セロトニンは動植物に含まれる物質です。セロトニンを含む食べ物を食べればセロトニンが増やせるのでは、と思ってしまうところですが、セロトニンを含む食べ物を食べても脳のセロトニンは増えません。セロトニンを増やす食べ物についてご紹介します。

セロトニンを直接食べても効果がない理由

セロトニンは動植物に一般的に含まれる物質ですが、食事で食べ物を口から食べても、食べ物に含まれるセロトニンが脳へと到達することは無く、脳内のセロトニンを増やす効果は皆無であるとされます。

その理由は人が持つ免疫機能にあります。人の免疫の大部分は腸に集中しており、食べたものはここで篩いにかけられて、体内に吸収すべき栄養素などは腸から吸収されて肝臓を通じて血液中に流れ、その一部は脳へと到達します。

いくら腸の免疫機能によるチェックを受けたとは言え、血液中に混ざった物質が無作為に脳へ到達すると、万が一毒性がある物質などが混ざっていた場合、生命の維持に関わります。

そのため、脳の手前にも有害物質が脳内に入らないようにする『血液脳関門』という免疫機能があります。

血中から脳内へと入る物質は、血液脳関門の物理的なバリア機能によって遮られており、一定以上の分子の大きさを持つ物質は、血液脳関門を通り抜けることが出来ません。

実は、経口摂取で体内に入ったセロトニンも、この血液脳関門を通過することが出来ません。そのため、いくらセロトニンを含む物質を口から食べても、もしくは腕などの血管にセロトニンを注射して注入したとしても、脳内へ到達することが無く、脳内のセロトニンを増やす効果は期待できないのです。

脳内で合成されるセロトニンは特別

人の体内にあるセロトニンは、腸内におよそ90%が集中していて、腸のぜん動運動などに関与しています。

脳内にあるセロトニンは全体のうちのわずか2%程度しかありませんが、この脳内のセロトニンが人の精神の安定や、ストレス解消、睡眠、食欲、性欲、記憶、学習など、驚くほど様々な機能に関与しているのです。

脳内のセロトニンはそれだけ特別な物質であり、脳内のセロトニンが減少やセロトニンの合成材料が不足することは、健康に大きな影響を及ぼすであろうことは想像に難くないところです。

しかしセロトニンは口から食べても脳へと届かないので、脳でセロトニンを合成するにはセロトニンの材料となる物質を摂取して、それを脳へと運ぶ必要があるのです。

セロトニンを増やす食べ物とは

冒頭で説明したとおり、セロトニンを直接食べたり経口摂取しても脳内のセロトニンは増えません。では、脳内のセロトニンを増やす食べ物とは何かですが、これはセロトニンが合成される合成経路をたどることで明らかになります。

セロトニンは以下のような順番で合成されます。
トリプトファン→5-HTP→セロトニン

トリプトファン5-HTPという二つの物質がセロトニンの合成経路の上流にあるのがわかります。

トリプトファン

経路の上流にあるのがトリプトファンです。トリプトファンとは、アミノ酸の一種で、人体内では合成出来ないため、食事から摂取する必要がある、9種の必須アミノ酸の一つでもあります。トリプトファンなどのアミノ酸の多くは、血液脳関門を通過することが出来ます。

つまり、セロトニンの材料となるトリプトファンをたくさん食べることが、脳内のセロトニンの合成を増やす効果に繋がるのです。

トリプトファンは肉や魚、豆類などに含まれる『タンパク質』に含まれる物質ですので、タンパク質をたくさん食べれば、トリプトファンもしっかりと摂取することが出来ます。

トリプトファンを多く含む食材やレシピ

5-HTP

セロトニンの合成経路の上流にあるもう一つの物質が5-HTPです。5-HTPとはトリプトファンの代謝産物で、セロトニンの前駆体です。5-HTPも血液脳関門を通過することが出来るので、食事から摂取すると、脳内でセロトニンの合成を増やす可能性があります。

トリプトファンは、セロトニン以外にも様々な物質の材料となり消費されるため、たくさん食べてもセロトニンの材料として確保される量は僅かですが、5-HTPはセロトニンの直接の前駆体ということで、セロトニンへの変換率が非常に高いのがポイントです。

しかし、残念なことに、食品の中に含まれる5-HTPの量はほんの僅かしか無く、食品から5-HTPを摂取をしてセロトニンを増やそうとしてもその効果は余り期待できません。

また、5-HTPを濃縮したサプリメントなどがネットで販売されていることがありますが、日本国内では薬機法で販売は禁止されています。5-HTPはセロトニンへの変換率が高いため、脳内のセロトニンを増やしすぎて、『セロトニン症候群』などに繋がる可能性もありますので、安易な使用は避けるべきでしょう。

セロトニンを増やすには、トリプトファンは炭水化物と一緒に食べる

トリプトファンは、脳内へと運ばれる数あるアミノ酸のうちの一つです。脳内へアミノ酸が到達するには血液中のアミノ酸トランスポーターという物質が必要です。

個々のアミノ酸トランスポーターは、血中の様々なアミノ酸のうちから一つしか運ぶことが出来ません。血中にトリプトファン以外のアミノ酸が溢れている状態では、トリプトファンは脳内へと効率的に運ばれることがないのです。

たとえタンパク質が豊富な肉や魚、豆などをたくさん摂取しても、血中には様々なアミノ酸が混入してしまい、脳内ではトリプトファンが不足してセロトニン不足が起こることさえあります。

こうした状況を防ぎ、脳内へと効率的にトリプトファンを運ぶのに役立つのが炭水化物です。炭水化物は肝臓でブドウ糖になり、血液中の糖分として血糖値を上昇させます。

血糖値が上昇すると、その血糖値を抑制するために、インスリンが分泌されます。つまり、炭水化物を摂取するとインスリンの分泌が促進されるのです。

インスリンは、血中内にあるブドウ糖を全身の細胞へと取り込ませて血糖値を下げると共に、血中のアミノ酸を骨格筋へと取り込ませて、筋肉の材料にする働きを持っています。

インスリンにより、血中のアミノ酸は筋肉細胞へと取り込まれていきますが、トリプトファンは筋肉細胞へは取り込まれることが無いため、インスリンが分泌されると、結果として血中のトリプトファン以外のアミノ酸の濃度が低下した状態になります。

すると、アミノ酸トランスポーターは血中にあるトリプトファンを取り込んで脳内へとたくさん送ることが出来るようになり、その結果脳内でセロトニンの合成が促進される、というわけです。

肥満の原因になるとして忌避されがちな炭水化物ですが、こうして間接的にトリプトファンが脳内へと到達してセロトニンを増やすことを助けていることから、炭水化物もセロトニンを増やす食べ物の一つ、とも言えます。

まとめ

  • セロトニンを増やす食べ物とはタンパク質を豊富に含む肉、魚、豆など。
  • トリプトファンを効率的に脳へと届けるには、炭水化物も一緒に摂取すること。

photo credit: xhowardlee Wheet (license)


参考文献
厚生労働省 e-ヘルスネット – セロトニン
国際生命情報科学会誌 – セロトニン神経活性化の臨床的評価:脳波α2成分の発現
NCBI – PMID:1752859
NCBI – PMID:25108244
Wikipedia – セロトニン