セロトニン不足を防いで、健康な毎日を過ごすには、日常の食事に気を付けることも必要です。食事をすることでセロトニンが効果的に増えやすため『トリプトファン』が必要な理由、その他ビタミンやミネラルなどの必要な栄養素、食事と腸内細菌との関係をご紹介します。

セロトニンと食事の関係について

セロトニンと食事には密接な関係があります。 その理由は、

  1. セロトニンの原料であるトリプトファンは、食べ物から摂取する必要がある。
  2. 不規則な食事や無理なダイエットで、栄養が不足すると、セロトニンの材料(=トリプトファン)が不足する。
  3. セロトニンを増やすにはリズム運動が有効で、その中には食事の際の咀嚼(そしゃく。食べ物を噛むこと。)も有効とされる。
  4. トリプトファンを脳へ送るには『腸内環境を整えること』が非常に重要で、腸内環境を整えるには食事から。

セロトニンの原料となるトリプトファンというアミノ酸はもともと人体では作られていない栄養素です。
肉類、魚類、米、麺類、乳製品など、タンパク質を含む食材に多く含まれています。
無理なダイエットや不規則な食生活を送ることで、これらの食品の摂取が不足すると、セロトニンも不足してしまう可能性があります。

また、セロトニン神経を鍛えるには、リズミカルな運動が有効であるとされており、規則的な生活、ウォーキング、スクワット、そして食事の際に食べ物をよく噛むことも有効であるとされています。

さらに、様々な研究からセロトニンの生合成に欠かせないトリプトファンを脳へ送るには『腸内環境を整えること』が非常に重要であることも明らかになってきました。

腸内環境を整える上でもっとも重要なのは『食事』であり、それに含まれる『栄養素』です。

従って、現代人にありがちな乱れた食生活や無理なダイエットを見直し、規則的でバランスの取れた食事を取ることで、セロトニンを有効に活用することにつながるのです。

タンパク質と炭水化物を一緒に取ると吸収アップ

セロトニンの合成に必要なトリプトファンは、脳内に運ばれる際にアミノ酸トランスポーターという物質を介して血液脳関門(異物を脳内へ入れないようにする関門)を抜けます。

しかし、トリプトファンが利用するアミノ酸トランスポーターは、トリプトファン以外にもBCAAと呼ばれるアミノ酸群も同時に運んでおり、トリプトファンだけを運ぶことは出来ません。また、アミノ酸トランスポーターは一度に多くのアミノ酸を運ぶことが出来ないため、トリプトファン以外のアミノ酸がアミノ酸トランスポーターを圧迫すると、脳内へ十分にトリプトファンを運ぶことが出来ません。

そこで、炭水化物をトリプトファンが含まれるタンパク質と一緒に摂取すると、トリプトファン以外の『フェニルアラニン』などの必須アミノ酸や、BCAAという種類のアミノ酸の吸収が低下し、トリプトファンをより多く脳内へ運べるとされています。

炭水化物は、ご飯などの穀類、パンやうどんなどの麺類、じゃがいもなどのイモ類に豊富に含まれています。そのため、昨今流行りの炭水化物抜きダイエットや、低炭水化物ダイエットなどでは炭水化物の不足から、脳内へ運ばれるトリプトファンの量が減少する可能性があります。

セロトニンの材料は『トリプトファン』 、『 ビタミンB6』、『鉄分』

ガソリンが無ければ車が走らないように、材料がなければ人間の体はセロトニンを作ることができません。
体内でセロトニンを生成するには、必要な材料が幾つかあります。

セロトニンは脳内の『ほう線核』と言う部位で作り出されます。
ほう線核でセロトニンを作り出すために必要な材料の一つがトリプトファンと言う物質です。

トリプトファンは必須アミノ酸の一種です。
トリプトファンは、体内では生成することができない物質で、食事により体内に取り込む必要があります。

また、セロトニンを体内で作り出すには、トリプトファンのほかにも『ビタミンB6』鉄分が必要です。

トリプトファンとビタミンB6が『腸内』で合成されることで、セロトニンの前駆体である『5-HTP』が生合成されて、脳内へと運ばれます。
鉄分は、セロトニンをはじめドーパミンノルアドレナリンと言った、神経伝達物質の合成に欠かせない酵素(トリプトファン水酸化酵素)の働きを助ける作用があります。 

