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人はなぜ眠るのか?
夜になると人が眠ることができるのは体内時計が働いているためです。ところが現代社会には体内時計を乱す原因となるものが蔓延しており、体内時計の乱れから、不眠症を始めとした様々な病気にかかる人が急増しています。知っているようで知らない、睡眠と体内時計の関わりについてご紹介します。

体内時計とは

朝起きて夜眠る、という人の生活リズムが成り立つのは、人に体内時計が備わっているからです。

体内時計とは、地球の自転とほぼ同期した、およそ24時間の周期で働く天然の時計で、生物時計や概日リズムなどとも呼ばれます。体内時計は毎日繰り返す覚醒と睡眠のリズムが一定になるようコントロールする機能と言えます。

体内時計は光や温度の変化のような外部からの刺激や、体内にある様々な臓器の働きや神経伝達物質、ホルモンなど内部の刺激と密接に連携しあいながらその機能を維持しています。

体内時計はどこにある?

ところで、体内時計とは言っても、もちろん私達が日常で使う機械式の時計のような形をしたものが身体の中にあるわけではありません。

体内時計の中心的な機能は視床下部にある『視交叉上核』(しこうさじょうかく)という神経細胞が司っています。視交叉上核は、地球の自転に同期した24時間周期の活動リズムとして、睡眠と覚醒、血圧や体温の変動、ホルモンの分泌などに影響する大元の部位で、言わば体内時計の中枢機能であり、最も重要な歯車であり、いわばオーケストラの指揮者の役割を担っています。

体内時計と時計遺伝子

人の体内時計を制御する大きな要因は、24時間周期の地球の自転により起こる、太陽の昇降つまり光の明暗です。

しかし、地球では季節や地域によって日照時間が大きく異なるため、太陽光だけに依存していては、季節によって体内時計は大きく崩れてしまい、地球の自転と同期して一定に保たれた体内時計を獲得することが出来なかったはずです。

生物の長い進化の過程で、太陽光だけでなく、季節によって起こる気温の変動や日照時間の変化などにも複合的に順応した体内時計の仕組みが遺伝子情報として代々記憶され引き継がれるようになり、いつしか太陽光が無い状態でも、体内時計は破綻せず自律した状態を保ち、一定のサイクルで働き続けられる仕組みを身につけました。

こうした言わば自律型の体内時計を可能たらしめる根源的な仕組みは、生物の細胞に存在する時計遺伝子という種類の遺伝子によってもたらされます。

時計遺伝子とは、身体を構成するタンパク質の合成と分解の周期を制御する遺伝子です。タンパク質の合成と分解は一日の中で一定のサイクルを生み出しており、体内時計(寝たり起きたり)はこのサイクルと同調して形成されていると考えられています。時計遺伝子には体内時計の針が刻むのを促進する因子と抑制する因子があります。

人体で主要な働きをしている時計遺伝子は以下の4つです。

  • Bmal1(ビーマルワン,cycle)
  • Per(ピリオド,period )
  • Clk(クロック,Clock)
  • Cry(クライ,cryptochrome)

こうした時計遺伝子によって形成された遺伝子情報から、細胞のひとつひとつに起こる小さなの働きのサイクルが集約していくと、やがて脳や身体全体の覚醒や睡眠を繰り返す、人の体内時計の活動サイクルに波及していると考えられます。

体内時計と関係する要因

太陽光
太陽光は地球上の全ての生命の源であり、およそこの世の全ての生物に備わる仕組みは太陽の昇降と、それを毎日24時間周期で正確に実現している地球の自転が関係していると言えます。

人の体内時計は太陽光の昇降をベースに働く性質があります。朝、日が昇って明るくなると、その光の刺激が網膜を通して視床下部に届き、この刺激が交感神経系を刺激して脳が覚醒します。

夜になり日が沈むと、今度は『光が減少した』という情報が脳に届き、副交感神経系を刺激して脳を睡眠へと向かわせます。

朝に太陽が昇ると、部屋の中にも自然と光が差し込み、その光の刺激が網膜から脳に届くと、自律神経系のうち交感神経系が働きだし、セロトニンやノルアドレナリンなどが分泌されて、脳と身体を覚醒させて目が覚めます。

太陽光による刺激が、体内時計をリセットしてくれているので、太陽光は人体にとっての天然の目覚まし時計であるといえます。

夜眠たくなるのも太陽光が関係しています。太陽が沈み暗くなると、脳が休息に向かうため、段々と覚醒レベルを下げていき、自然と眠たくなります。このとき分泌されるのが睡眠ホルモンのメラトニンです。メラトニンの分泌も太陽が昇ったり沈んだりすることでコントロールされているのです。

