起立性調節障害が起こる主な原因は、自律神経系の働きの乱れから血管収縮に問題が生じて、脳への血液供給や心臓へ戻る血液量が減少することで、低血圧や頻脈などの諸症状が現れると考えられています。自律神経系による血管収縮の仕組みは、ノルアドレナリンが深く関わっています。

自律神経系の働きとノルアドレナリン

自律神経系とは、交感神経系と副交感神経系からなる不随意運動を司る神経系です。不随意運動とは、意識せずとも自動的に行われる、呼吸や消化、発汗、血液の循環などの運動を言います。

自律神経系のうち交感神経系は、人が日中活動するときに強く働く性質があり、例えばスポーツや激しい運動をするときには、脳に血液を沢山送って集中力を高めたり、筋肉でエネルギーを沢山使えるように、血管を収縮、血圧を上昇させるといった働きがあります。

こうした交感神経系から血管を収縮させろという情報を血管を覆う筋肉に伝達する役割を持つ物質の一つが、ノルアドレナリンです。ノルアドレナリンは交感神経系の興奮により、神経末梢から分泌が促進され、血管の収縮、血圧の上昇などに作用しています。

また、脳内では精神作用もあり、怒りや不安、やる気や集中力を生み出す物質としても知られています。

自律神経系が乱れるとノルアドレナリンが正常に分泌されにくい

交感神経系の興奮によって分泌が促されるノルアドレナリンは、自律神経系の働きが乱れると正常に分泌されにくくなってしまうことがあります。

起立性調節障害の場合、体を起こしたり起立した時に本来働くはずの交感神経系が十分に働かないために、ノルアドレナリンの分泌量が不十分になり、その結果、血管の収縮が十分に行われず、脳への血液循環が滞ることで、めまいや立ちくらみなどの症状が現れると考えられています。

ノルアドレナリンが不足することで交感神経系が働かない場合も

自律神経系の働きが乱れてしまった結果、交感神経系からの信号が不十分なことからノルアドレナリンの分泌量が減少するというケースがある一方で、ノルアドレナリンそのものが不足してしまう場合も考えられます。

ノルアドレナリンは、脳内や副腎髄質で作られる物質で、平常時に交感神経系からの刺激によって分泌が促進されるだけでなく、ストレス下ではストレスに反応して、体をストレスから守るためにも働くストレスホルモンであるという一面があります。

そのため、強いストレスが長い間慢性的に続くと、絶えずノルアドレナリンが分泌されて、大量に消費され続けるという状態が起こると、ノルアドレナリンの材料が不足したり枯渇してしまうことが考えられます。

こうした状態では、交感神経系からの『起立したから血管を収縮させて脳へ血液を送れ』という信号を受け取っても、分泌されるべきノルアドレナリンそのものが不足してしまっているため、やはり血管の収縮や血圧の上昇といった作用が十分に、または直ちに行われずに、起立性調節障害の諸症状を引き起こしてしまうことが考えられます。

ノルアドレナリンが不足するのは思春期特有のストレスが関係

先に紹介したように、ノルアドレナリンには、体をストレスから守るストレスホルモンであるという性質があります。

起立性調節障害が思春期の子どもたちに発症しやすい原因の一つには、思春期に起こる自我の芽生え、心の成長や変化、また身体に成長によって起こる外見の変化に伴う悩みや不安、友人関係の複雑化や陰湿ないじめなど、思春期以前には無かった様々なストレスを体験することによる、ノルアドレナリンやセロトニンといった物質の消耗と不足が関係していることが考えられます。

内向的な性格が影響することも
起立性調節障害を発症しやすい子どもの性格に一定の傾向があり、内向的でおとなしく、几帳面で真面目、と言った性格の子どもが、起立性調節障害を発症しやすいと言われています。

内向的な子どもの場合、自己主張をして周囲に感情を表したり、ストレスをぶつけることが苦手なため、ストレスを自分で抱え込んでしまいやすいために、ストレスによる精神状態の悪化によって、自律神経系の乱れが生じやすいのではないかと考えられます。

まとめ

起立性調節障害で起こる自律神経系の乱れによって、交感神経系の働きが弱くなり、ノルアドレナリンの分泌が減少することがあります。また、逆に、ノルアドレナリンが不足している場合、起立性調節障害が起こりやすくなると考えられます。

ノルアドレナリンが不足する大きな原因はストレスで、起立性調節障害を起こしやすい思春期の子どもは、様々なストレスを抱えやすいこと発症しやすい原因の一つです。

また、ストレスによるノルアドレナリンの不足は、抑うつ症状や気力の低下など、精神への影響も大きいため、起立性調節障害の症状の改善のためには、生活リズムの見直しだけでなく、心のケアも非常に重要です。

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