脳内で神経伝達物質として働くセロトニンは睡眠と深い関わりがあります。セロトニンは睡眠ホルモン『メラトニン』の材料となり、セロトニンが不足すると、メラトニンが分泌されにくくなるため、寝付きが悪い、眠りが浅いなど不眠症状が現れやすくなります。

セロトニンの働き

セロトニンは日中に働く神経伝達物質で、交感神経系を刺激する作用を持ちます。日中活発に活動できるのは、セロトニンが正常に働いて交感神経系が刺激され続けているおかげです。セロトニンが足りないと、弱気になりやすい、集中力が続かない、いらいらする、眠気が起こる、などの症状が現れます。

セロトニンにはもう一つ大事な働きがあります。それは、『体内時計』への作用です。

人の体内時計は外部からの刺激(太陽光、温度変化、湿度などの環境変化)によって調節されますが、特に体内時計を強く刺激するのが太陽光です。太陽光の光は網膜から脳に伝わり、セロトニン神経が刺激を受けて交感神経を興奮させ、同時に体内時計にも刺激を送り、体内時計を調節します。

調節が必要なわけ
調節が必要な理由は『人の体内時計は地球の自転と少しズレているため』です。人の体内時計は24時間よりも少し短かったり長かったりしていて、毎朝太陽が昇ったときにその光を目から脳に伝えることで、セロトニン神経が刺激され、体内時計が調節されているのです。

体内時計が調節されないと?
もしも、何らかに理由で長期間体内時計の調節が行われないとどうなるでしょうか。

体内時計はゆっくりと、しかし確実にズレていきます。一度狂った体内時計を治すのは簡単なことではありません。体内時計が乱れることで起こるのは、自律神経系のバランスの乱れです。

自律神経系の乱れからセロトニンの分泌も乱れる

セロトニンは、交感神経系副交感神経系からなる、自律神経系の働きと同調して分泌される物質です。

交感神経系が働いているときには、セロトニン神経が興奮し、セロトニンの分泌が促進されます。逆に、交感神経系が休んで副交感神経系が働いているときには、セロトニンは分泌が減少します。夜寝ている間はセロトニンの分泌は停止します。

こうしたセロトニンの分泌リズムは、自律神経系の働きと、その大元にある体内時計の働きによって形成されるため、体内時計が乱れて、自律神経系のバランスも乱れると、セロトニンも本来分泌されるべきときに分泌されにくくなるという不都合が起こるのです。

セロトニンの分泌が乱れるとメラトニンにも影響が出る

セロトニンは、睡眠ホルモンメラトニンを生合成するために使用される、言わばメラトニンの材料です。メラトニンは夜の睡眠前になると自然と分泌が促進されて、眠りを促す物質です。

ところが、自律神経系が乱れてセロトニンの分泌にも乱れが生じると、材料であるセロトニンを失ったメラトニンも、正常に分泌ができなくなり、夜の睡眠にも影響が現れます。

メラトニンの分泌異常から不眠へ

メラトニンの分泌が悪くなると、最初は寝付きが悪い、眠りが浅くて睡眠中に目覚めてしまう、と言った症状から、次第に強い不眠傾向が現れ、ベッドに入ってから何時間経っても眠れない、朝まで一睡も出来ない、と言った不眠症状が生じる場合もあります。

こうして、
体内時計の乱れ→自律神経系の乱れ→セロトニンの分泌が乱れる→メラトニンの分泌が乱れる→不眠症状

という流れが出来上がるのです。

セロトニンが不足すると不眠に

セロトニンは様々な原因で分泌が抑制されたり、分泌量が不足することがあります。先に紹介した体内時計の乱れもその一つです。

トリプトファンの不足
セロトニンはアミノ酸である『トリプトファン』を原材料として分泌されます。無理なダイエットや偏食などで、トリプトファンの摂取が足りないと、セロトニンの生合成が不十分になる場合があり、そこから『メラトニン不足→不眠』へと繋がります。
ストレス
ストレスは、セロトニンを分泌させるセロトニン神経を減弱させる大きな原因です。突発的な強いストレスや、慢性的で持続するストレスを体験すると、セロトニン神経が減弱して、セロトニンの分泌が減少して、そこからメラトニン不足→不眠への繋がります。
生活リズムの乱れ
生活リズムの乱れは、体内時計を乱す原因となります。現代社会では多種多様な生活様式があり、夜勤やシフト制の職場など、不規則な就業リズムで働く人も多く存在します。不規則な生活リズムを送ることで、体内時計は乱れやすく、そこからセロトニンの分泌異常が起こる場合もあります。

不眠と同時に抑うつ症状も

セロトニンの不足や分泌異常によって起こる不眠症の先に待っているのは、うつ病を始めとした精神疾患です。セロトニンの減少は、メラトニン不足から来る不眠症状を起こすだけでなく、セロトニンの持つ抗ストレス作用が損なわれるため強い抑うつ状態に繋がり、うつ病の諸症状が現れやすくなると考えられています。

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参考文献
厚生労働省 e-ヘルスネット – セロトニン
国際生命情報科学会誌 – セロトニン神経活性化の臨床的評価:脳波α2成分の発現
NCBI – PMID:1752859
NCBI – PMID:25108244
Wikipedia – セロトニン