セロトニンと腸内環境

不安やイライラを抑える神経伝達物質として脳内で働くセロトニンと、人の腸のコンディションには密接な関係があります。腸内環境が良いと、脳内でセロトニンを合成しやすく、逆に腸内環境が悪いと、脳内のセロトニンが不足しやすいのです。

腸内環境とは

まず、「腸内環境の良し悪し」と言うのはどういうことかというと、簡単に言えば腸内に生息する腸内細菌にとって、生息環境がどのような状態にあるかということです。

腸内には無数の腸内細菌が生息しており、人間は食べ物の消化や吸収、排泄などを腸内細菌の助けを借りて行っているため、人間と腸内細菌は言わば「共生状態」にあります。

腸内環境の良し悪しは、腸内に生息する腸内細菌によって決まります。善玉菌という腸や体にとって利益をもたらす菌が多ければ良い腸内環境、悪玉菌という悪い作用をもたらす菌が増えると悪い腸内環境であると言えます。

腸内環境が悪いと、腸内細菌の数そのものが減ったり、善玉菌が減って悪玉菌が増えるため、人体に悪さをする菌が増えて、腸内に腐敗物が溜まったり、下痢や便秘を起こしやすくします。

腸内環境が悪いとセロトニンが不足するのは何故か

腸内環境の悪化によってセロトニンが不足するのにはいくつかの理由があります。

トリプトファンが不足するから
セロトニンの主要な材料であるトリプトファンは、肉や魚、豆類などに含まれる「タンパク質」から分解されるアミノ酸です。

タンパク質は胃や腸から分泌される「分解酵素」によって分解されますが、タンパク質の分解を一部の腸内細菌も分解酵素を出して手伝っているため、腸内環境が悪くなるとタンパク質の分解効率が悪くなり、腸からセロトニンの材料となるトリプトファンが吸収されにくくなるため、セロトニンの材料不足が起こるのです。

ビタミン類が不足するから
脳内でセロトニンが合成されるには、様々なビタミン類が関与しています。タンパク質からアミノ酸を分解する際にはビタミンCなどが酵素として働きますし、ビタミンB6はトリプトファンからセロトニンを合成するのに必要な補酵素です。

こうしたビタミン類は野菜や果物に豊富に含まれていますが、そうした食品からビタミン類を取り出す役割の一端を担っているのが腸内細菌です。腸内環境が悪いと、腸内細菌によって食品からビタミン類を取り出す能力が低下するため、脳内でセロトニンを作り出しにくくなってしまうのです。

腸内環境の悪化で起こるトリプトファンとビタミン類の不足。これが脳内のセロトニンが不足する原因となっているのです。

セロトニン不足の影響

脳内のセロトニンの不足は、精神と身体の両方に様々な悪影響を生じさせます。

精神への影響
セロトニンは精神を安定させる働きを担っているため、セロトニンが不足すると、イライラ、不安、恐怖、怒り、悲しみなど、ネガティブな感情が表面化しやすくなります。

その他にも、無気力でやる気が起きない、集中力がなくなる、ストレスが溜まりやすくなる、依存症を陥りやすくなるなど、良いことはありません。

身体への影響
セロトニンは日中の脳の覚醒に作用するため、セロトニンが不足すると寝起きが悪くなります。また、セロトニンは睡眠ホルモンである『メラトニン』の材料でもあるため、セロトニン不足はメラトニン不足を招き、寝付き悪くなったり、眠りが浅くなるなど、睡眠の質を低下させます。

その他、疲れやすい、過食や拒食、肩こり・頭痛、便秘や下痢、姿勢が悪くなる、免疫力が低下するなどの身体的な悪影響があります。

詳しくは『セロトニン不足の原因と症状』をご覧ください。

腸内環境が悪くなる原因

次に、腸内環境が悪化してしまう原因について紹介します。

食生活の欧米化
日本人の伝統的な食文化である「和食」は、栄養バランスもよく、腸内細菌の好物である様々な発酵食品も含まれており、腸内環境にとってはまさに理想的な食事でした。

今日、世界中でヘルシーな和食が注目されています。

ところが、第二次大戦後に欧米の文化が日本に流入した結果、食文化も欧米化され、日本人も欧米人と同じように、肉や加工食品を大量に食べるようになり、食生活は大きく様変わりしたのです。

人の腸内に住む腸内細菌は、親から子供へと代々受け継がれており、土地や人種、食生活によって伝統的に受け継がれていますが、日本人の食生活が大きく変わり、欧米化したことで、それまでに口にすることが無かった食品を摂取するようになりました。

それと同時に、口から入る細菌(食品に付着している)なども変わってしまったため、従来の日本人の腸内環境には適合しない細菌が増え、それが腸内環境を悪化させる一因となっていると考えられるのです。

