DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)は副腎や性腺で合成されるステロイドホルモンの一種で、男性ホルモンや女性ホルモンの前駆体(原料)になるホルモンです。DHEAのもつ抗酸化作用は、体の酸化、つまり体の老化を防ぐ働きがあるとされ、アンチエイジングに注目されているホルモンです。

DHEAの特徴

DHEAの特徴を簡単にご紹介します。

  • DHEAは副腎や性腺(精巣や卵巣)から分泌されるステロイドホルモンの一種でコレステロールが原料となります。
  • 一生を通じてのDHEAの分泌量は、思春期に急増した後20代前半でピークに達し、その後減少していきます。40代ではピーク時の半分程度まで減少してしまいます。
  • DHEAは性ホルモンの一種であり、充足することで気分の落ち込みを防ぎ、精神の安定を得やすいとされます。
  • DHEAは副腎で合成された後、男性ホルモン(テストステロン)や女性ホルモン(エストロゲン)へと変換されるため、男性・女性ホルモンの前駆体でもあります。
  • DHEAには、性ホルモンを増やす働きがあるため、性機能やホルモンバランスに問題があることが不妊の原因であると考えられる場合は、問題改善を目的とした不妊の治療にDHEAが用いられる場合があります。
  • DHEAの減少は更年期障害の発生や症状の悪化に関わっている可能性があります。
  • DHEAは性ホルモンの前駆体であるとともに、男性ホルモンとしての性質があり(ただしDHEA自体の男性ホルモンとしての性質は低い)、性欲や精力と関わりがあります。
  • DHEAは酸化作用を持ち、ストレス等によって起こる体内の活性酸素の増加を抑え、免疫力の維持や老化防止の効果があると言われています。

DHEAの効果や作用

抗酸化作用
DHEAは副腎で分泌されるホルモンで、同じく副腎で分泌されるストレスホルモンである『コルチゾール』が細胞を酸化する働きを緩和する作用があります。

コルチゾールは、ストレスに反応して分泌量が増加するホルモンで、血糖値や血圧を上昇させて、身体がストレスに対抗できるように働きますが、コルチゾールが増加すると、体内で発生する『活性酸素』の量も増加し、細胞が酸化しやすくなります。

活性酸素の増加により細胞が酸化するとDNAが傷ついて死んでしまい減少していきます。細胞の減少は老化につながります。つまりコルチゾールの増加は、体の老化を早めてしまうのです。

DHEAはコルチゾールの血糖値上昇や血圧上昇などの働きを抑制し、コルチゾールの分泌量を正常化する作用があるため、コルチゾールによる体の酸化、つまり老化の促進を防いでいるといえます。

細胞を酸化から守るDHEAの働きは、肌のシワやシミの予防、血管年齢の維持、腸内環境の改善など、多岐に渡る身体機能の維持つながっており、こうした働きが若返りやアンチエイジング作用として注目されています。

学習機能、記憶力の維持
DHEAの抗酸化作用は脳の神経細胞を酸化から守ることで脳機能を保護することで、脳の学習機能や記憶力を維持するのに役立っていると考えられます。また、DHEAの減少とアルツハイマー型認知症の発症の関連が研究されています。

骨や筋肉を強くする
DHEAは『IGF-1』という物質の分泌を促進します。IGF-1は骨や筋肉の細胞の成長や発達に作用するため、DHEAによりIGF-1の分泌が促進されると、骨密度の低下を防ぐことで特に更年期の女性に起こりやすい『骨粗鬆症の予防』になったり、筋肉量を維持することで、基礎代謝量を維持し、中年期の『肥満を予防』することにも繋がります。

参考:NCBI –10.2478/v10039-011-0060-9

性ホルモンの分泌を促進する
DHEAは男性らしさや女性らしさを維持する上で重要なホルモンです。DHEAは男性ホルモンであるテストステロンや女性ホルモンであるエストロゲンの前駆体であるため、性欲や精力の維持、性機能の維持などに欠かせません。

性ホルモンの低下はホルモンバランスが乱れる大きな原因であり、男女ともに性ホルモンの分泌量が低下することで起こる、更年期障害の発生にも、DHEAの分泌量低下が関わっている可能性があります。