このように私達の体内時計の働きは、その殆どが太陽光によってコントロールされているため、生活リズムを維持するには、昼間にしっかりと太陽光を浴びるということが非常に重要なのです。

現代では朝の眩しい光を嫌って、遮光カーテンなどで窓を覆い、真っ暗な部屋で眠る人たちが増えています。ほとんどの場合、朝起きてカーテンを開け、それから自然な太陽光を浴びることで大きな影響はないのですが、真っ暗なままの部屋で朝を過ごしてしまうと、問題が起こる場合があります。

太陽光は人の脳にとっての自然の目覚まし時計ですから、その刺激が脳に伝わらないと、脳が十分に覚醒せず、自律神経系の働きが弱まってしまうため、朝起きるのがつらい、起きてもぼーっとしている、頭が中々働かない、と言った状態を作りやすいのです。

また、部屋が暗いままでは体内時計のリセットがしっかりと行われませんから、夜の寝付きも悪くなるなど、体内時計が乱れやすくなる原因にもなります。

朝は必ずカーテンを開けて、自然な光を部屋に取り込みましょう。

参考:『睡眠と太陽光

自律神経系
自律神経系は呼吸や脈拍、臓器の働き、ホルモンの分泌など、無意識化で自動的に行われる運動を制御する神経系です。交感神経系と副交感神経系からなるこの神経系は、体内時計の働き、即ち覚醒と睡眠に同調して働くという特徴があります。

朝起きてから日中の身体活動量が多い時間帯は、交感神経系が働き、血圧は上がり、脈拍は速くなり、脳の覚醒レベルも高くなります。反対に、消化、吸収、排泄と言った働きは日中の間抑制されます。

夕方から夜にかけて、活動量が落ちて、休息から睡眠へと向かう時間帯になると、副交感神経系が優位に働くようになります。このとき、血圧は下がり、脈はゆっくりになっていき、脳の覚醒レベルは段々と落ちていって、睡眠へと向かいます。

交感神経系と副交感神経系は、互いに抑制し合う性質があり、一方が働いている間はもう一方の働きは抑制されます。日中交感神経系が優位な時間と夜間の副交感神経系が優位な時間、これらの時間は体内時計の働きによって創りだされています。

セロトニン
セロトニンは交感神経系を刺激する脳内の神経伝達物質です。セロトニンが脳内で継続して放出され続けることで、脳は覚醒レベルを一定に保つことが出来ます。セロトニンは朝起きて、交感神経系が働き出すと同時に分泌が促進されます。

夜間になり交感神経系の働きが弱くなると、セロトニンの分泌は減少していき、脳の覚醒レベルも下がっていきます。そして、睡眠中はほとんど分泌されなくなります。

メラトニン
メラトニンは副交感神経系が優位になる夜間、特に就寝直前になると分泌量が急増する、強い催眠作用を持ったホルモンです。メラトニンの分泌は、その日の朝、体内時計がリセットされた時間(起床時間)から数えて14時間~16時間後に最大になるという特徴があり、これも体内時計によって制御されています。

また、メラトニンは脳の覚醒を維持する働きをしているセロトニンから合成されるホルモンであり、日中は交感神経系とセロトニン、夜間は副交感神経系とメラトニンがセットになって働いていると言えます。

オレキシン
オレキシンは脳内の視床下部で働く神経ペプチドの一種で、睡眠と覚醒の制御、交感神経系の活動を促進する働きなどがあるとされています。

オレキシンの分泌量の変化は、体内時計の活動リズムと同期しており、日中交感神経系が優位に活動しているとき、つまり脳が覚醒しているときに多く分泌されています。逆に夜間や睡眠中は分泌量が減少するため、メラトニンとは真逆の性質を持つ、「覚醒ホルモン」であるとも言えます。

日中にオレキシンの分泌量が減少すると急激な眠気を催すことが分かっており、ナルコレプシーという睡眠障害はオレキシンの分泌異常が原因であると考えられています。

体内時計の周期

人の体内時計の周期は地球の自転と同じ24時間だと思われがちですが、実は24時間周期ではなく、人によって個人差があることがわかっています。

古くから様々な体内時計に関する研究が行われてきた中で、環境や人数、期間、その他条件によって数値は異なるものの、どの研究でも人の体内時計は概ね平均すると24時間よりも長い、という結果が出ているようです。

