脳内のセロトニンを増やすためには、食事から様々な栄養素を摂取する必要があります。セロトニンの主原料となるトリプトファン以外にも、炭水化物、ビタミンB6、鉄分、マグネシウム、ナイアシンなどが関係します。効率よくセロトニンを増やすためにそれぞれの栄養素とセロトニンの関係などを紹介します。

トリプトファン

トリプトファンは、セロトニンの主原料となるアミノ酸です。トリプトファンは、人体内では作り出すことが出来ない、『必須アミノ酸』で食事から摂取するタンパク質が腸内で分解されることで合成されます。

トリプトファンを含む食品は、肉類や赤身の魚、乳製品、大豆製品などです。

トリプトファンは、腸内でタンパク質から分解され、肝臓を通って血中に入り、『アミノ酸トランスポーター』という物質を介して、脳内へと到達します。

炭水化物

トリプトファンを効率よく脳内へ運ぶには、食事のときに炭水化物を一緒に摂取したほうが効率が良いとされます。何故なら、トリプトファンが脳内へ送られるときに収納されるアミノ酸トランスポーターは、トリプトファン以外にも様々なアミノ酸が混在する、言わば「相乗りバス」です。

そのため、食事でせっかくタンパク質をたくさん食べても、トリプトファンだけがアミノ酸トランスポーターで満たされることは無く、他の多くのアミノ酸が混ざってしまうため、結果として脳内へ到達するトリプトファンの量は減少してしまうのです。

BCAAを抑える
食品中のタンパク質に占める必須アミノ酸のうちトリプトファンの割合はさほど多くありません。ところが、トリプトファンとアミノ酸トランスポーターで競合する、BCAAという筋肉の主原料となるアミノ酸は、割合が非常に高く、タンパク質に含まれる必須アミノ酸の50%ほどはこのBCAAで構成されます。

そのため、何も考えずにタンパク質を摂取しても、アミノ酸トランスポーターはBCAAで埋め尽くされてしまい、効率よくトリプトファンを脳内へ運ぶことが出来ません。こうした状況は、炭水化物を食事のときに一緒に食べると回避できます。

炭水化物とは御存知の通り、糖質のことです。食事で糖質が血中に増えると血糖値が急上昇し、その血糖値を低下させるためにインスリンが分泌されます。インスリンには、BCAAを筋肉への取り込みが促進させる働きがあるため、アミノ酸トランスポーターに混在するBCAAの割合が減り、その分トリプトファンの座席を増やすことが出来るというわけです。

効率よくトリプトファンを脳内へ運ぶには、食事のときにタンパク質と一緒に炭水化物を摂取すると良いでしょう。

ビタミンB6

セロトニンを合成するための主原料はトリプトファンですが、トリプトファンだけがあってもセロトニンを作ることは出来ません。

脳内でセロトニンを合成するのに必要な栄養素の一つが『ビタミンB6』です。ビタミンB6はアミノ酸の代謝や神経伝達に利用される生理活性物質です。

ビタミンB6はトリプトファンからセロトニンを合成するだけでなく、様々な神経伝達物質の合成に関わります。例えば、ヒスチジンからヒスタミンを、グルタミン酸からγアミノ酸を、フェニルアラニンからドーパミンをそれぞれ合成する際に補酵素として働きます。

ビタミンB6は、幅広い食品に含まれる他、腸内に生息する腸内細菌からも合成されるため、一般的にはあまり不足しない栄養素です。

ところが、現代人の場合、ビタミンB6が不足してしまう事態が起こることがあります。それは『腸内環境の悪化』です。腸内に生息する腸内細菌は、腸内環境の良し悪しで増えたり減ったりします。悪化すればその分、ビタミンB6を合成してくれる最近が減ってしまいます。

また、食べ物は胃や腸で消化・分解されて吸収されますが、腸内環境が悪いと、腸から体内へ栄養素を吸収する力が極端に落ち、体内に吸収されるビタミンB6(それ以外にも様々な栄養素も)が減少してしまうことがあります。

ストレス、睡眠不足、加工食品やファストフードのヘビロテ、偏食、ダイエット、数え上げるとキリがないほど、様々な腸内環境を悪化させる要因が現代人の生活の中に潜んでいます。

鉄分

鉄分は、体内で赤血球を作るのに必要なヘモグロビンの原料として知られています。ヘモグロビンが減少すると貧血を起こしやすくなり、その分酸素や栄養素の運搬効率が下がってしまいます。

