セロトニンとナイアシン

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脳内のセロトニンと、ビタミンの一種であるナイアシン(ビタミンB3)には、意外な共通点があります。この二つの物質は、同じ原材料として、トリプトファンを消費して合成される物質なのです。そのため、ナイアシンが不足するとセロトニンも不足する場合があります。

セロトニンとナイアシンは材料が競合する

セロトニンとナイアシンは、共に必須アミノ酸であるトリプトファンを材料として合成される物質です。二つの物質は食事などで摂取するトリプトファンを分け合っているのです。
*ここで紹介する「セロトニン」とは脳内で神経伝達物質として働くセロトニンのことです。

トリプトファンの分配が平等に行われていれば、ナイアシンとセロトニンの関係性は材料を共有しているということで話は終わったのかもしれません。

しかし、話をややこしくするのが、ナイアシンとセロトニンの合成場所の違いと、それによって起こる材料配分の不均衡です。二つの物質の大まかな合成順を紹介します。

  1. ナイアシンとセロトニンの原料となるトリプトファンは、食品中のタンパク質が腸内で分解されて合成されます。
  2. トリプトファンは小腸から門脈を通って肝臓へと運ばれ、肝臓でナイアシンが合成されます。
  3. 残ったトリプトファンは血管内に入り、アミノ酸トランスポーターによって血液脳関門(BBB)を通り脳内へ入り、脳内でセロトニンが合成されます。

このように、ナイアシンとセロトニンでは、必ずナイアシンが先に合成されるということ、これを川の流れで例えれば、ナイアシンはセロトニンよりも上流で合成される物質であるといえます。

こうして、ナイアシンとセロトニンは同じ原料を共有して作られる物質であるにも関わらず、ナイアシン優位の合成順で合成されているのです。上流のナイアシンの合成に問題がなく、下流のセロトニンへも材料が十分に行き渡るのであれば何ら問題は起こりません。

しかし、仮に何らかの原因で大量にナイアシンが必要になったときは、川の上流(肝臓)でトリプトファンが大量に消費されてしまい、下流(脳内)のセロトニンの合成にはトリプトファンが足りない、という事態が起こりえるのです。

脳内のセロトニン

体内には様々な場所にセロトニンが存在します。そのため、セロトニンが存在する部位によっては、上でしている説明と違う合成順でセロトニンが作られていることもありますが文頭で注釈したとおり、この文章で言及しているセロトニンは、脳内のセロトニンについてです。

最も多くセロトニンが存在するのは腸内で、全身のおよそ90%のセロトニンは腸内にあります。次に多いのが血液中の血小板の中にあるセロトニンでおよそ8%、脳内に存在するセロトニンは残りの2%とほんの僅かな量だけです。

よく混同されがちですが、腸内や血液中のセロトニンは、脳内へ入ることはありません。これは血液脳関門という脳と血液を物理的に遮断するバリアがあるためです。そのため、いくら腸内でセロトニンを増やしても、脳内のセロトニンは増えません。脳内のセロトニンは、脳内で合成され脳内で働く独立したセロトニンなのです。

大量飲酒でナイアシンが不足

ナイアシンの体内での働きは非常に多岐に渡ります。ナイアシンの働きなかで、ナイアシンとセロトニンの合成に特に関係が深いのが、ナイアシンによる『アルコールの分解』です。

ナイアシンはアルコールから作られる『アセトアルデヒド』という二日酔いの原因になる毒素を分解するのに必要な『補酵素』として働きます。

つまり、お酒を分解して無毒化するのにナイアシンが必要なのです。そのため、日頃から晩酌などでお酒を大量に飲むような生活を続けると、ナイアシンも大量に消費されてしてしまう可能性があります。

ナイアシンの不足→セロトニンの不足

ナイアシンとセロトニンは、共にトリプトファンを原材料として合成される物質です。そのため、お酒の飲み過ぎでナイアシンが大量に消費されると、トリプトファンはナイアシンの合成にどんどん使用されてしまい、その結果セロトニンを合成する分のトリプトファンが不足してしまうという事態が起こるのです。

もちろん、普通の生活をしていればこうしたことは中々起こりませんが、度を越した飲酒習慣を続ければ、ナイアシンの不足、そしてセロトニンの不足が起こる可能性があるといえます。

ナイアシン不足で起こるペラグラ

ナイアシンが機能的に不足するペレグラという病気があります。ペラグラとは、トウモロコシを主食とする地域で起こりやすい皮膚の病気のことで、ナイアシン欠乏症とも言います。

ペラグラは、主食としてトウモロコシを食す地域で起こる地域特有の病気のようなものです。トウモロコシには、ナイアシンの原料となるトリプトファンがあまり含まれていないため、こうした地域の人々は元々ナイアシンが不足しやすいことがペレグラ発症の原因であると考えられます。

尚、トウモロコシをアルカリ処理すると、栄養価が高まりさらにナイアシン不足も防げるそうです。これは中南米では古代文明から続く生活上の知恵で、現代では「ニシュタマリゼーション」と呼ばれます。

ペレグラの症状
ペラグラの症状は、皮膚の発疹など以外にも吐き気、便秘、下痢などの症状や、体内外に炎症が生じます。また、精神面の症状として、疲労感、不眠、脳の機能障害、幻覚、健忘などが生じ、最悪の場合は死に至ることもあります。

日本では、トリプトファンが不足する事態が少ないため、通常はペラグラを発症することはありませんが、アルコール依存症などで、アルコールを毎日浴びるように飲み続けると、ナイアシンが枯渇して、ペラグラの症状が現れることがあります。

まとめ

  • 材料を共にするセロトニンとナイアシン。
  • 脳内のセロトニンを増やすためにはナイアシンが充足している必要がある。
  • ナイアシンの極端な不足はセロトニンの不足にも繋がる場合がある。
  • お酒の飲み過ぎに注意することが、ナイアシン不足を防ぐために最も重要。

photo credit: vic_burton Home produce – Agrotourism Kalpic, near Lozovac and Krka National Park (license)



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