セロトニンは腸や血液中、脳内に存在しており、それぞれの部位で様々な働きをしています。ここでは、主に脳内の中枢神経にあるセロトニンの効果と作用についてご紹介します。
体内時計の調節と覚醒作用
セロトニンは 交感神経系 を刺激し、血圧や心拍数を上昇させ、また 体温 調節をして覚醒状態を維持する効果があります。何らかの原因でセロトニンの分泌に異常が出ると、脳内の血管が収縮・拡張して、 偏頭痛 を起こすや、セロトニンが不足すると痛みを感じやすくなるとが分かっています。
また、視床下部視交叉上核において、 体内時計 のリセットに作用します。セロトニンは夜間の寝ている時には、ほとんどか全く働いておらず、逆に睡眠時は睡眠ホルモンである メラトニン が分泌されています。
網膜を通して光情報が視交叉上核に到達すると、メラトニンの分泌が止まり、セロトニン神経が働きはじめ、脳と体を覚醒させます。つまり、朝起きて太陽光を浴びると脳と体を覚醒させる作用がセロトニンにはあるのです。
情動の制御
情動とは、突発的な感情の浮き沈みの事を言います。
特に、何らかのストレスに接した時の不快な状態や興奮した状態などを指します。こうした時、興奮物質である ノルアドレナリン が分泌されて攻撃性が増しますが、セロトニンは、前頭前野のセロトニン5-HT2A受容体の働きにより、過度の興奮状態に陥ることを抑制します。セロトニンは俗にいう「キレる」状態を抑制していると言えます。
セロトニンが欠乏すると、ノルアドレナリンの作用が強まり、キレやすくなったり、攻撃的な性格になりやすいと考えられます。
衝動行動や依存症の抑制
セロトニンは、快感と報酬を司る神経伝達物質『 ドーパミン 』による過度の衝動的な欲求を抑制し、食欲や性欲も抑制します。このことから、セロトニンには食べ過ぎを抑えたり、ギャンブルやアルコールなどへの依存を抑制する効果があります。
セロトニンが正常に分泌されることで、健全な精神を保てるといえるでしょう。
セロトニンが欠乏すると、衝動を抑えることが難しくなり、食べ過ぎて肥満になったり、パチンコやギャンブル、アルコールやタバコなどの依存症に陥りやすくなると考えられますし、逆に依存性の高い行為を続ければセロトニンが欠乏していくとも言えます。
気分調節
セロトニンは、 ノルアドレナリン や ドーパミン の働きを適度に保ち、不安やイライラを抑え、また、感情が暴走するのにブレーキをかけてくれていて、人の気分、つまり精神状態をバランスの良い安定した状態に保っています。
こうした働きをしているセロトニンが欠乏することで、気分に変調を来たしやすくなり、衝動的、キレる、落ち着かない、鬱っぽくなる、と言った症状が現れやすくなります。
痛覚の抑制
セロトニンは痛覚を抑制(痛みを感じにくくする)する働きがあり、セロトニンによる痛覚の抑制機能が衰えることで疼痛(とうつう)や線維筋痛症など、原因不明の痛みを感じるようになることがあると推測されます。
記憶力・学習能力
セロトニンは記憶を司る脳内の海馬において、記憶の形成に関与しているθ(シータ)波の出現を抑制する働きをしていて、印象深い情報や必要な情報を記憶させる、または不要な情報が記憶されないよう取捨選択する働きをしていると考えられます。
セロトニンはθ波の出現を抑制し、記憶整理を邪魔するので、学習効果を高めるには、セロトニン神経の働きを抑えなければなりません。セロトニン神経の働きが弱くなるのは、物事への集中力が高まった時と、レム睡眠中です。
特に睡眠中は、セロトニン神経の働きがほとんど無くなり、この時に脳内で記憶の整理と長期記憶の定着が行われていると言われています。そのため、学習したことを効率よく記憶するには、(1)「集中した状態で学習すること」、(2)「適度の睡眠が重要」であるとされており、一夜漬けの勉強が決して効率的ではない理由でもあります。
また、音楽を聞いたりしてリラックスした状態や食事などのリズム運動中ではセロトニンが活性化されることから、学習には向かないとされます。
運動機能
セロトニンは運動機能に関与し、咀嚼(そしゃく、物を噛むこと)、呼吸、歩行と言った反復運動をスムーズに行うために働きます。また、運動ニューロンを通じて体幹部の姿勢筋や抗重力筋に作用して、姿勢をよくする作用や表情筋に作用して表情を豊かにさせる作用もあると考えられます。
セロトニンがこうした反復性のあるリズム運動機能に作用することから、 セロトニンを増やす にはリズム運動をするのが効果的であるとされています。
呼吸
呼吸時の気道支える筋肉は、覚醒時(起きている時)はセロトニン神経を介して制御されています。呼吸は一種のリズム運動と考えることが出来、リズムを意識して呼吸をすることで、セロトニン神経を活性化させることが出来ると考えられます。
セロトニンと呼吸の関係を意識的に利用する『 セロトニン呼吸法 』というものもあります。
しかし、睡眠中はセロトニン神経の働きが抑制されることから、気道閉塞を起こしやすくなります。これが 睡眠時無呼吸症候群(SAS) と言う睡眠障害の原因の一つです。
睡眠時無呼吸症候群は特に肥満や咽頭扁桃増殖症(アデノイド)の場合に発症しやすいとされています。
セロトニンは脳内で実に様々な働きをしています。しかし、何らかの原因でセロトニンが不足したり、うまく働かなくなったりすると、上で紹介したような働きが出来なくなり、様々な悪影響が心と身体に現れてしまうのです。
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- 参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット – セロトニン
- 国際生命情報科学会誌 – セロトニン神経活性化の臨床的評価:脳波α2成分の発現
- NCBI – PMID:1752859
- NCBI – PMID:25108244
- Wikipedia – セロトニン