ここでいう体内時計の周期とは、太陽の昇降で起こる光の明滅を廃したもので、つまり人類の遺伝子(時計遺伝子)が持っている、素の状態の体内時計が刻む周期です。

人の体内時計は24時間ではないにも関わらず、24時間周期の生活を送ることができるのは、太陽光によるものです。

もしも太陽光が存在しない環境に置かれたとしたら、24時間よりも長い体内時計を持つ人類の生活は、少しずつ遅れていくことになります。つまり、昨日は朝7時に起きて夜は12時に眠ったのに、今日は朝7時30分に起きて夜寝たのは12時30分だった、というように、だんだんと生活リズムは後退してしまいます。

こうしたことが起こらないのは、太陽光を浴びることで体内時計がリセットされているからです。

古来、太陽が昇り明るくなると、人はその光の刺激によって起床していました。この光の刺激が、24時間ではない人類の体内時計をリセットしてくれているのです。

ところが、現代社会では人は家の中でカーテンを閉めて真っ暗な部屋の中で眠り、朝日が昇ってもその光を浴びることはありません。不眠症や睡眠障害などを起こす体内時計の乱れや自律神経系の乱れが、私達の間に蔓延しているのには、朝の太陽光を浴びなくなったことが深く影響していると考えられるのです。

余談ですが、体内時計の周期が人によって個人差があるという点が、睡眠の個人差が生じるひとつの要因であるように思います。人の睡眠時間はかなりばらつきがあり、中にはショートスリーパー(短眠者)、ロングスリーパー(長眠者)と言った特徴を持っている人々がいます。

体内時計と病気との関わり

太 陽光、セロトニン、メラトニン、オレキシンなどは体内時計と密接に関わりをもち、体内時計が乱れることで様々な病気や身体の変調が現れる可能性があります。

体内時計の乱れによって体に変調が起こるモデルケース

  • 朝→太陽光を浴びない→体内時計が乱れる→自律神経系が乱れる→自律神経失調症
  • 朝→太陽光を浴びない→体内時計が乱れる→交感神経系が減弱→起立性調節障害
  • 体内時計が乱れる→昼間→交感神経系減弱→セロトニン減少→うつ病や気分障害、不眠症
  • 夜間→強い光を浴びる→体内時計が乱れる→交感神経系が興奮→メラトニン減少→不眠症や睡眠障害
  • 体内時計が乱れる→昼間→交感神経系減弱→オレキシン減少→ナルコレプシー
  • 体内時計が乱れる→夜間→副交感神経系減弱→メラトニン減少→不眠症や睡眠障害

体内時計の乱れは、全ての病気にも通じる自律神経系の働きの乱れ免疫力の低下(体温低下などにより)を招くため、単なる時差ボケだけでなく、不眠症やうつ病、自律神経失調症、がんや心筋梗塞のような重篤な疾患や生活習慣病など様々な病気を発症する引き金となります。

太陽光が不足すると病気になりやすい

現代社会では紫外線の悪影響などが不安視されることから、日中に太陽光を積極的に浴びるという人は少なくなってしまっています。我々現代人が発症しやすくなった病気に不眠症うつ病、アレルギー疾患、生活習慣病や自律神経失調症などがありますが、ほとんどの病気に、太陽光の不足が何らかの形で関係していることがわかっています。

太陽光不足で病気を発症しやすい理由のひとつとして、太陽光の刺激によって分泌が促進されるセロトニンなどは、逆に太陽光を浴びる機会が少なくなると、分泌量が減少してしまうことがわかっています。日照時間が少ない冬や、雨でジメジメして暗い日が多い梅雨の時期には、うつ病に良く似た症状を発症する人が増えることがよく知られています。

また、緯度の高い北欧諸国ではうつ病の発症率が赤道付近の人々に比べて高いことも明らかになっている他、日本国内でも、奥羽山脈の影響で日照時間が少ない秋田県などでうつ病の罹患率が高い傾向にあり、太陽光の不足からセロトニン不足が起こり、精神疾患を発症するという流れを作っていることがわかります。

体内時計を正しく保つには

体内時計の働きを正しく保つには、以下のようなことを心がけると良いでしょう。
1.規則正しい生活
2.朝太陽光を浴びる
3.食事はバランスよく3食
4.お酒やタバコは控えめに
5.適度な運動
6.休みの日は寝過ぎない(寝貯めはしない)

どれも至極当たり前のことですが、実は、現代社会ではこの当たり前のことが難しくなっているのです。

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