睡眠薬は、脳の中枢神経系に作用して、いわば強制的に睡眠状態にする薬剤の総称です。一般的には不眠症をはじめとした睡眠障害の治療薬として処方されるほか単に寝付きをよくするためにも使用されます。不安な気持ちを緩和させる、抗不安剤としても用いられ、単に「安定剤」と呼ばれることもあります。
特徴
睡眠薬には、GABA受容体に作用する睡眠薬やメラトニン受容体に作用するメラトニン作動薬などがあります。アルコールや抗てんかん薬など、GABA受容体に作用するもの薬剤との併用や、他の疾病等の薬剤との併用は、相加作用を生じる場合があり、大変危険だとされます。
睡眠薬による睡眠は、自然な睡眠とは異なり、一種の麻酔効果で気絶しているようなものなので、十分な睡眠効果を得にくく、睡眠薬自体には睡眠の質を改善する効果は小さいとされます。そのため、起床後に睡眠不足やけん怠感、脳が疲労感を感じやすくなります。
短期間の使用が推奨される
睡眠薬は常用すると耐性が生じる(薬が効きにくくなる)ため、服用が長期になると大量摂取による乱用に繋がりやすいとされます。また、長期的な使用は死亡リスクが高まる傾向にあるため、長期の処方例は少ないようです。
実際、世界保健機関(WHO)による「ベンゾジアゼピンの合理的な利用」という報告書において、ベンゾジアゼピン系の「合理的な利用」は30日までの短期間にすべきとしているほか、欧米諸国では短期間の使用が推奨され、処方期間が規制されている場合も多いです。
化学構造上の分類
- ■GABA受容体に作用するもの
- バルビツール酸系
ベンゾジアゼピン系の前に主に処方されていた古いタイプの睡眠薬。脳への悪影響が大きく、服用すると危険が伴うことが分かっています。そのため、現在はほとんど処方されることはありません。 - ベンゾジアゼピン系
バルビツール酸系のあとに登場した睡眠薬。うつを引き起こしたり、悪化させるとも言われ、現在ではほとんど処方されなくなりました。 - 非ベンゾジアゼピン系
不眠の治療薬としては、現在主流な睡眠薬です。ベンゾジアゼピン系とは異なる化学構造を持つが、作用や副作用などベンゾジアゼピン系に類似しています。
向精神薬に分類されます。 - ■ヒスタミン受容体に作用するもの
- 抗ヒスタミン薬
風邪薬や花粉症のアレルギー症状を抑える薬として知られていて、ヒスタミンの働きによるアレルギー症状を抑えるが、副作用として眠気を生じるものです。第一世代、第二世代に分類され、第一世代は鎮静作用が高いが、第二世代には少ないとされます。 副作用としての眠気を生じる効果が着目され、睡眠改善薬などとして、市販されているものがあります。
(ドリエルやネオディ) - ■メラトニン受容体に作用するもの
- メラトニン自体は自然に存在する物質で、人体内にも存在します。アメリカではサプリメントとして広く販売されていますが、日本国内では薬機法によりサプリメントとしての一般販売は規制されており、ネットなどでは個人輸入の形で購入が可能です。製薬としては、メラトニンの作用を模倣したメラトニン受容体作動薬が開発・販売されています。
- ■オレキシン受容体に作用するもの
- オレキシンは、脳の覚醒を維持するホルモンです。
普段の生活の中では、日中はオレキシンが多く分泌されていてオレキシン受容体に作用して覚醒を維持し、夜間になると分泌量が減ってきて、眠くなってきます。このオレキシンの作用に着目して開発されたのが、「オレキシン受容体拮抗薬」です。 オレキシン受容体拮抗薬は新しいタイプの睡眠薬で、これまでのGABA受容体に作用する睡眠薬のように、脳を強制的に睡眠状態にするのではなく、より自然な眠りが得られるとされており、これまでの睡眠薬では効果が不十分であったり、また、薬への耐性や依存性などの副作用も殆ど無いという特徴もあり、薬による副作用や起床後の倦怠感などに悩んでいた人々にも効果が期待されています。今後の不眠症治療などの選択肢の一つになりそうです。
睡眠薬の種類
長時間作用型
中間作用型
短時間作用型
超短時間作用型
の4種類で、作用時間の長さによって分類されています。
このうち、作用時間の短い短時間作用型、超短時間作用型は「睡眠導入剤」とも呼ばれます。 (効果は同じです)
睡眠薬の副作用
- 健忘、夢遊行動、悪夢、起床時の眠気、めまい、吐き気、頭痛
- 心臓や肝臓に負担がかかる
- 依存性が生じる
- 減薬、断薬で離脱症状が生じる
- ガンの発生リスクが高まるとされる
- うつ症状の発症や悪化リスクが高まるとされる
睡眠薬と睡眠導入剤の違い
作用時間の長さの違いから、睡眠薬と睡眠導入剤に分けて呼ばれることがありますが、薬の作用は同じです。睡眠導入剤は薬の作用時間が短く、薬が身体に残りにくいため、副作用の症状が出にくいとされています。