人は恒温動物(体温が余り変化しない動物)であり、1日の中での自然な体温変化はおよそ1℃以内です。人はいつも無意識に体温を一定に維持しようとします。体温の調節をするのは、自律神経の中枢である視床下部で、視床下部が産熱するか放熱するかを決めて体温を一定値内に維持しています。

体温の調節

人は意識的にも無意識的にも、体温を上げたり下げたりして、一定の範囲内に保とうとします。

体温を上げる方法

  • 無意識に行っている代謝
  • ふるえによる熱産生(自律性体温調節反応)
  • トリハダをたてる(体温を逃がさないようにしている)
  • 血流を少なくする(体温を下げないようにする)
  • 太陽光に当たる
  • 暖房を付ける
  • 運動する(行動性体温調節反応)
  • 風呂にはいる
  • 食事をする
  • 服を着る

体温を下げる方法

  • 発汗して放熱する
  • 呼吸して放熱する
  • 末梢組織への血流を増やして放熱する
  • クーラー使う
  • 水を浴びる
  • 冷たいものを飲む
  • 服を脱ぐ

1日の体温変動リズム

体温は一日のうち、日中の活発に活動する時に高く、夜間の睡眠中に低くなるという、一定の変動リズムを持っています。一日のうちで早朝が体温は一番低く、そこから目覚める前に向かうにつれて体温は上昇し始め、夕方から夜間の眠る直前にかけて一日のうちで最も高くなり、その後ゆっくりと低下します。

こうした体温変動は、人の持つ体内時計や概日リズムに則した変化で、体温の変動と身体活動リズムを合わせることで、合理的な生活を送れると考えられています。

つまり、日中の体温の高いうちには積極的に活動し、夜間から早朝にかけて体温が下がる時期には眠ると言う身体活動が人間には適していると言えます。

こうした活動リズムから外れた生活をおくると、血圧や心機能などに負担がかかりやすくなり、心疾患などを起こしやすくなる他、体内時計や概日リズム、自律神経の働きが乱れる原因となり、心身に様々な悪影響をおよぼすことが考えられます。

平均的な体温

日本人の平均的な体温は以下のとおりです。

表面体温

日本人の平均値は36.89℃±0.34
(ワキシタで検温時、テルモ体温研究所のデータ)

深部体温・中核温

日本人の深部体温の平均値は37℃
深部体温とは、脳や心臓など、体の中心部の体温のことで、これら重要な臓器の体温は、その機能を保つために高く安定するようになっている(恒常性維持機構により)。

体温の測定方法

本来深部体温が安定しているが、日常的に深部体温を計測することは出来ないため、ワキシタ、舌下、耳、直腸などの体の表面に近い部位で体温計を用いて測られる。日本ではワキシタでの検温が主流です。

平均体温の個人差

生活習慣や環境、遺伝等様々な要因から、平均体温には個人差があります。

乳幼児期は熱産生が活発で体温が高く、また視床下部による体温調節機能が未発達なため、熱を出しやすいとされます。(子供の知恵熱の正体とも)

また、高齢になるにつれて、熱産生能力が弱くなり、体温が低くなる傾向があります。

体温が上がると

  • ウイルスや菌の増殖を抑制する
  • 白血球の働きが活性化される
  • 免疫機能が高まる
  • 42℃を超えると脳の働きに異常が生じる危険値

体温が下がると

眠たくなる
詳しくは『睡眠と体温』をご覧ください。

免疫機能が弱まる
平均体温が1℃下がると免疫力は30%以上も低下すると言われています。

基礎代謝が下がって太りやすくなる
体温が1度下がると、基礎代謝量はおよそ12%~15%低下すると言われています。
詳しくは『体温と基礎代謝』をご覧ください。

新陳代謝力が落ちて老化しやすくなる
体温が下がると、血流やリンパの流れが悪くなり老廃物が溜まりやすくなります。また、活性酸素を除去するSODと言う酵素の働きもわるくなるため、シワやむくみなど老化の原因になります。

低体温症
体の中心部の温度が35℃以下で低体温症であるとされます。
低体温症になるのは、何も登山で遭難した時だけではなく、日常生活でも、雨に当たり続けたり、野外や寒い場所で眠ると低体温症になる可能性があります。
体温の調節能力が低い子どもや高齢者はより低体温症になりやすくなります。
体温が下がり続けると、やがて心拍が停止し死に至ります。

ところで、近年は低体温症ではなくても、体温が常に低い『低体温』の人の割合が増えていると言われています。低体温とは、平均体温が低く35℃台の人のことで、特に筋肉量の少ない女性に多く現れる症状です。低体温になってしまう原因は主に、筋肉量の低下によるものですが、その根本にあるのは、運動不足、ダイエットや偏食等です。

発熱する要因

・ウイルスなどが体内に侵入したとき
白血球やマクロファージと言った免疫細胞が活性化され、視床下部で発熱指令が出る。すると、血管が収縮し、汗腺は閉じられて、熱の放散が抑制されると同時に、震えによる熱産生が行われて発熱する。

ストレス
精神的なストレスによって、交感神経系が緊張して体温が上がります。ストレスによる発熱の場合、風邪薬や解熱剤は効かず、ストレスを緩和する薬剤などが効果を発揮します。

