水泳はセロトニンを増やすことが出来る運動のひとつです。脳内にあるセロトニン神経は歩行や呼吸、咀嚼(物を噛むこと)と言った一定のリズムを刻む、いわゆるリズム運動で活性化され、セロトニン神経が活性化されるとセロトニンの合成も促進されます。

水泳はリズム運動

水泳にはクロール(自由形)、平泳ぎ、背泳ぎ、バタフライ、犬かきなど、様々な泳ぎ方がありますが、いずれの泳ぎ方にも共通しているのが、「一定の動作を繰り返すリズム運動」であるという点です。

リズム運動は脳内のセロトニン神経を活性化させるシグナルであり、セロトニン神経が活性化されると、神経細胞で合成されるセロトニンを増やすことが出来ます。

水泳は全身の筋肉を鍛えることが出来る

水泳は手や足、背筋や腹筋など、全身の筋肉を満遍なく使って行われる運動であるため、全身の筋肉を鍛えて筋肉量を増やす効果が期待できます。筋肉量が増えると、筋肉で行われる熱産生の効率が上がるため、体温調節機能が向上し、低体温を改善する効果が期待でき、基礎体温を高く保つことが出来るようになります。

体内にあるセロトニンの一部は血液中の血小板の中に格納されており、気温変化などによって起こる血液の温度変化を、脳の視床下部にある『体温調節中枢』に伝えて、体温を調節する働きをしていると考えられています。

水泳によって体温の調節機能を向上させると、セロトニンも働きやすくなるのです。

水泳は姿勢筋の強化にも

陸上で生活する人間にとって、水中で泳ぐということはとても特殊な状態です。どのような泳ぎ方でも、水中では基本的に水面に身体を並行にして泳ぎます。こうした水中での特殊な姿勢を保ちながら泳ぐことは、陸の上では使われにくい、体幹、いわゆるインナーマッスルや姿勢を制御する抗重力筋(姿勢筋)を鍛えるのに効果的です。

実際、水泳のオリンピック選手などを見ると、どの人も背筋がピンと伸びて姿勢が良いのがわかりますが、これは日頃からのトレーニングにより、抗重力筋が十分に鍛えられていることが考えられます。

人間が立位を維持し、二足歩行できるのは、姿勢を無意識に制御する抗重力筋が発達しているためです。抗重力筋が衰えると姿勢が悪くなり、背中が曲がって猫背になります。抗重力筋が衰える原因は、加齢などの他に、セロトニンの不足が挙げられます。

実は、セロトニンは抗重力筋の働きを制御しており、セロトニンが不足すると抗重力筋が無意識で姿勢を保つ働きが弱くなるため、姿勢が悪くなりやすいのです。

水泳は、姿勢を制御する抗重力筋そのものを鍛え、同時にセロトニン神経も鍛えてくれるというわけです。

水泳で心肺機能の向上

水泳は全身で有酸素運動をする運動であり、また、水中に顔があるため常時呼吸が出来ず、息継ぎによって酸素を供給する必要があります。こうしたことから、水泳には心肺機能を大きく向上させる効果が期待できます。

心肺機能を向上させると、全身の血流が良くなることで、交感神経系の働きを改善させる効果が期待できます。セロトニンは交感神経系と共に働く神経伝達物質ですから、交感神経系の働きが良ければ、セロトニン神経も活性化され安くなります。

息継ぎで呼吸が一定化しやすい

水泳は一定のリズムで運動すると同時に、泳ぎ続けるにはできるだけ一定のリズムで、効率よく息継ぎをする必要があります。息継ぎ、つまり呼吸はセロトニン神経を活性化させる要素のひとつで、水泳で一定のリズムで息継ぎをすることは、セロトニン神経を活性化させるのに役立ちます。

特に水中での息継ぎを効率的に行うには、一度の息継ぎで素早く、大量の酸素を吸い込む必要があり、こうした効率的な息継ぎをするには水中での腹式呼吸が必要不可欠です。腹式呼吸は、セロトニンを増やす呼吸法だと言われています。

水中ウォーキングも効果的

泳ぎが苦手な人でも、プールの中を歩く、『水中ウォーキング』でセロトニンを増やすことが出来ます。ウォーキングはセロトニン神経を活性化させるリズム運動であり、なかでも水中での歩行は腰や膝への負担も少ないことから、お年寄りや怪我や障害により道路での歩行が困難な人でも、気軽に行えるリズム運動のひとつです。

温水でゆっくり泳ぐ

水中での運動は、水圧によりエネルギー消費が大きいだけでなく、水温が低いと体力の消耗が激しくなります。体力によほど自信がある人や、ダイエット効果などを強く期待する人でなければ、できるだけ温水のプールで水泳をしたほうが良いでしょう。

幸いなことに、セロトニンを増やすのに必要なリズム運動は、必ずしも激しい運動をする必要は無いと言われていますので、温水で負担を少なく、ゆっくりマイペースに泳いだり歩いたりするのが理想的です。

運動時間は5分から。継続が大事

一度に運動する時間は、身体への負担を考慮して、最初は休憩しながら5分程度からだんだんと増やしながら、20分程度継続するとセロトニン神経を活性化させる効果が期待できます。また、週に1度や2度の水泳を、長い期間継続して習慣的に行うと、セロトニン神経を活性化させるのにさらに役立ちます。

セロトニン研究の第一人者である、東邦大学名誉教授でセロトニンDojo代表の有田先生によると、「セロトニンの活性には3ヶ月ほどの継続が必要となる」と言います。

BDNFを増やす効果も

BDNFとは、脳の神経細胞の成長や再生を行うタンパク質の一種です。水泳に限りませんが、運動をするとBDNFを増やす効果が期待できます。BDNFが増えると、その分、脳内のセロトニン神経にある神経細胞の成長や再生が促進され、セロトニンを増やす効果が期待できるのです。

血行が促進され起立性調節障害の改善にも

起立性調節障害は起立時のめまいや立ちくらみなどを特徴とする、成長過程の子どもが起こしやすい自律神経系の障害の一種ですが、水中では水圧や浮力によって血行が改善されやすく、起立性調節障害であっても陸上よりも身体を動かすことが容易です。

水泳で運動する習慣を付けることで、自律神経系と心肺機能など循環器系を同時に鍛えることが出来るため、起立性調節障害の改善にも効果的です。

photo credit: alobos Life Swimming pool in blue (license)


参考文献
厚生労働省 e-ヘルスネット – セロトニン
国際生命情報科学会誌 – セロトニン神経活性化の臨床的評価:脳波α2成分の発現
NCBI – PMID:1752859
NCBI – PMID:25108244
Wikipedia – セロトニン