また、肉類に多く含まれるタンパク質や脂質は、消化に時間がかかるため腸内で腐敗しやすく、悪玉菌の好物であるため、肉ばかり食べると悪玉菌を増やして腸内環境を悪化させる原因となります。

増加するストレス
現代社会で増加するストレスは、腸内環境を悪化させる大きな要因です。

ストレスを感じると自律神経系の働きが乱れ、胃腸の働きが不安定になりやすくなるのです。また、ストレスで分泌が増加するノルアドレナリンなどのストレスホルモンは、一部の悪玉菌の働きを活性化させる作用があり、これも腸内環境が悪化する一因となります。

生活習慣の変化
IT化が進む現代社会の生活習慣は、以前と様変わりしています。様々な電子機器に囲まれて過ごすと、活性酸素という、細胞を酸化させてしまう物質が体内で増加しやすくなり、免疫力が低下して、腸内環境の悪化を引き起こします。

また、忙しい現代人は睡眠時間が年々減少しており、日本人の睡眠不足は深刻化しています。睡眠は、ストレスを解消するだけでなく、体中の細胞をメンテナンスして再生するために重要です。睡眠が不足すると、腸壁の細胞の修復が間に合わず、腸の働きが悪くなってしまい、ストレスの蓄積などと相まって腸内環境を悪化させます。

さらに、デスクワークが中心になった現代では、運動不足に陥る割合が増えています。快適な腸内環境を保つ上で欠かせない、腸のぜん動運動は、腹筋や背筋など、腸の周りにある筋肉によって支えられており、運動が不足して筋肉量が低下すると、その分ぜん動運動も弱くなって腸内環境が悪化します。

特に、女性の場合は男性よりも筋肉量が少なく、ぜん動運動をする力が元々少ないため、便秘を起こしやすいと言われています。(便秘は腸内環境の悪化に繋がる)

詳しくは『知らないうちに腸内環境が悪化する原因』をご覧ください。

セロトニンが不足していると、腸内環境が悪くなる

脳腸相関』という、人の腸と脳が、相互に影響を与え合う関係にあることを表す言葉があります。実は、脳腸相関の概念の中心にあるのがセロトニンです。

この記事では、「腸内環境が悪いとセロトニンが不足する」、ということ中心に紹介していますが、実は「脳内のセロトニンが不足していると腸内環境が悪化しやすい」、ということも同時に言えるのです。

腸のセロトニン
人の体内にあるセロトニンのうち、その90%程は腸内に分布しています。腸内のセロトニンの主な働きは、腸のぜん動運動(腸を収縮・拡張させて便を体外へ排泄する働き)を制御することです。

腸内にあるセロトニンは脳内へ直接入ることが出来ないため、たとえ脳内のセロトニンが不足していても、腸内のセロトニンで不足を補うことは出来ません。同様に、経口摂取などでセロトニンを体内に入れても、脳内のセロトニンは増えません。

しかし、この記事ですでに説明しているとおり、腸のぜん動運動は腸内環境の維持に重要な役割を占めており、町のセロトニンが正常に働いて、正常にぜん動運動が行われることは、脳内でセロトニンの合成が促進されるのに間接的に寄与しています。

脳のセロトニン
脳内のセロトニンは、脳内の中枢神経系や自律神経系に広く影響を与えており、精神の安定や脳の覚醒などに作用しています。腸の働きは自律神経系によって支配されているため、自律神経系の働きが乱れると、腸の働きにも影響が生じて下痢や便秘などをおこしやすくなります。

自律神経系の働きはセロトニンによって正常に保たれており、脳内でセロトニンが不足すれば自律神経系も乱れやすくなります。こうして、脳内のセロトニンが、自律神経系を介して、腸の働きにも影響を与えているのです。

ストレスで起こる腸の病気
また、脳が感じるストレスも、腸の働きに大きな影響を与えます。ストレスを受けると胃が痛くなったり、下痢を起こしたりすることが知られています。ストレスによって起こる腸が過剰な反応を示して下痢や便秘を起こすIBS(過敏性腸症候群)という病気があります。

IBSは、脳が感じたストレス信号が腸に伝わる際に、何らかの理由で腸内のセロトニンの分泌異常が起こり、それが腸のぜん動運動に異常を起こして、下痢や便秘が起こる考えられています。

実際、IBSの治療薬には、腸のセロトニンに作用する薬が用いられることがあります。

セロトニンを増やすには腸内環境が大事

腸内環境を健康に保つことは、脳内のセロトニンの合成に役立ち、心身の健康につながります。つまり、脳内のセロトニンを増やすには、腸を健康に保つ必要があるのです。

暴飲暴食、不健康な生活、無理なダイエット、睡眠不足など、様々な原因で腸内環境は悪化し、それによって脳内のセロトニンも不足してしまう恐れがありますので、日頃から腸内環境が良くなるような生活を心がけましょう。

photo credit: Barry.Lenard (license)



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