PMS(月経前症候群)は多くの女性が抱える悩みです。PMSが起こる原因は、エストロゲンプロゲステロンからなる女性ホルモンの分泌によるものだと考えられていますが、少し原因を掘り下げると、そこにはストレスが深く関わっているのです。

PMSとは

PMSは女性の生理周期のうち後半に起こります。排卵後から次の生理が始まるまでのおよそ2週間で起こる心身の不調を指す総称です。

PMSが起こる主な原因は、女性ホルモンの分泌バランスの変化、特に排卵日後にプロゲステロンの分泌量が急増することが、主要な原因ではないかと考えられています。

PMSの症状は人によって様々で、また、症状の重度も人によって異なります。一般的には以下のような症状が現れることが多いです。

イライラ、不安、無気力、憂うつ、集中力低下、作業効率の低下、便秘、偏頭痛、肩こり、腰痛、腹痛、乳房の痛みやハリ、眠気、倦怠感、不眠症状、など。

こうしたPMSの症状は人によって軽かったり重かったりしますが、その根底にあるのは、その人の生活リズムや就業環境などによって生じているストレスです。

ストレスによるPMSの悪化

現代社会でストレスは、多くの疾患に関わっており、ストレスによって発症する病気は数知れません。PMSの悪化もストレスによって引き起こされるものの一つです。

ストレスが、PMSを悪化させてしまう理由などをご紹介します。

コルチゾールの減少

脳がストレスを受けると、副腎では『コルチゾール』や『DHEA』といった抗ストレス作用を持つホルモンが分泌されます。コルチゾールやDHEAはステロイドホルモンと呼ばれ、肝臓で合成されるコレステロールが原料となって合成されます。

実は、女性ホルモンであるエストロゲンやプロゲステロンも、コレステロールを原材料とするステロイドホルモンの一種であり、ストレスの影響でコルチゾールの分泌量が増えると、その分コレステロールがコルチゾールによって消費されてしまい、エストロゲンやプロゲステロンの分のコレステロールが不足してしまう場合があるのです。

エストロゲンやプロゲステロンの分泌量、つまりホルモンバランスの乱れは、PMSを発生させる大きな原因の一つです。

もう一つコルチゾールがPMSの悪化に与える影響が、ストレス耐性の低下です。ストレスが長く続くと、副腎からはコルチゾールが分泌され続けますが、副腎は働き続けるとやがて疲弊してしまい、副腎疲労と呼ばれる状態に陥り、正常な働きが出来なくなってしまいます。

副腎を酷使することで起こる副腎疲労になると、コルチゾールの分泌量が低下してしまい、コルチゾールによって担われていた抗ストレス作用が損なわれてしまう場合があります。

ストレス耐性が低下すると、イライラや不安、恐怖、怒り、憂うつ、無気力、と言ったPMSによる感情の起伏をコントロールすることが難しくなってしまうのです。

セロトニンの減少

セロトニン』は脳内で働く神経伝達物質の一種で、ノルアドレナリンやドーパミンなどと共に、快活な精神の維持に欠かせない物質です。特にセロトニンには、ノルアドレナリンやドーパミンと言った物質による精神作用を適切に保つことで、精神を安定させる作用があるため、天然の心の安定剤などと呼ばれます。

このセロトニンも、ストレスによって分泌量が減少してしまう物質の一つです。強いストレスを長期間受け続けると、脳内のセロトニン神経が減弱していき、セロトニンを分泌させる作用が弱くなります。

また、細胞間の情報伝達を行うセロトニン受容体でも感受性が落ちてしまうため、セロトニンが脳内でうまく機能しなくなり、うつ病や不眠症に近い症状が現れやすくなります。

PMS発生時の精神的な落ち込みやイライラなどの諸症状は、こうしたセロトニンによる精神安定作用が損なわれたことが原因になることがあります。

また、セロトニンが不足すると痛みに対しても敏感になり、腹痛、腰痛、乳房の張りなど、PMSに伴う痛みも悪化しやすくなります。

その他にも、セロトニンは睡眠ホルモンである『メラトニン』の前駆体であるため、セロトニンが不足すると、メラトニン不足にも繋がり、不眠傾向が生じることも、ストレスによるPMS症状を悪化させる一因となります。