また、風邪などの時に働く炎症性のサイトカインとプロスタグランジンE2(PGE2)と言った物質がストレスの時は働かないため、病院では異常なしと言われることもあります。こうしたストレス性の発熱が継続すると、自律神経失調症の症状が現れやすくなります。

平均体温が下がってしまう要因

  • 加齢による身体機能の低下
  • 自律神経の乱れ
  • 運動不足や栄養不足による、筋肉量の減少

乳幼児の体温の特徴

乳幼児は体が小さく、皮下脂肪も少ないため熱を失いやすいと言う特徴があります。乳幼児は適切に保温する必要があります。一方で、乳幼児は体が作る熱量が多く、熱がこもりやすいと言う特徴もあり、温め過ぎは乳幼児の突然死(SIDS)の原因の一つとも考えられています。

乳幼児は自律神経が未発達で、また概日リズムが十分に備わっておらず、体温変動にも一定のリズムがありません。さらに子供一人ひとりでも体温は個人差があるため、1日4回ほど平熱を測って、おおまかな平熱を把握しましょう。尚、授乳の後や食後、運動後、外から帰ってきた後などは体温が高くなりやすいので、少し時間をおいてから計ると良いです。

乳幼児の体温は大人よりも高めで、風邪やインフルエンザ等に感染した時の発熱は概ね37.5℃以上、光熱は38℃以上と定義づけられています。

高体温/低体温の児童が増えている

最近の児童の体温は平均よりも低体温だったり高体温だったりする割合が以前よりも増えています。こうした原因の一つは、自律神経の発達が遅れているためと考えられます。自律神経の発達の遅れは、運動不足、睡眠不足、寝るのが遅い子、朝食を抜く、エアコンが効いた室内で多く過ごすなどの生活習慣を送る子に特に多く見られ、遊ばずじっとしていたり、集中力にかけたり、落ち着きが無い、すぐかーっとなるなどの行動が目立つことがあります。

子供のうちからしっかり食べて、体をよく動かし、ぐっすり眠る生活が子供の成長には必要です。

高齢者の体温の特長

65歳以上の高齢者の体温は全体の平均値よりも低くなります。これは加齢によって熱産生能力が衰えるなどした結果です。また、体温調節機能も衰えてくるため、暑くても汗をかきにくく、寒くても放熱を抑制しにくくなるなど、暑さや寒さに対する反応が弱くなります。 そのため高齢者は暑い時には熱中症にもかかりやすく、寒い時には低体温症(老人性低体温症)にかかりやすくなります。

また、熱の産生能力が低くなるため、病気にかかっても十分に発熱することが出来ず、病気への免疫力が下がってしまいます。

さらに、高齢になると一日の体温変動リズムも変化し、若い頃よりもより早朝に体温が上がり始め、逆に夜の早い時間に体温が下がり出します。そのため、生活リズムも早寝早起きになりやすいとされます。また、高齢者は1日の体温の変動幅が少なくなることから、睡眠が浅くなる傾向があります。

こうした身体能力の衰えと上手に付き合うには、やはり規則正しい生活習慣が重要です。朝は決まった時間に起きて日光を浴びましょう。また、朝食はしっかり取って、脳にエネルギーを送ります。日中は散歩などで体を動かして、交感神経系を刺激しましょう。昼寝は30分以上の長時間眠ると夜の眠りが浅くなるのと、心臓や血管へ負担が罹りやすくなり、心疾患に罹りやすくなるため、昼寝をとる場合は30分以内に抑えましょう。

夕方の運動は寝付きを良くします。夜間の室内照明やテレビの強い光は体内時計を狂わせる要因になるため、夜は暖色照明を使うなど、明るくしすぎないようにしましょう。お風呂に入る場合は、就寝の2~3時間前までに、42℃以下のお風呂に入りましょう。

体温と学習能力

夜型の生活をすると、午前中の体温が低くなる傾向にあります。すると、朝方の生活をしている人に比べて、夜型の生活をする人の計算速度や、作業の正確性などが低下し、日中の学習能力が低下することがわかりました。午前中の体温を上げる要因は、朝方の生活をすること、午前中の運動、朝食をとること、などが挙げられます。

うつ病と体温

不眠症をはじめとする、睡眠障害うつ病の主要な症状です。うつ病の原因として、体内時計や概日リズムの乱れが考えられます。

体内時計や概日リズムは、朝起きて夜眠る生活を送る中で、自律神経の働きや1日の体温変動などによって形作られています。近年増えている夜型の生活をおくる人や、不規則な生活を送ると、こうした1日を通じた体温変動が乱れたり、自律神経のバランスが乱れやすくなり、概日リズム睡眠障害を発症しやすくなり、これがうつ病などの気分障害の一因になっていると考えられます。

また、うつ病では、深部体温が高くなることが分かっています。夜になっても深部体温が下がりにくいため、体が自然と眠りに向かうことが出来ず、不眠症状が起こり、心身を休ませることの出来ないと言う、負のスパイラルに陥りやすくなります。うつ病の治療が進むと、高くなっていた体温が下がって、健常者に近づくことが分かっています。

こうしたことから、うつ病の予防には睡眠が大事であり、質の良い睡眠をとるためには、1日のメリハリのある体温変動が、体温変動には規則正しい生活が、それぞれ重要であるということが言えます。