抑うつ症状の緩和
DHEAから作られる性ホルモンは、自律神経系の働きとも密接な関係があるため、性ホルモンの分泌量が乱れると、自律神経系のバランスもみだれやすくなり、そこから精神の安定を損ないやすく、DHEAの減少は気分の落ち込み、やる気の低下、集中力の低下、無気力、不安など、いわゆる抑うつ症状を起こしやすくなります。

DHEAが正常に分泌され、性ホルモンの分泌量が安定することは、精神の安定に繋がり、抑うつ症状が起こるのを防いでくれているのです。

血糖値の改善
DHEAは、肥満や糖尿病などにつながる『血糖値の上昇』を抑制する働きがあります。
※インスリンのように血糖値を低下させるわけではない

DHEAは、コルチゾールの働きで肝臓で『糖新生』が行われるのを抑制することで血糖値の上昇を抑えます。そのため、血糖値上昇に伴うインスリンの分泌量増加を抑制することに繋がり、結果としてインスリン抵抗性の増加によって起こる肥満(メタボリックシンドローム)や糖尿病を予防することに役立ちます。

参考:日本老年医学会雑誌-「DHEAの老年病予防効果

免疫力の維持

DHEAの働きのなかでも、特に健康に影響を与えるのが免疫力の維持です。DHEAはヘルパーT細胞のTh1免疫活動の促進させ、Th2免疫活動を抑制させる働きがあることが分かっています。

Th1は細菌やウィルスなど、いわゆる「病原菌」に反応する免疫細胞で、Th2はダニやカビ、花粉など、アレルギー症状の元になる「アレルゲン」に反応する免疫細胞。

DHEAによりTh1の活動が促進されると、白血球内のリンパ球の働きが活性化され、免疫力が向上して病気に掛かりにくくなります。

ただし、Th1、Th2の働きはどちらかが勝っていれば良いということではなく、「バランスが重要」です。何らかの原因でバランスが崩れて、Th1が過剰になりすぎると自己免疫疾患を起こしやすくなり、Th2が過剰になるとアレルギー症状を起こしやすくなります。

心疾患、高血圧症、生活習慣病の予防
DHEAはIL-6という老化現象を促進する物質の産生を抑制し、心疾患や高血圧症の予防に役立つと考えられています。

アレルギー症状の緩和
DHEはアレルギー症状を促進する物質(IL-4,IL-5)の産生を抑制する働きがあります。

DHEAの働きによりTh2免疫が抑制されると、アトピー性皮膚炎や花粉症などのTh2免疫の過剰反応によって起こるアレルギー症状が緩和する可能性があるのです。

参考:科学研究費助成事業データベース-「DHEAの老年病予防効果

現代社会はTh2優位

近代的な衛生環境が整っている日本では、以前に比べると生活の中で病原菌やウイルスに触れる機会が激減しました。

病原菌やウィルスとの接触機会が減るとTh1免疫が発達しにくくなるため、その分Th2免疫が優位になりやすく、これが現代の日本では3人に1人が何らかのアレルギーを抱えていると言われるほど、アレルギー症状を起こす人が急増している原因の一つだと考えられています。

特にTh1免疫の発達には、幼少期に病原菌やウイルスと接触することで免疫を獲得することが重要ですが、現代社会は過剰な清潔志向にあり、抗菌、滅菌グッズが満ち溢れているため、Th1が発達しにくいと考えられます。

Th2免疫は、本来寄生虫に反応して働く免疫細胞です。現代の日本では体の中に寄生虫がいることは稀で、Th2免疫は寄生虫の代わりに花粉ハウスダストなど、人に無害なものをアレルゲンとして攻撃しだした。さらに厄介なのが、攻撃対象が寄生虫なら、寄生虫が死ねばTh2は働きを止めるが、花粉やハウスダストは無くならないため、無制限にTh2が働き続けてしまうということ。

腸内環境の悪化も一因
ヘルパーT細胞を始め、人の免疫機能の多くは腸に集中しており、腸は免疫機能の全体のおよそ6割を担っています。食生活の変化などにより日本人の腸内環境は年々悪化していると言われており、これもアレルギーを起こしやすくなる要因に挙げられます。