詳しくは『PMS悪化の原因にセロトニンの不足が関係している』をご覧ください。

オキシトシンの影響

オキシトシン』は脳内で働くホルモンの一種です。オキシトシンは人との共感性をあげたり、相手への信頼、社交性などを向上させる働きがあります。また、オキシトシンはセロトニン同様に、ストレス耐性を向上させる働きもあります。

女性ホルモンのうち、エストロゲンにはオキシトシンの感受性を高める、つまりオキシトシンの働きを強める効果があります。ところがエストロゲンには、オキシトシンの働きを弱める効果があるため、プロゲステロンの分泌量が増加する、PMSの発生時期には、性格的に他者に攻撃的になったり、引きこもって外に出たくなくなったり、疑心暗鬼になりやすい傾向があるのです。

自律神経系

交感神経系と副交感神経系からなる自律神経系は、脳の視床下部によってコントロールされており、呼吸や脈拍、血圧、瞳孔の拡縮、食べ物の消化や吸収、排泄、利尿などの、無意識下で行われている生命維持に欠かせない働きを司っています。

こうした自律神経系の働きをコントロールする脳の『視床下部』は、内分泌系と言われる様々なホルモンの分泌をコントロールする部位でもあります。

そのため、自律神経系が何らかの原因で乱れると、内分泌系にも悪影響が生じて、プロゲステロンやエストロゲンの分泌にも影響を及ぼし、PMSの症状が悪化してしまうのです。

そして、自律神経系が乱れる大きな原因がストレスです。

睡眠不足

PMSの大きな原因であるストレス。ストレスを解消する最も手っ取り早く有効な手段が『睡眠』です。

睡眠を取ることで、ストレスによって消費した自律神経系の働きは正常化されます。

同時にストレスが原因で増加する活性酸素によって傷ついた体中の組織細胞、免疫機能、肌や髪の毛など、様々な部品の再生や修復が行われます。PMSでは肌荒れも酷くなりがちですが、睡眠には肌荒れを改善する効果があります。

睡眠が不足すると、こうしたストレス解消効果が損なわれるため、自律神経系は乱れやすく、体組織のダメージも蓄積しやすくなってしまい、PMSの症状が悪化する原因となってしまいます。

特に現代人は睡眠時間が短くなりつつありますので、睡眠の重要性をもう一度見直す必要があります。

インスリン抵抗性

インスリンは食後に血糖値が上がると分泌されるホルモンで、血糖値を低下させることで一定の数値に留める働きをしています。血糖とは血液中のブドウ糖のことですが、血糖は脳細胞の唯一のエネルギー源です。

血糖が不足すると、脳の働きが低下し、集中力低下、イライラ、眠気などの症状が現れます。

女性の場合、生理周期後半になると増えるプロゲステロンが、このインスリンの分泌に影響を与えています。

プロゲステロンは、インスリン抵抗性と言ってインスリンの働きを阻害する作用があり、インスリンによる血糖値低下の働きを邪魔してしまうのです。

インスリン抵抗性が高まると、インスリンを合成する膵臓からは、普段よりも多くのインスリンを分泌されてしまい、血糖値が必要以上に低下してしまうことがあります。これが『機能性低血糖』と呼ばれます。

低血糖の状態を起こすと、脳がブドウ糖を要求するため、イライラしたり集中力が欠落、つまりPMSの症状を強く呈するようになります。

プロゲステロンによるインスリン抵抗性の上昇も、PMSを悪化させてしまう原因の一つになっているのです。

鉄分不足

女性に欠乏しやすい栄養素といえば、鉄分です。女性は生理による出血で、毎月血液が失われるため、その分鉄分不足を起こしやすいと言われています。

鉄分は、血液中の酸素を運ぶヘモグロビンの原料であり、鉄分が不足すると脳が酸素不足を起こして、めまいや立ちくらみ、イライラ、頭痛、肩こり、などいわゆる貧血の症状が現れやすくなります。

こうした鉄分不足の症状と、ストレスによるPMSの症状が重なることで、症状をより重たく悪化させてしまうのです。

ストレス対策の重要性

こうして、ストレスによって体内の様々なものに影響が生じることで、PMSの症状を複合的に悪化させることがわかります。

現代社会では全てのストレスから逃れることは非常に難しいですが、ストレスを決して軽視してはなりません。ストレスの先に待っているのは、PMSの悪化だけでなく、うつ病不眠症と言った、恐ろしい精神疾患にかかる可能性も増えてしまうのです。

photo credit: Samuel Rich Stressed (license)