人の体は自律神経系という、無意識のうちに働く神経系によって脳が覚醒したり眠りに付いたりしています。適切な方法で運動をすると、自律神経系の働きを良くすることが出来、寝付きを良くしたり眠りを深くするなど、快眠効果を得ることが出来ます。

快眠に重要な自律神経系

快眠と運動の関係を紹介する前に、自律神経系という神経の特徴を知る必要があります。

自律神経系は、呼吸をしたり心臓を動かしたり、瞬きをしたりなど、人が普段、無意識のうちにしている様々な運動を統括している神経です。

自律神経系は交感神経系副交感神経系という二つの神経系で構成されており、二つの神経系の役割を大まかに示すと、

  • 交感神経系:脳の覚醒、心身の興奮
  • 副交感神経:脳の休息、心身のリラックス

表裏一体
二つの神経系は覚醒と休息、興奮とリラックスのようにそれぞれ相反する特性を持ちます。この二つの神経系は相反する特性を持つと同時に、働く時間もコインの裏と表のように表裏一体の関係を持ち、一方が働いているときは片方が休み、もう一方が働いているときはもう一方が休んでいます。

昼と夜
交感神経系と副交感神経系が働く時間は、それぞれ決まっています。日中は脳を覚醒させる交感神経系がよく働き、夜間は脳を休息させる副交感神経系がよく働きます。

一方が働いている時、もう一方は完全に休んでいるわけではありませんが、活動レベルは下がります。例えば、日中交感神経系が働いているときは、副交感神経系は緩やかに働いており、逆に夜間は副交感神経が優位になって、交感神経系は鎮静します。

自律神経系と運動

さて、ここからは本題の快眠と運動の関係についてです。

運動とは、走ったり飛んだり跳ねたり、とにかく体を動かすことを言います。体を動かすと、その分、体は激しく酸素やエネルギーを消費するため、それを補うために血圧が上昇して、呼吸や心拍数は速くなります。この血圧や心拍数を自動的に調節しているのが自律神経系です。

運動をすると自律神経系のうち、交感神経系が興奮して、血圧上昇、心拍数増加などの作用をもたらします。

交感神経系への刺激が、何故快眠に結びつくかというと、例えば100mを全力疾走した後のことを思い浮かべてみて下さい。

全力疾走をすると、息は激しく切れて、その後しばらくは動けないほど疲れます。100mを走っている最中に働いているのは交感神経系ですが、走り終わった後、息を整えたり体の疲れを癒やすために働くのは副交感神経系です。

交感神経系が激しく働いて、脳や体が疲労すると、その後には副交感神経系が自動的に働き、体を休めようとするのです。交感神経系と副交感神経系の働きは、波のように繰り返し、片方が穏やかなときはもう片方も穏やかに、片方が激しく働けば、その後もう片方も激しく働きます。

自律神経系の表裏一体の関係から、日中、適度に体を動かして交感神経系を刺激しておくと、夜になると副交感神経系が働きやすくなるため、寝付きが良くなったり、より深く眠ることができるようになります。

運動の快眠効果

適度な運動は、交感神経系への刺激だけでなく、快眠するために重要ないくつかの効果をもたらします。

自律神経系のメリハリを作る
交感神経系と副交感神経系は表裏一体。交感神経系が刺激されるとその分副交感神経系の働きも強くなり、二つの神経系が刺激されることで、自律神経系の働きにもメリハリが生まれて、自律神経系そのもののバランスが整いやすくなります。

自律神経系がしっかり働いていると、夜になり眠るべき時間が来ると自然と副交感神経系が優位に働くようになり、ぐっすりと快眠できるようになります。

ストレスの解消になる
適度な運動による心地良い刺激は脳にたまったストレスの解消に効果的です。ストレスは快眠を阻害する大きな要因でもあるため、ストレスを解消することは、快眠するためにも非常に効果的です。

このように、人の体に自然に備わっている自律神経系の仕組みをうまく利用して、適度に運動することが、夜の快眠へとつながるのです。

快眠におすすめの運動

快眠のための運動としておすすめなのは、ウォーキング、ジョギング、水泳、サイクリング、登山など、いわゆる有酸素運動です。また、あまり激しい運動ではなく、適度に疲労を感じる程度の運動が最適です。

有酸素運動がおすすめな理由は、誰でも無理なくできる運動であることと、ウォーキングやサイクリングのように、手足を規則的に動かす運動は、脳内のセロトニン神経を活性化させることにも繋がるためです。

セロトニン神経は交感神経系と同調した働きをして、脳の覚醒を保つ神経系です。また、セロトニン神経から分泌される神経伝達物質セロトニンは、夜になると睡眠ホルモンであるメラトニンへと変化するため、規則的な有酸素運動(リズム運動)をすることは、交感神経系を刺激し、セロトニン神経を活性化、そしてメラトニンの分泌促進の効果が得られる、とても効率的な運動なのです。

快眠を阻害する運動のしかた

おおよその運動が交感神経系を刺激するため、この運動はしないほうが良いという運動はあまりありませんが、快眠という観点で考えると、睡眠前の運動は控えるべきです。

睡眠直前に運動をすると、本来副交感神経系働くべき時間なのに交感神経系が働いてしまい、脳が興奮して寝付きが悪くなってしまうことがあります。また、交感神経系と副交感神経系の働くべき時間はそれぞれ、交感神経系は日中、副交感神経系は夜、と決まっているため、この順序を乱すと、自律神経系の働きそのものがバランスを崩すきっかけにもなってしまいます。

快眠を得るためには、睡眠前の運動は控え、例えば夜仕事から帰ってきて、お風呂に入る前に走って汗を流すなどする場合は、ベッドに入る時間から逆算して、3時間~4時間前までには運動を終わらせるようにしましょう。

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