ってくると激しい運動は怪我や疲労の蓄積など他の心配も出てきます。

また、他人と競い合う運動にもストレスがつきものです。勝った負けたや、他人との優劣でストレスを感じない人なら良いかもしれませんが、多くの人はそうしたことにストレスを抱えがちです。

人と競わず、マイペースに、そして老若男女が長期間飽きずに続けられる運動がBDNFを増やす運動としては適していルノではないかと考えています。

まとめ

  • BDNFは脳の神経細胞を正常に保つ働きをしている
  • BDNFが減ると認知症などになりやすい
  • BDNFを増やすには運動が効果的
  • BDNFを増やせば脳の学習能力が向上するため成績アップにも繋がるかも

photo credit: DeGust Alexandre Larpin @Triathlon Lausanne 2016 (license)