育ち盛りの小学生にとって、睡眠は重要なものだということは多くの人が何となく理解しているところですが、具体的な睡眠の役割や、小学生にとって適切な睡眠時間がどれくらいなのかは、あまり詳しくは知られていません。小学生の睡眠時間についてご紹介します。

子どもにとっての睡眠

子どもと大人の睡眠を比べると、決定的な違いが一つあります。それは『体の成長』があるかないかです。子どもは日々の睡眠中に体が成長して大きくなっていきますが、大人になると体の成長は止まります。

人の体は、生まれたときから大人になるまで、日々成長を続けますが、体の成長が最も活発に起こるのが睡眠中です。睡眠中に体の成長が活発化する理由は、睡眠中に『成長ホルモン』の分泌が最も活発になるからです。

実は、大人になっても成長ホルモンは分泌され続けますが、体を成長させるほどの量の成長ホルモンが分泌されることはなく、大人にとっての成長ホルモンの役割は、傷ついた体の細胞や組織などをメンテナンスすることが主となります。

こうして、小学生も含め、育ち盛りの子どもにとっての睡眠とは、体が成長するために欠かせないものですが、子どもの睡眠時間が短くなると、成長に影響が生じることが懸念されます。

睡眠時間が減ると

子どもの睡眠時間が減ることで起こりやすいのが、『体の成長の遅れ』と『二次性徴の訪れの早まり』です。

体の成長の遅れは以下のようにして起こります。
1.睡眠時間が減ると、睡眠ホルモン『メラトニン』の分泌が減少する。
2.メラトニンの分泌が減ると、成長ホルモンの分泌が減少する。
3.成長ホルモンの分泌が減ると、身長や筋肉などの成長が遅れる。

体の成長が遅れても、成長が続ければ極端な低身長になるようなことはありません。しかし、子どもの睡眠時間の減少のもう一つの影響として、『二次性徴の訪れが早くなりやすい』という特徴を持ちます。

子どもの成長に合わせて大量に分泌されるメラトニンには、『性腺抑制作用』があります。性腺抑制作用とは、性腺刺激ホルモンによって『性腺』が発達するのを抑制する働きのことです。

性腺とは生物の生殖能力を司る生殖器のことです。性腺刺激ホルモンの分泌が増加すると、男性の場合は男性ホルモン、女性の場合は女性ホルモンの分泌が活発になり、性腺が発達していき、やがて『二次性徴』、いわゆる肉体が成人機能を有する状態を迎えます。二次性徴を迎えると、身長の成長も活発になりますが、反面、二次性徴後の身長の伸びは緩やかになり、成長が徐々に止まります。

つまり、たっぷり睡眠をとって、メラトニンの分泌量が多ければ、その分二次性徴の訪れが抑制されて、体の成長を長期間続けることができるため、その分、身長が伸びやすいということが言えるのです。

睡眠時間が減ってメラトニンの分泌や成長ホルモンの分泌量が減ると、体の成長は遅れやすくなります。さらに、メラトニンの分泌量の減少が、性腺刺激ホルモンの分泌量の増加につながり、二次性徴が早く訪れやすくなる、つまり体の成長のピークが、睡眠時間の減少によって早く訪れやすくなってしまうのです。

つまるところ、『子どもの睡眠時間が減ると成長が早く止まりやすくなる』、『身長をたくさん伸ばすには、睡眠をたっぷり取って二次性徴の訪れを遅らせることが重要』ということが言えます。

小学生の身長の成長データ

男女年齢別の平均身長(2014年)と、身長の年間成長量(2016年)を表した表です。

男子女子
平均身長年間成長量平均身長年間成長量
7歳122.0cm5.8cm119.3cm5.7cm
8歳126.3cm5.4cm125.7cm6.2cm
9歳134.6cm5.2cm133.7cm6.7cm
10歳139.2cm6.1cm139.3cm6.5cm
11歳145.1cm7.3cm146.8cm5.1cm
12歳152.6cm7.2cm150.8cm3.1cm
13歳158.1cm5.5cm155.2cm1.5cm
14歳164.1cm3.3cm156.4cm0.5cm
15歳165.6cm1.5cm155.8cm0.6cm
16歳169.4cm0.9cm158.7cm0.2cm

※平均身長と成長量は別々の統計データから抽出しているため、数値は一致しません。

表を見ると、男子は11歳と12歳に、女子は9歳~10歳にそれぞれ年間成長量がピークに達しているのがわかります。個人差もありますが、体を成長させるには、この間に良質な睡眠を取ることが、特に重要であるということが言えます。


