セロトニンによる痛みの抑制と増幅

脳内の神経伝達物質であるセロトニンは、「痛み」を抑制して和らげる作用を持ちます。ところが、何らかの原因でセロトニンが不足すると、痛みを抑制する働きが低下して、痛みを感じやすく、痛みに弱くなってしまいます。原因不明の体の痛みもセロトニンが不足しているサインである場合があります。

痛みとは

痛み」とは、身体の異常や異変、そして時には命の危機を伝える、重要な「生体アラーム」(三大生体アラーム:痛み、疲労、発熱)のひとつです。

痛みには、「指を切ったとき」や「ハチに刺された瞬間」に痛むような「急性」の痛みと、長く続く「慢性」の痛みがあります。通常、ケガや病気により起こる「急性」の痛みは、時間の経過による回復や治療による治癒により、時間の経過と共に無くなります。

ところが、痛みの原因であるケガや病気が治ったにも関わらず、その後も原因不明の痛みが続くことがあり、これを「慢性の痛み、慢性疼痛」と呼びます。

慢性の痛みは、痛みの原因や部位を特定することが難しい場合が多く、また、疲労や抑うつなど、精神的な要因が痛みの発生に深く関わっていると考えられています。

慢性の痛みが起こるのにはいくつかの原因があると考えられていますが、その原因の一つにあげられるのが、痛みの閾値(しきいち、いきち)が下がることで起こる痛みです。痛みの閾値が下がる原因として挙げられるのがセロトニンの不足です。

セロトニンは痛みを抑制する

痛みを抑制する仕組みにはいくつかの種類がありますが、セロトニンは「下行性疼痛抑制系」と呼ばれる、痛みを抑制する仕組みに関わっています。

痛みが起こる仕組みは複雑なので、例を挙げて説明すると、「痛み」が「沖から打ち寄せる波」だとすると、「セロトニン」は「岸辺にある波消しブロック」の役割をし、痛みを打ち消して、和らげる働きをしているのです。

ところが、ストレスなどによりセロトニン神経が弱ると、セロトニンによる痛みを抑制する機能が低下して、痛みを感じる「閾値」が下がって、普段は感じないような痛みが増幅されて痛く感じたり、痛みに弱く(敏感に)なります。

また、原因不明の痛み、いわゆる慢性疼痛が起こりやすくなります。

痛みの感じ方には個人差がある

痛みの感じ方は人それぞれで、同じ刺激を同じ力で与えても、あまり痛いと思わない人もいれば、大げさに反応する人もいます。

こうした痛みの個人差が生じるのは、持ち合わせた遺伝子によって起こる遺伝的な要因である場合が多いのですが、もう一つ考えられる要因として、その人のセロトニン神経の活性度によっても変わってくると考えられます。

痛みに敏感に反応する人は、セロトニン神経が弱っていたり、セロトニンが不足している場合があります。

特に女性の場合は、男性よりも脳内でセロトニンを合成する力が弱いと言われており、日頃から男性よりもセロトニンが不足しやすいとされます。また、女性特有の月経周期によるホルモンバランスの乱れも、セロトニン不足を引き起こす原因になることがあり、こうしたことから女性は男性よりも痛みに弱い傾向があります。

女性は出産の痛みに耐えられるので男性よりも痛みに強いのでは、と考えられがちですが、出産時にはオキシトシンや、βエンドルフィンと言った、脳から分泌される天然の麻酔薬がどんどん分泌されるために、激しい痛みになんとか耐えられるのだそうです。

痛みの感じ方はセロトニン活性のバロメータ
痛みを敏感に感じるかどうかは、セロトニン神経が活性化されているかどうかを計るバロメータでもあります。

最近体が痛い、肩が凝る、PMSが悪化した、など、痛みに関する症状が現れたら、セロトニン神経が弱ってセロトニンが不足しているサインであることや、うつ病自律神経失調症の前兆の可能性もありますので、以前は感じなかった原因不明の痛みを感じるようになった場合や、以前よりも痛みに弱くなったなどの自覚症状が現れた場合には、医師への相談をお勧めいたします。

感情変化によって痛みの感じ方は変わる

同じ人でも、喜怒哀楽の感情や精神の集中などによって感じる痛みの閾値が変化することがあります。安心や喜び(喜楽)は痛みを和らげ、怒りや悲しみ・不安(怒哀)は痛みを増強します。

予防接種の注射の痛み
例えば、幼児にインフルエンザの予防接種などで注射を打つ時、注射の痛みに対する不安が強いと、過剰に痛みを感じてしまいますが、「痛くないから大丈夫」ということを十分に理解し、安心していれば感じる痛みは和らぐのです。

集中していると痛みが遮断される
高い集中力を要するスポーツや格闘技でも同じように痛みの感じ方が変化します。

ボクシングの試合では、試合中に手の骨を骨折することが良くあります。普通、骨が折れていたら相手をパンチすることが出来ないほど激痛が走りますが、試合に集中していると、痛みを感じることがなく、骨が折れたことにも気付かないそうです。

このように、同じ人であっても、その時々の感情の状態や集中力によって、痛みの閾値が大きく変わります。

こうした感情の変化や集中力を発揮したときに脳内で分泌しているのが、セロトニンやノルアドレナリン、ドーパミンと言った神経伝達物質です。これらの物質は感情の変化や集中に応じて、痛みを抑制したり強めたりしているのです。

セロトニンを始めとする痛みに関わる神経伝達物質が、何らかの理由で不足すると、痛みを十分に抑制することができず、普段は感じないような痛みを感じたりするようになってしまうのです。

うつ病の痛みにもセロトニンが関与している可能性が

気分の落ち込みや無気力、絶望感など、精神の落ち込みが主要な病状だと思われがちな『うつ病』ですが、実はうつ病患者のうちで、6割ほどの人が「体の痛み」を症状として抱えています。

うつ病で身体が痛む原因は、うつ病時に脳内のセロトニンやノルアドレナリンが減少することで、痛みを抑制する作用が弱まり、痛みを過敏に感じやすくなっていることが推測されます。

その他にも、血行不良や自律神経系の乱れなども、うつ病による痛みの原因と考えられますが、これらはいずれもセロトニンの不足と関係があります。

詳しくは、『うつ病と体の痛み』をご覧ください。

セロトニンの減少で悪化するPMSの痛み

ストレスなどによりセロトニンが減少すると、女性の場合、「PMS(月経前症候群)」の症状が悪化することが考えられます。PMSでは、腹痛、腰痛、胸の張り、頭痛、肩こりなど身体の様々な部位で痛みが起こることがありますが、こうしたPMSに伴う痛みも、セロトニンが不足している場合にさらに悪化することが考えられます。

詳しくは『PMS悪化の原因にセロトニンの不足が関係している』をご覧ください。

セロトニンが不足する原因はストレス

原因不明の痛みを抑えるには、脳内のセロトニン神経を活性化させることが重要です。セロトニン神経の減弱やセロトニン不足が起こってしまう大きな要因は、現代社会を取り巻く『ストレス』です。

家庭環境、学校、会社、成績不振、勉強、睡眠不足、騒音、通勤など、様々な種類のストレスが私たちの心や体を蝕んでおり、日々のストレスが脳のセロトニン神経を弱らせてしまうのです。

こうしたストレスに打ち勝つには、脳内のセロトニン神経を強く鍛えて、セロトニンを増やすことが重要です。

詳しくは『セロトニンを増やす方法』をご覧ください。

photo credit: akk_rus Life in Black and White (license)



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