歳を取ると、十分な睡眠時間を確保したくても、なかなか寝付けなくなり、眠りも浅くなります。睡眠に関わる問題は加齢とともに増えていきます。睡眠の質は加齢とともに低下していくともいわれており、睡眠の質が悪ければ心身に大きな影響を与えてしまう場合もあります。高齢者にとっての適切な睡眠時間や良質な眠りにつながる心掛けなどをご紹介します。

高齢者に必要とされる睡眠時間の目安

高齢者に必要とされている睡眠時間は7~8時間で、最低でも5~6時間の睡眠時間が求められています。(※1)

総務省統計局が平成24年に発表した「平成23年社会生活基本調査」における「生活行動に関する結果」では、平成18年と平成23年のいずれも高齢者(60歳以上)の睡眠時間は7~9時間前後で推移しており、大幅な増減は見受けられません。しかし、平成23年における高齢者の睡眠時間は男女ともに平成18年より微減しており、減少傾向にあることが分かっています。(※2)

このことから、時代による生活習慣の変化などにより、睡眠時間が十分に確保できなくなっている可能性もあるため、今後、特に高齢者は意識的に睡眠時間を確保することが重要となります。

高齢者の睡眠時間の減少と健康の関係性

加齢は睡眠に影響を及ぼし、就寝時間や起床時間、そして睡眠の質に変化をもたらすことが分かっています。

睡眠時間が減少する要因の一つとして挙げられるのが、メラトニンの分泌量の減少です。メラトニンは「睡眠ホルモン」として知られ、自然な眠りを誘う作用を持っています。

メラトニンの分泌量は加齢とともに減少することが明らかになっているため、高齢者の睡眠時間は若い人よりも少なくなりやすいといえます。

また、加齢による体内年齢の変化で、血圧や体温といった睡眠に関わる生体機能リズムが前倒しになり、一般的に高齢者は早寝早起きになる傾向があります。(※3)そのため、必ずしも「睡眠の変化=睡眠障害」となるわけではなく、加齢によって早寝早起きといった睡眠習慣の変化が起こることは決して珍しいことではありません。

高齢者の睡眠で気をつけなければならないのが、睡眠習慣の変化の裏にストレスや生活リズムの乱れが潜んでいるケースです。

睡眠時間の減少や睡眠の質の低下は、心身に大きな影響を与える場合が多いとされており、高齢になると退職や家族との死別といった環境の変化により、ストレスや生活リズムの乱れが生じやすく、結果的にこれが眠りの浅さや睡眠不足を招く原因となっているケースは少なくありません。

こうした変化によって誘発された睡眠障害は、脳に関わる神経細胞の働きを低下させ認知症になるリスクを上げてしまうなど体に大きな悪影響を及ぼしてしまうことが考えられます。(※4)

そのため、睡眠不足による心身への悪影響を抑え健康寿命を延ばすため重要なのは、単に睡眠時間を確保するだけではなく、生活リズムを整えて良質な睡眠を取れるようにすることです。

高齢者の睡眠は量よりも質が重要

高齢者の睡眠の特徴として、次のようなものが挙げられます。

  • メラトニンの減少により睡眠時間は減少傾向になる
  • 体内時計が前倒されて早寝早起きになりやすい

睡眠時間が減少したことを心配する人が大勢いますが、高齢者の場合は睡眠時間の減少そのものは余り心配する必要がありません。

人は必要だから睡眠を取るわけで、お年寄りが若い時と比べて睡眠時間が少なくなったのは、睡眠の必要性が下がったためというケースが多いのです。

まず、歳を取ると、それまでに様々な人生経験を積んできたため、新しい発見や学びをする機会が減少します。そのため、睡眠中に活発に行われている記憶の整理や取捨選択を行う必要が若い頃に比べると少なくなります。

また、高齢になればなるほど筋肉量や骨密度は低下し、肉体活動や基礎代謝も低下して一日の消費エネルギーが低下するため、睡眠中に体の細胞や組織を修復したり再生する必要性も低下します。

つまり、高齢になるとその分、脳や体が省エネで生活できるようになるため、長時間の睡眠を取らなくてもよい体質へと変化するのです。

睡眠の質の低下に要注意
注意すべきは、睡眠時間が減少することでなく、『睡眠の質』の低下です。睡眠の質とは、寝付きまでにかかる時間の長さや、睡眠中にどれだけ熟睡できているか、睡眠の途中で目が覚めないか、と言った事柄で計られます。

睡眠時間そのものは減ったけれど、短い時間でしっかりと熟睡できており、日中にも眠気を感じることが少ない、といった場合はあまり睡眠時間の減少を気にしなくても良いでしょう。

もしも、以前よりも寝付くまでに時間がかかるようになったとか、寝てもすぐに目が覚めてしまう、眠りが浅くなった、そして日中に強い眠気を感じる場合などは、睡眠の質が低下している可能性があり、これは特に要注意です。

睡眠の質の低下は、効率的に睡眠が取れていないことの現れであり、加齢により発症しやすい生活習慣病やガン、循環器系の病気の発症リスクを増加させます。また、認知症やうつ病など、高齢者が発症しやすい脳機能の低下に伴う病気や精神疾患も起こしやすくなります。

高齢者が質の良い睡眠を保つために

就寝環境の整備
夜に良質な睡眠をとるためには、室温や照明といった就寝環境を睡眠に適した状態に整えることはもちろん、日中の行動や心掛けも大切です。

食事は三食、バランス良く
活力の源である食事は、朝昼晩と決まった時間、間隔で規則正しく、また、栄養バランス良くとりましょう。

日光を浴びる
日中は自然光を浴びて積極的に活動することが一番の睡眠対策だといわれています。それは、自然光を浴びることによってメラトニンの分泌が促進され、体内リズムも安定して、昼夜のバランスがとれるようになるからです。

日中、自然光を浴びるためには、運動や外出の頻度を増やし、積極的に体を動かすことが求められるので、自発的あるいは家族の協力のもと、意識してその機会を作っていく必要があります。

昼寝のしすぎは要注意
一般的に食後は眠気を感じやすくなりますが、高齢者は昼寝に気を付けなければならなりません。

昼寝をすることで睡眠のバランスが乱れる可能性があるため、夜間にしっかりと熟睡できるようにするためには長時間の昼寝は避けることが肝心です。

ほかにも、睡眠や体調に影響を与えるアルコールやカフェイン、ニコチンの摂取を避け、従来の生活習慣を変える努力を日頃から心掛けることも大切です。(※3)

良質な睡眠で健康寿命を伸ばすには

睡眠をとることは心身の健康にもつながるため、日頃から生活習慣を整え質の良い睡眠をとることで健康寿命の伸ばす効果が期待できます

長年の生活習慣は体に染みついていて、高齢になればなるほど簡単に変えることができない人も多くなります。とは言え、一度に全てを変えようとすると心身がついて行かず、余計にバランスを崩してしまうこともあるため、まずはできる範囲から少しずつ変えていくことがコツです。

新しく取り入れた習慣が自身の生活リズムに根付いてきたら、次にハードルが高いと思われる課題に挑戦し、最終的に生活習慣の改善と睡眠の向上を実現しましょう。

photo credit: Anne Worner John (Explored August 9, 2017) (license)


参考文献:
※1.【National Sleep Foundation】HOW MUCH SLEEP DO WE REALLY NEED?
※2.【総務省統計局】平成23年社会生活基本調査結果の概要(PDF)
※3.【e-ヘルスネット】高齢者の睡眠
※4.【認知症の窓】高齢者の睡眠不足は認知症を招く