データの引用:文部科学省 – 「学校保健統計調査-平成28年度(確定値)の結果の概要」,厚生労働省 – 「第2編 保健衛生 第1章(第2-6表 身長・体重の平均値,性・年次×年齢別)」

二次性徴の時期

二次性徴が訪れる時期は、男女によって若干異なります。個人差がありますが、一般的には女子のほうが男子よりも二次性徴が早く、男の子は12歳前後から14歳頃、女の子は10歳前後から14歳頃に起こることが多いです。

男女いずれも、小学校中学年から高学年にかけて二次性徴を迎えることが多く、この時期に適切な睡眠時間を確保することがいかに重要かが分かります。

二次性徴が起こること自体は、極自然なことで、子どもが順調に成長している証拠でもあります。しかし、睡眠時間の減少によって二次性徴の起こりが早すぎる場合、肉体は性的に成熟し、その後の体の発達が少なくなってしまうのです。

※もちろん、『体の成長』にとって重要なのは睡眠だけでなく、食べ物や運動など他の要素もあります。

学力の低下も懸念される

小学生の睡眠時間が減ることで、懸念されるのは、身長の伸びや体の発育など、成長の遅れだけではありません。

睡眠不足は、集中力や判断力の低下に繋がります。また、睡眠中は記憶の整理や取捨選択をする時間でもあり、学校で勉強したことを記憶として定着させるためには、十分な睡眠が必要不可欠です。

根本的に忘れてはならないのが、睡眠による体の成長とは、『脳の成長』も含まれているという点です。子どもは大人に比べて脳機能も発展途上であり、脳の発達には睡眠が重要な要素となっているのです。

こうして、脳機能も発展途上の小学生の睡眠時間が減ると、学力低下に繋がることが懸念されるのです。

小学生に必要な睡眠時間

アメリカの睡眠財団によると、同財団が推奨する小学生(6歳~11歳)の睡眠時間は『9~11時間』とされます。また、『最低限の睡眠時間』とされるのが、『7~8時間』です。

小学生の最低限の睡眠時間は7~8時間』となっていますが、子どもの睡眠は、脳や体の成長に直結していることを考えると、よほどの事情がない限りは、推奨される9~11時間の睡眠時間を確保して、健やかな成長を促してあげたいところです。

参考:睡眠財団 – 『HOW MUCH SLEEP DO WE REALLY NEED?

睡眠不足で子どもに不調が生じることも

子どもは十分に発達するための睡眠時間が確保出来ないと、脳は睡眠不足によってストレスを抱えることになります。

ストレスは成長にも悪影響を与えることはもちろん、自律神経系が未発達な子どもの場合は、自律神経系を乱す原因ともなり、めまいや立ちくらみ、低血圧、貧血、吐き気、朝起きられない、などの症状を特徴とする、自律神経失調症の一種である、『起立性調節障害』の発症に繋がる可能性もあります。

子どもの睡眠不足の悪影響

子供の睡眠不足は成長ホルモンの分泌量が減ることで、以下のような影響が生じる恐れがあります。

  • 肥満傾向
  • 知能の発達が遅れる
  • 運動神経の発達が遅れる
  • 体の成長が遅れる
  • 情緒が不安定になりやすい

詳しくは『睡眠不足の子供に起こる悪影響』をご覧ください。

勉強よりも睡眠を優先すべき

学歴社会の日本では、子どもが小学生の頃から塾や習い事に通わせる熱心な親御さんも少なくありません。子どもの将来を思えばこその行動ですが、ときにこうした習い事などが子どもの睡眠時間を奪ってしまっていることがあります。

勉強や習い事は大人になってからでも遅くはありませんが、脳や体が成長できるのは、子どものうちだけです。

もしも我が子が、ご紹介した小学生に必要な睡眠時間を下回るような生活をしているのであれば、今すぐに生活習慣を見直し、出来るだけ多くの睡眠時間を確保できるようにしてあげましょう。

また、十分な睡眠を取ることは、勉強する上での集中力や学習効率を高める、ということも忘れてはなりません。睡眠が不足していれば、いくら塾に通わせても、勉強したことはあまり身にならないかもしれません。

また、睡眠が重要であるということは、小学生の子どもだけでなく、中学校や高校に上がってからも、さらに大人にとっても変わらないことです。

自分や子どもの年齢に合わせて、中学生に必要な睡眠時間と、高校生に必要な睡眠時間社会人にとって理想の睡眠時間もチェックしましょう。

photo credit: Nicolas Alejandro Street Photography (license)