  1. トリプトファン ⇒必須アミノ酸の一種。食物から摂取する必要がある。
  2. ビタミンB6 ⇒たんぱく質やアミノ酸の合成や分解を補助する補酵素の働きを持つ。
  3. 鉄分 ⇒ 神経伝達物質の生成に必要な酵素(トリプトファン水酸化酵素)の働きを助ける

セロトニンの材料となるトリプトファンは食事を通じて私たちの体に補給されています。
チーズなどの乳製品、納豆や肉類などのお馴染みの食品にもトリプトファンは含まれています。
セロトニンを増やすサプリメントなどとして謳われたトリプトファンを配合しているサプリメントなどが、栄養補助食品も広く販売されています。

○食事からバランスよくトリプトファンを摂取するには、『トリプトファンを豊富に含む食材』をご覧ください。

ビタミンB6を含む食材は以下を参考にして下さい。

  • 赤身の魚(マグロ・カツオなど)
  • 肉類(豚肉・鶏肉・牛肉など)
  • レバー(豚・鶏・牛)
  • 豆類(大豆・小豆など)
  • 果物(バナナ・プルーンなど)

鉄分を含む食材は以下を参考にして下さい。
※ダイエット中の人や生理出血の影響から、女性は特に鉄分が不足しやすいとされています。

  • 魚類(あゆ、いわし、煮干し、干しエビなど)
  • 貝類(しじみ、あかがい、ほっき貝、あさりなど)
  • 海藻(あおのり、ひじきなど)
  • 肉類(豚肉(はつ)・鶏肉(はつ)・牛肉(せんまい)など)
  • レバー(豚・鶏・牛、レバーペースト)
  • 豆類(大豆・小豆、みそなど)
  • 卵の卵黄

セロトニンを増やすために必要な各栄養素とセロトニンとの関係については、『セロトニンを増やすために必要な栄養素』をご覧ください。

トリプトファンの分解に腸内細菌が関与している

トリプトファンの分解に必要なビタミンB6は腸内細菌によって食品中から取り出され、合成されています。
そのため、腸内環境が悪く、腸内細菌が少ない状態では、いくらビタミンB6が豊富な食材やサプリメントでビタミンやミネラルを摂取してもビタミンは取り出されにくくなります。
セロトニンなどの分泌に必要不可欠な鉄分もまた、腸内細菌によって体が吸収しやすい形に還元されることが確認されています。

このように、腸内細菌はトリプトファンの分解や、セロトニンの合成に関与しており、腸内細菌が生息しやすい腸内環境を整えることと、そのためにはバランスの良い食生活を送ることや、プロバイオティクスなどの食品を食事に取り入れていくことが重要になってきます。

足りない栄養素はサプリで補給を

セロトニンの材料となる、『トリプトファン』と『ビタミンB6』や『鉄分』、そしてトリプトファンの分解やビタミンB6の合成をサポートする『腸内細菌』。
これら3つの要素を全て兼ね備えた食事こそが、セロトニンを増やすためのベストな食生活であると言えます。

実は、豆類や穀類、漬物(植物性乳酸菌を含む)が豊富な日本の伝統的な『和食』はそうした要素をクリアできる、バランスの取れた食事だったのですが、現代の多くの日本人は、質素な和食を好んで食べる機会が激減してしまい、欧米人のような、肉類や加工食品中心の食事が好まれています。

そうした偏った食生活では、セロトニンを作るために必要なトリプトファンが不足しがちで、腸内環境も悪化してビタミンB6の合成も滞りやすくなります。

photo credit: AirBaltic inflight meals 2016 (license)


参考文献
厚生労働省 e-ヘルスネット – セロトニン
国際生命情報科学会誌 – セロトニン神経活性化の臨床的評価:脳波α2成分の発現
NCBI – PMID:1752859
NCBI – PMID:25108244
Wikipedia – セロトニン