セロトニンの主原料であるトリプトファンは、血流を介して脳内へと到達しますから、鉄分不足から起こるヘモグロビンの不足と貧血は、その分脳内へとトリプトファンを届ける効率が下がってしまうことを意味します。

また、鉄分はそれ自身がセロトニンを合成するのに必要な補酵素でもあります。セロトニンを合成するときには『トリプトファン水酸化酵素』という酵素が媒介してセロトニンが合成されます。鉄分はトリプトファン水酸化酵素の働きを補助する補酵素であり、セロトニンの合成に欠かせないミネラルなのです。

特に女性の場合、生理周期の影響で鉄分が不足しやすいと言われています。女性に起こるPMS(月経前症候群)でイライラや怒りっぽくなるなど症状が現れますが、こうした症状の影には鉄分不足から起こる脳内のセロトニンの減少が関わっているとも考えられます。

マグネシウム

マグネシウムは体内の様々な酵素の補酵素として重要な働きをするミネラルです。骨や歯の形成、タンパク質の合成と固化、エネルギーの代謝など、マグネシウム影響は多岐に渡ります。

マグネシウムは脳内では神経間で行われる情報伝達に関係しており、例えばセロトニン神経では神経間のセロトニンの放出と再取り込みにマグネシウムが必要となるため、マグネシウムが不足するとセロトニン神経間の情報伝達が鈍化して、セロトニンの働きが弱くなることが分かっています。

セロトニンの働きと関係の深い、うつ病を始めとした精神疾患や情動障害、女性の場合でPMS(月経前症候群)を発症する人は体内のマグネシウム量が大幅に低下してしまうことが明らかになっており、セロトニンを増やすためにはマグネシウムを十分に摂取する必要があります。

ストレスでマグネシウムが消費される
人の体はストレスを感じると交感神経系が刺激され、アドレナリンやノルアドレナリンなどのストレスホルモンが分泌されます。すると心拍数は高まり、筋肉は収縮して血圧を上昇させます。このとき大量に使用されるのが、『カルシウム』です。カルシウムは筋肉を収縮させるときの信号を伝える伝達役として働きますが、困ったことにカルシウムが取り込まれた細胞は石灰化されて、細胞が死んでしまい、これが動脈硬化や心筋梗塞などの原因となります。

こうしたストレス時のカルシウムの働きを抑制し、血管を拡張したり体を正常な状態に戻す働きをするのが『マグネシウム』です。ストレスが長く続けば続くほど、カルシウムと共にマグネシウムの消費されてしまうため、マグネシウム不足が起こってしまうのです。

マグネシウムが不足すると、ストレスホルモンであるノルアドレナリンやアドレナリンの分泌量が増えることが分かっています。ストレスホルモンが増えれば、その分ストレス状態が続き、セロトニン神経が減弱してゆきます。

その他にもマグネシウムはドーパミン神経の機能にも影響を与え、パーキンソン病や認知症との関わりがあるとされます。

マグネシウム不足によるドーパミンやノルアドレナリンの暴走は、セロトニン神経を減弱させる要因として知られており、こうした点からもマグネシウムは間接的にセロトニンの合成に影響を与えているといえます。

一方で、マグネシウムの過剰摂取は危険であり、成人の場合は一日300~350mg程度が適量とされます。
*食材から摂取する分には特に過剰摂取を気にする必要はありませんが、サプリメントから摂取する場合は注意が必要です。

カルシウムとマグネシウムのバランス
カルシウムと拮抗して働く性質があることから、カルシウムとの摂取バランスにも注意が必要です。[カルシウム2:マグネシウム1]程度の割合での摂取が推奨されています。

ナイアシン

ナイアシンは別名ビタミンB3、ビタミンの一種です。ナイアシンは直接セロトニンの合成に利用されるわけではありませんが、セロトニンと同じく、トリプトファンを原材料として合成される物質であるため、セロトニンとナイアシンは原材料を共有している間柄と言えます。

さらに、ナイアシンは、脳内にトリプトファンが入る前に肝臓で合成されるため、ナイアシンが大量に消費されると、その分、肝臓でのナイアシンの合成量が増え、その結果脳内へ到達するトリプトファンの量が減少してしまい、セロトニンの合成に影響が生じることがあります。

ナイアシンが充足していることが、脳内へトリプトファンを安定して届けてセロトニンを効率よく合成するための前提条件であるといえます。

一般的にナイアシンが大量消費されるのは、アルコールの分解です。そのため、毎日大量に飲酒するアルコール依存症のような生活習慣を続けると、ナイアシンの不足から、セロトニンが不足することが考えられます。

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