起立性調節障害と不登校

思春期の子どもに起こる起立性調節障害の抱える本質的な問題は、発症することで朝起きられず不登校になる、集中力が保てず学力が落ちる、いじめの標的になる、など社会的な問題と隣り合わせであるという点です。子どもが不登校になるきっかけや、不登校を続ける中でおこる問題などをご紹介します。

不登校について

まずはじめに、全国ではおよそ12万人程度の不登校児がおり、不登校は多くの子どもたちの間で起こっている問題です。不登校の子どものうち、3割~4割は起立性調節障害の症状を抱えていると言われます。

不登校の子どもが起立性調節障害を起こすのか、起立性調節障害の子どもが不登校を起こすのか、鶏か卵かはケースバイケースであるため、ここでは割愛します。

いずれにしても、不登校問題の影には少なからず起立性調節障害が潜んでいるのが現実なのです。

朝起きられない

不登校や欠席しがちになる子どもの多くは、朝起きて学校に行くことが非常に困難なことに感じています。周囲はそれを「何故?」とか「怠けている?」と感じます。

人は朝起きる時間になると、交感神経系が興奮して血圧が上がり、脳を血液が巡って覚醒します。しかし、起立性調節障害の場合、朝や午前中になっても交感神経系の興奮が弱いため血圧が上がらず、いわゆる低血圧状態のままなのです。

この状態を普通の人の感覚に例えるならば、いつも朝7時頃起きる人が夜中の3時に起こされて、ぼーっとして頭が回らない状態を想像すると良いでしょう。

学校に行きたくないから起きないのではなく、起きれないから学校に行けないのです。もちろん中には、学校で何かトラブル(同級生のいじめ、先生が恐い、給食が苦手、部活に行きたくないなど)を抱えているために、学校に行きたくない、という子どももいますが、この場合は起立性調節障害の症状とは異なります。

夜寝付けない

起立性調節障害のため朝起きることが出来ない子どもの多くは、同時に夜眠るべき時間帯になっても中々寝付けない、という問題を抱えています。

起立性調節障害の子どもが夜寝付けないのも、交感神経系が関係しています。起立性調節障害のせいで朝や午前中に興奮が弱かった交感神経系は、夕方から時間を遅らせて興奮しだし、夜には絶好調な状態になります。

起立性調節障害で朝や午前中はぼーっとして動けない子でも、夕方や夜になると徐々に元気になって、夜遅くまで遊び続ける子どもが多くいます。これは交感神経系が夜になって興奮しだしたことによる、自然な現象なのですが、周りの人間はそれを見て、余計に起立性調節障害のことを、ただ怠けているだけではないか、と誤解してしまうわけです。

ゲーム依存

起立性調節障害の症状を抱える子どもにとって、身近にあるゲーム機の存在はまさにうってつけの遊び道具です。小さなゲーム端末やスマホのゲームは、寝転がったままでも出来るため、起き上がるのが苦手な起立性調節障害の子どもにはもってこいです。

特に最近のゲームは大人でも夢中になるほど、中毒性が高いものが多く、年頃の子どもにとっては、勉強などよりよほど楽で魅力的です。学校に行かずに家の中に一日中いると、特にそうしたゲーム機への依存を高めていき、夜遅くまでゲームを続けてしまいます。

ゲーム自体が悪いわけではありませんが、ゲームに依存した状態は2つの点で悪い結果をもたらします。

ドーパミンの分泌で依存が深くなる

ドーパミンは物事への意欲や感心を高める物質で、勉強への興味や学習能力の強化にも役立ちます。ところがゲームばかりを続けると、ゲームをした時にはドーパミンが多く分泌される一方で、他の物事への興味が薄れ、言わばドーパミンによる『ゲーム依存』の状態を引き起こします。

ドーパミンはゲームばかりでなく様々な依存へ関わっており、アルコール、タバコ、パチンコ、ギャンブル、恋愛、薬物、とおよそ依存という言葉が付く行動の裏にはドーパミンの分泌が関わっています。

起立性調節障害の場合でも、家の中でゲームにばかり熱中することで、学校に行くこと、外で遊ぶこと、勉強することなど、他の物事への興味が薄れてしまい、学校に行く意欲が薄れてしまうことがあるのです。

スマホやゲーム機のブルーライト

ゲーム機やすスマホ、パソコン、テレビなどの電子端末からは、ブルーライトという種類の明るい可視光線が照射されています。この可視光線は有害なものではありませんが、強力な脳への覚醒作用を持っています。

起立性調節障害で夜寝付けない症状を起こした子どもたちが、夜になってもブルーライトを放つゲーム機をやり続けると、脳はブルーライトによる覚醒作用を受けて、中々就寝モードにならず、寝付けない症状を助長してしまうのです。

また、ブルーライトのような強力な光の刺激は、体内時計や自律神経系にも作用するため、時間を問わずブルーライトを浴びるという行為が、起立性調節障害を引き起こす自律神経系の働きに乱れが生じる原因とも成り得るのです。

ストレスの存在

起立性調節障害になりやすい子どもには一定の特徴があると言われています。内向的でおとなしく、一見物分りの良い性格の子どもが起立性調節障害を起こしやすいと言われています。

その理由は、こうした内向的な子どもたちは、自分の気持ちを親や兄弟、友達や先生など周囲に伝えることが苦手で、何か問題が起こっても、自分の中に溜め込んでしまうためにストレスを溜め込みやすいからです。

ストレスは、起立性調節障害の症状を悪化させる大きな要因です。また、ストレスは自律神経系の働きを大きく乱す要素であるため、ストレスが起立性調節障害を引き起こすケースも考えられます。

特に思春期を迎えて多感な子どもにとって、それまで経験したことのない様々なストレスは、計り知れない心の負担になってしまい、こころと体のバランスが崩れるきっかけになっているのです。

また、内向的な子どもばかりが起立性調節障害になるわけではありません。性格が明るい活発な子どもでも、思春期を迎えて、ある日起立性調節障害の症状が現れたときに、周りの理解が得られなければ、いつしかネガティブな感情に支配されるようになり、起立性調節障害の症状は悪化していくのです。

学校が全てではない

ほとんどの場合、起立性調節障害は生命に関わるような病気ではありません。そのためこの問題が軽視されているのも事実ですが、不登校の子どもたちにとって、起立性調節障害の症状そのものよりもつらいのは、周囲の理解が得られないことによって学校や社会に参加することが出来ない、ということです。

親や教師は、学校に行くことこそが子どもの将来にとって重要で、まるで学校が全てであるかのように考えがちです。しかし今の世の中、決して学校が全てではありません。

不登校の問題は、日本の社会全体が抱える構造的な問題でもあり、公立の学校以外にも不登校児向けの通信教育や、ネットで通える学校、フリースクールなども増え、勉強する機会や社会と接する機会は、学校でなくても作れます。

また、学校以外で勉強することが、決して劣った結果を生み出すことはありません。

そして、起立性調節障害の特徴として、しっかりと長期的な治療に取り組めば、成人以降には症状が改善することがほとんどであるため、不登校であっても、それ以外に社会と接する窓口さえあれば、その後しっかりと自立していくことが可能です。

親を始め周囲の人間が、起立性調節障害という症状をより理解し、寄り添い、その子に学校以外の選択肢を示してあげるやり方も、時としてその子の将来に繋がるのではないかと思います。

全ては知ることから始まります。

photo credit:Honza Soukup