免疫力を維持する上では、腸内環境を整えることも重要だといえます。

DHEAと疲労

ストレスによって分泌が増加するコルチゾールは、血糖値や血圧を上昇させ、体の酸化を促進することから、ストレスによりコルチゾールの分泌量が増加すると、その分疲れやすくなります。

DHEAには、コルチゾールによる体のストレス反応(細胞の酸化や血糖値の上昇)を緩和する働きがあるため、コルチゾールによって疲れやすくなるのを防いでくれているといえます。このことから、DHEAは疲労回復に役立っているホルモンであるといえるのです。

慢性ストレスで起こる副腎疲労

DHEAは体をストレスから守り、疲労回復に役立っているホルモンですが、慢性的にストレスが続く場合には注意が必要です。ストレスが慢性化すると、コルチゾールやDHEA、その他にもノルアドレナリンやアドレナリンなど様々なホルモンを産生する臓器である副腎が疲弊してしまい、副腎の機能が低下する、いわゆる『副腎疲労』という状態に陥ります。

副腎疲労を起こすと、コルチゾールやDHEAの分泌量は低下してしまい、ストレスに抵抗する働きが極端に弱くなり、また、精神の安定を保つセロトニンなどの神経伝達物質も合成が減少するため、精神的には気分の落ち込みや無気力などの抑うつ症状が起こりやすく、肉体的にも慢性的な疲労や倦怠感が起こりやすくなってしまいます。

DHEAの分泌量が減少すると、疲れやすくなるだけでなく、体の酸化(=老化)、免疫力の低下肥満アレルギーの悪化など、様々な悪影響が生じる恐れがありますので、慢性ストレスにはくれぐれも注意が必要です。

DHEAを増やすには

DHEAを増やすには、いくつかの鉄則があります。

食べ物
DHEAの原料は脂質から合成される『コレステロール』です。コレステロールは肝臓で代謝されるため、DHEAの原料となるコレステロールの合成量を正常に保つには、食事からコレステロールをある程度摂取することも大事ですが、何よりも『肝臓が健康であること』が重要といえます。

肝機能を改善する食べ物として有名なのはシジミ大豆製品、ウコンなど。その他成分としてはオメガ3脂肪酸、タウリン、ルチンなどがあり、こうした成分が含まれる食材を積極的に摂取すると良いでしょう。

肝臓にお勧めの食材
オメガ3脂肪酸:青魚
タウリン:カキ
ルチン:そば

肝臓に負担がかかる過度のアルコール摂取や、肉類の食べ過ぎは控えたほうが良いでしょう。

また、DHEAを産生する副腎の働きを保つのに特に重要な栄養素が『ビタミンC』です。ビタミンCはDHEAやコルチゾールなど、副腎皮質ホルモンの合成を正常化します。

ビタミンCはレモンなどの柑橘類やパプリカなどピーマンの仲間にも多く含まれています。また、ビタミンCはサプリメントからも気軽に摂取できます。

規則正しい生活
DHEAを増やすには、規則正しい生活をすることが重要です。現代人の生活リズムは不規則で、体内時計も乱れがちです。実は、DHEAはストレス時に分泌量が増加するのとは別に、体内時計の働きと連動して、一日のうちで決まった時間に決まった量が分泌されるという特徴があります。

ところが、体内時計が乱れると、こうした日内での分泌量もバラバラになってしまい、DHEAが正しく分泌されにくくなってしまうため、規則正しい生活を心がけ、体内時計を整えることがDHEAの分泌を増やすのに欠かせません。

適度な運動
意識的にDHEAを増やす方法として適度な運動が効果的です。

運動をすると男性ホルモンであるテストステロンの分泌が促進されます。テストステロンはDHEAが代謝して合成されるホルモンであるため、テストステロンの分泌が促進されると、その分DHEAの分泌も促進されることになります。特に、ウォーキングや水泳、軽いランニングなどの有酸素運動をすると、DHEAの分泌量が増えるとされています。

ただし、高齢者の場合、全力疾走やフルマラソンのような激しすぎる運動は、心臓や血管への負担も大きくなりますし、強いストレスにもなります。激しい運動は大量に酸素を消費するため体内で活性酸素が大量に発生してしまう原因となりますので、年を取ってからの体の酷使には注意が必要です。

