腸には食物を吸収する際、病原菌や有害物質は吸収せずに、体に無害で有益な栄養素だけを吸収しようとする仕組みが備わっています。
小腸壁にある粘膜がそうした選別を行う、言わばバリアのような役割をしており、一定以上の大きな分子構造の物質は腸壁を通過出来ないようになっていることから、『腸壁バリア(腸管バリアとも)』と呼ばれることもあります。
腸壁バリアの重要性と、日本人の間でも増加している腸壁バリアの崩壊によって起こるアレルギー症状などについてご紹介します。
腸壁バリアによって免疫が保たれる
人は食事をすることで、体に必要な栄養素を補給しています。
体に必要な栄養素は、消化酵素や胆汁、腸内細菌などの力を借りてアミノ酸や必須脂肪酸、ビタミンやミネラルのように、出来るだけ小さく、単純で無害な分子構造に変えてから粘膜を通り抜けて吸収されます。
予め決まった大きさや形に合致しない分子構造を持つものは通過させないことで、体に有害なものや異物が混入することを防いでいます。
こうした腸の持つフィルター機能がいわゆる『腸壁バリア』で、これは例えるならば空港の税関のようなものです。
税関(腸壁)は、定められたパスポートを持った、善良な栄養素だけを通し、パスポートを持たない病原菌や異物は税関職員(免疫細胞)が排除します。
こうした腸壁バリア機能によって人は体内に異物や病原菌、ウィルスなどを取り込まないように出来ているのです。
つまり、腸壁バリアによって人の免疫が保たれているともいえます。
腸壁バリアの働きが弱る人が急増中
人の免疫を保つ上で重要な働きをしている腸壁バリアですが、不規則な生活やストレス、暴飲暴食などによって腸内環境が悪化すると、腸壁の粘膜質が失われたり、穴が広がったり破れたりするなど、腸壁バリアが損なわれてしまうことがあります。
一度何らかの原因で腸粘膜の穴が広がってしまうと、本来は腸粘膜を通過できない未分解のタンパク質などが腸壁を通過すると、免疫細胞はそうした異物をアレルゲン(アレルギーの原因物質、抗原)と認識して、それに対抗する抗体を作り出してしまい、アトピーや食物アレルギーなどを引き起こしてしまいます。
つまり、バリア機能の低下はアレルギー症状の原因となっているのです。
近年、乳幼児を中心に食物アレルギーや花粉症、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患が急増している原因の一つとして、腸壁バリアに損傷が起こっている人が急増していることが考えられています。
このように、腸粘膜の穴が広がってしまうことを『腸管壁浸漏症候群』と言い、いわゆる腸壁バリアが損傷してしまった状態を指します。
英語では『リーキーガット症候群(Leaky Gut Syndrome)』と言われています。
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