疲労の原因物質と言うと、これまで「乳酸」が有名でした。従来の乳酸の疲労原因物質説とは、(1)運動をして疲れが溜まると乳酸という物質が出る→(2)乳酸が疲れの原因である。という浅い考察に基づくド直球なものでした。ところが、2004年のScience誌に掲載された論文で、乳酸が疲労物質であるという説は否定され、さらに最近では乳酸自体は疲労を和らげてくれる物質であるということもわかってきました。
目次
疲労の正体とは?
では、疲労の正体とは一体なんだったのでしょうか?
2008年、東京慈恵会医科大学の近藤一博教授によって、乳酸に代わる疲労物質として、発表されたのが、「FF,ファティーグ・ファクター(Fatigue Factor、英語で疲労因子の意)」です。
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疲労物質「FF」とは?
FF(ファティーグファクター)は疲労を感じる原因になる物質でタンパク質の一種です。
肉体的な疲労、精神的な疲労の両方でFFが増加することが分かっています。FFは細胞死(アポトーシス)を促進させ、心臓病や糖尿病などの生活習慣病の原因にもなると言われています。
FFが発生するのは活性酸素のせい
FFの発生する仕組みとは、例えば運動をすると、体内で大量の酸素を消費し、同時に大量の活性酸素が生まれます。
通常、活性酸素は病気への免疫や毒物の解毒作用などに利用されていますが、激しい運動などにより活性酸素が過剰に発生すると、細胞を酸化(錆びる)させてしまいます。また、活性酸素は細胞核内のDNAを傷つけ、ガン細胞を作り出したり、動脈硬化の原因にもなることが分かっています。
そして、活性酸素が細胞を酸化させる時、FFが発生して脳へ疲労の信号を送ると共に、筋肉や細胞の働きも低下し、疲労感が生じます。これがFFの発生と疲労の仕組みです。
つまり、疲労の直接の原因になっているのは活性酸素であり、疲労が起こる流れは、
1.体内で活性酸素が増加
2.疲労を感じる物質FFが発生
3.脳が疲労を感じる
という流れになるかと思います。
疲労回復物質「FR」とは?
FFが発生して疲労を引き起こすと同時に、その疲労から回復するために人体が生成する物質、つまり疲労回復物質が「FR、ファティーグ・リカバー・ファクター(Fatigue Recover Factor,英語で疲労回復因子の意)」です。
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FRは、FFが発生すると作られる性質があり、FFの発生によって傷ついた細胞を修復し、身体が疲労から回復する働きを促す作用があります。
つまり、疲労の回復に効果があるFRが発生しやすい体質なら疲れにくくなるし、逆にFRが不足していると、疲労が回復しにくい、つまり疲れが抜けにくくなるというわけです。
では、FRはどうすれば増やすことが出来るでしょうか?
疲労回復物質「FR」を増やすには?
FRは、FFが発生するような負荷が身体にかかることで発生することが分かっています。つまり、通常は特に意識しなくても、FFによって生じた疲労はFRによって打ち消されている事になります。
▼過度の運動はFRが間に合わない
ただし、FFが過剰に発生するような激しい運動をすると、身体を壊してしまう原因になります。特に、歳を取って老化するにつれて、人の体はFRを作り出す力が弱くなる(つまり疲れが溜まりやすくなる)ため、一般人には過度な運動はご法度です。
▼適度な運動が◎
無理なく適度にFRを増やすには、柔軟体操やスクワット、軽いジョギングやウォーキングなど、いわゆる適度な運動が最適だと言われています。毎日10分から20分程度、「軽めの運動」をすることで、FRが作られやすくなり、疲労がたまりにくい身体を作ることができるそうです。実際、毎日10分から20分程度のジョギングを1週間程度続けると、FRの量が増えて疲れにくくなることが実証されています。
イミダゾールジペプチドでFRが増える
食べ物の中にはFRを作り出すのを助けてくれる物質が含まれています。
特にFRを多く作り出すのが「イミダゾールジペプチド」という抗酸化作用を持つアミノ酸で、このイミダゾールジペプチドの持つ抗酸化作用により、疲労の原因である活性酸素を抑えて、細胞が錆びにくくなり、疲れが早く回復します。
▼イミダゾールジペプチドは鳥の肉や回遊魚に豊富
イミダゾールジペプチドは動物の骨格筋に多く含まれ、特に豚や牛などの活動量の少ない動物の肉よりも、活動量の多い鳥の胸肉やササミ、マグロやカツオなど赤身の回遊魚に豊富に含まれています。
イミダゾールジペプチドを含む食品を食べることで疲労回復に効果のあるFRを増やしやすくなります。また、イミダゾールジペプチドは活性酸素を抑えてくれるので、体の酸化防止つまりシワやシミ、たるみなどの老化現象も抑えてくれるので、アンチエイジング効果もあるとも言えます。女性には特にうれしいおまけです。
FRはリラックス時に増える
FRが増えるのは、副交感神経が優位になる、リラックスした時や昼寝や睡眠時です。
生活リズムの中で言うと、日中、仕事をしているときはFRは増えにくく、つまり疲れが溜まりやすく、家に帰ってからリラックスし、しっかりと睡眠をとることでFRが発生して疲労が回復するというわけです。
そのため、睡眠不足が続くと疲れが溜まりやすくなります。
尚、日中は交感神経が優位なため、FRが出にくくて疲れがたまりやすいのですが、昼寝をすることで一時的に副交感神経が優位になりFRを増やして、疲れをとることが出来ます。
まとめ
- 疲れの原因物質は乳酸ではなくFF(ファティーグファクター)
- FFは活性酸素が増加すると増える
- 活性酸素が増える原因は、激しい運動や過度のストレス
- 活性酸素やFFの発生を抑えてくれるのはFR(ファティーグリカバリーファクター)
FRを増やして疲れにくい体質にするには以下のような事柄に気をつけましょう。
- 適度な運動を一日10分
- イミダゾールジペプチド(鳥や魚の肉に豊富)を摂るとFRがアップ
- リラックスして副交感神経を働かせるとFRがアップ
- 夜しっかりと睡眠をとるとFRがアップ
- 日中の疲れには昼寝が効果的
ぜひ実践して疲れにくい体を手に入れましょう。
photo credit: JoyTek grosse fatigue …(license)