軽く汗を流す程度の適度な運動がDHEAを増やすには最適です。

睡眠
適切な睡眠時間を保つこともDHEAの分泌を増やす上で重要です。

DHEAを産生する副腎は睡眠中に分泌量が増加する成長ホルモンの働きにより修復されます。睡眠時間が不足すると副腎の疲労が溜まりやすくなり、機能低下が起こりやすくなります。また、睡眠はDHEAを減少させる原因であるストレスを解消するのにも効果的です。

また睡眠中から朝の起床前にかけては、一日のうちでDHEAが最も分泌されやすい時間帯です。夜間の睡眠時間が短くなると、その分、交感神経系が興奮する時間が増え、ストレスが溜まりやすくなるため、副腎からDHEAが分泌されにくくなります。

適切な睡眠は副腎の修復だけでなく、DHEAの分泌そのものを増やす効果もあるのです。

また、良質な睡眠を取ることは、DHEAと同じく抗酸化作用を持つメラトニンの分泌を促進することに繋がるため、アンチエイジングの観点からも大変効果的です。

DHEAが減少すると

DHEAが減少すると、DHEAによって保たれている抗酸化作用、抗ストレス作用、免疫力の維持、血糖値の維持などの作用が損なわれる恐れがあります。

  • 体のシミやシワが増えて老化しやすくなる
  • 脳の神経細胞が減りやすくなってもの忘れが激しくなる
  • 血糖値が上昇し、メタボリックシンドローム、高血圧症、糖尿病、心筋梗塞などの生活習慣病を引き起こしやすくなる
  • 免疫力の低下によってガンなど重篤な病気に罹りやすくなる。

DHEAが減少する原因

DHEAの減少は以下のようなことで起こりやすくなります。

  • 加齢
  • 糖分の摂り過ぎ
  • 栄養バランスの偏り
  • 過度のダイエット
  • ストレス
  • アルコール
  • タバコ
  • 激しい運動(激しい運動はそれ自体がストレスで、活性酸素が増加する)

加齢から来るDHEAの減少は誰しも避けられませんが、それ以外の生活習慣はできるだけ見直すようにしましょう。

更年期とDHEAの関係

DHEAは男性ホルモン(テストステロン)や女性ホルモン(エストロゲン)へと変換されるホルモンです。更年期を迎えると精巣や卵巣の機能が衰え、それまで卵巣や精巣が主体で担ってきた性ホルモンの合成量が急激に低下するため、DHEAの重要性が相対的に増加します。

ところが、更年期障害を起こす50歳前後の年齢では、性機能と同様に副腎でのDHEAの分泌量も相当に下がっており、これも更年期障害の症状を悪化させる原因になってしまうと考えられます。

DHEAの分泌量を保つことは、それだけ更年期障害の症状を緩和するのに効果があるといえます。実際、更年期障害の症状を緩和させる治療としてDHEAが処方される場合があり、効果が現れることがあるようです。

詳しくは、『女性の更年期障害』、『男性の更年期障害』をご覧ください。

DHEAのサプリメント

DHEAのサプリメントは国内では販売されていません。入手はインターネットなどから外国経由で個人輸入する形が一般的となります。

DHEAの摂取量の目安は、男性は一日20~50mg、女性は一日10~30mgが適量とされます。

※40歳以下では、体内にDHEAが十分あるため通常はサプリメントの摂取は不要だとされます。40歳未満の若年者がDHEAのサプリメントを使うと、必要以上に性ホルモンが増えて悪影響を及ぼす可能性があります。

DHEAの副作用

DHEAは安全なサプリメントとしてアメリカなどでは広く販売されていますが、いくつかの副作用が起こる場合があります。

多毛症(毛が濃くなる)/皮膚炎/脂性(肌が脂っぽくなる)/にきびの増加/発汗の増加、多汗/脱毛/痒み/高血圧/月経不順/気分の変調/長期間の服用後、服用中止で倦怠感や不整脈など/で乳がんや前立腺がんのリスク増加
(症状の一例です)

サプリメントを服用後に何らかの異変を感じた場合は、速やかに服用を停止し、専門医へ相談することをお勧めします。

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