鉄(Fe)とは、体内に存在するミネラルで、赤血球を作るのに必要なヘモグロビンの原料として、不足すると貧血を起こすことが広く知られています。また、骨や皮膚、粘膜と言った細胞組織の生成や代謝の他、セロトニンドーパミンなどの神経伝達物質の合成にも必要な栄養素です。成人の体内には約4gの鉄が存在するとされています。

鉄の体内での効果と役割

鉄不足で貧血になると言うのが昔から知られている通り、鉄の体内での働きのうち、特に重要なのは赤血球を作るのに必要なヘモグロビンの原料になるという点です。

他にも鉄分は、肌や細胞を酸化から守ったり、疲れの回復に関係するなど、様々な効果があります。

血液を作る

体内の鉄分のうち、およそ70%は『機能鉄』として、赤血球中のヘモグロビンのほか、筋肉の色素成分であるミオグロビン、エネルギーの産生や神経伝達、コラーゲンの合成をする鉄含有酵素などの成分となります。

残りの25%は肝臓等でフェリチンやヘモジデリンとして貯蔵される『貯蔵鉄』と呼ばれ、血中で使用されるヘモグロビンなどが不足したときのために貯蔵されます。

機能鉄(血中、筋肉に分布)
ヘモグロビン
ミオグロビン
鉄含有酵素
貯蔵鉄(肝臓等で貯蔵)
フェリチン
ヘモジデリン

活性酸素の除去

殺菌や消毒作用のある活性酸素ですが、増えすぎると細胞を酸化させて傷つけます。こうした活性酸素の増加はいわゆる「老化」や「疲労」を促進することになります。鉄分には増えすぎた活性酸素を分解・除去する抗酸化物質であるSOD(スーパーオキサイドデイスムターゼ)の働きを活性化させる作用があります。

免疫機能の維持

鉄分には、口内などの粘膜の免疫機能を高める働きや、リンパ球や好中球といった免疫機能を持つ白血球の働きを維持する作用があるため、免疫機能の維持に関与しています。鉄分が不足すると、風邪などにかかりやすくなります。

疲労の回復

鉄が原料となって作り出されるヘモグロビンは、体内の細胞へ酸素を運ぶ働きをしています。鉄分が充足していれば、ヘモグロビンの生成も活発に行われて、疲労の回復速度も速くなります。マラソンなど長距離走などで高地トレーニングをするのも、血液中のヘモグロビン量を増やしてスタミナや持久力を向上させるためですが、当然、ヘモグロビンの原料となる鉄分も豊富に摂取する必要があります。

美肌効果

シミやシワが増える原因は、肌の酸素不足や活性酸素の増加です。鉄分は、肌へ酸素を供給するヘモグロビンの原料であり、また、活性酸素を除去する抗酸化物質であるSODの働きを活性化する作用もあり、鉄分をしっかりと摂取することで、美肌効果も期待出来ます。

ダイエット効果

鉄分によって作られるヘモグロビンは、体中の細胞へ酸素を送る役割をしています。酸素が末端の細胞まで行き届くことで、体温を上昇させる効果があります。平均体温が高いほうが基礎代謝量は増えるため、ヘモグロビンが多いほうが体重減少には有利なため、原料となる鉄分が体に充足することでダイエット効果も期待出来ます。

鉄分は健康な精神を育む

鉄分は、人の脳内でうつ病や不眠症に関係するセロトニンや、物事の意欲や学習効果に関与しているドーパミンといった、『神経伝達物質』の合成に必要な栄養素でもあります。セロトニンが不足するとうつ病や不眠症を引き起こす可能性があり、ドーパミンの不足はやる気の消失や、依存症を発症するリスクを高めます。 鉄分が充足することで、こうした神経伝達物質の合成も促進され、精神状態を健康に保ちます。

★次のページでは『肥満や疲労の原因にも!鉄分不足の症状』をご紹介します。

photo credit :JD Hancock