花粉症やアトピー性皮膚炎、小児喘息など、いわゆる『アレルギー症状』に悩まされる人は年々増加しています。厚生労働省の調査によると、アレルギー症状を持つ日本人は、最近15年ほどで急増し、現代人の3人に1人が何らかのアレルギー症状を抱えているそうです。こうしたアレルギー症状急増の背景には、世界の急速な近代化や工業化の他にも、我々の腸内環境の変化が深く関係していると考えられています。

腸の働きについて

腸内環境とアレルギーの関係を理解する上で、腸の働きについて知っておく必要があります。腸はただ便を排泄するためだけの器官ではありません。

腸の代表的な働きには、食べ物の『消化』と『吸収』、『排泄』があります。そして、もう一つ腸が持つ重要な働きが、『免疫機能』です。

腸の持つ免疫機能は『腸管免疫』と言われ、人の持つ免疫機能のおよそ6割を担っており、腸は人体の最大の免疫器官です。この腸の持つ免疫機能こそが、腸とアレルギーの関係を上で重要なキーワードとなるのです。

腸管免疫とは

腸管免疫とは、腸が担う免疫機能のことを言い、人の免疫機能全体のおよそ6割程度が腸管免疫によって構成されています。(その他、骨髄や胸腺、脾臓などにも免疫機能がある)

腸管免疫の仕組みをざっくり言うと、『自己(自分の体)』と『非自己(自分以外)』とを区別することで、病原菌やウィルスなど、有害な物質が体内に入ったら排除する仕組みです。もしもこの仕組みがないと、免疫細胞は自己(自分の肉体)も攻撃してしまうことになります。また、そうした自己・非自己を識別する機能が欠損することで生じる疾病(自己免疫疾患)もあります。

『非自己』と言うのは、自分の細胞以外の全ての物質を指しますので、病原菌など有害なものだけでなく、食品など体に必要な栄養素も非自己に該当します。

ところが、食品までも非自己として排除しまうと、食事をして栄養を摂取することが出来ません。そこで、食事をしても免疫反応が起こらないような仕組みが必要でした。これを実現したのが『経口免疫寛容』という仕組みです。

経口免疫寛容とは

経口免疫寛容とは、食物など、口から安全だと思われるものが入った場合は免疫反応が起こることを抑える仕組みです。この仕組みは、主に腸間膜リンパ節(mesenteric lymph node:MLN)にある樹状細胞が、免疫反応を抑制する制御性の免疫細胞に働きかけることで成り立っています。

経口免疫寛容を支えているのは消化機能

経口免疫寛容を支えているのは、口や胃や腸などの消化器官の持つ『消化機能』です。

消化という作業は、食事などにより口から大量に入ってくる『非自己』を、消化酵素や胆汁などを分泌させて、出来るだけ小さく分解することで、食品の抗原としての機能を失わせることで『無害化』し、免疫反応が起こらない状態にしてから、体が栄養を速やかに吸収出来るようにしているわけです。

『食べ物を消化する』ということは、単に体が栄養を吸収しやすくしているというだけでなく、経口免疫寛容が成り立つための極めて重要な働きでもあるわけです。

免疫寛容が弱くなるとアレルギーが起こりやすい

免疫寛容の働きが弱まると免疫反応が過剰に起こり、食物アレルギーや花粉症、アトピー性皮膚炎などのアレルギー症状を起こしやすくなることが考えられます。また、免疫寛容が正常に働かないと、自己の体に対して免疫細胞が攻撃するリウマチなどの『自己免疫疾患』などを引き起こす原因にもなります。

昨今、アレルギー疾患を抱える人が増えている背景にあるのは、経口免疫寛容が正常に働かなくなってしまった人が急増していることがあるのではないかと考えられるのです。だとすれば、逆に経口免疫寛容が正常に働くようにすれば、アレルギーを改善したり、予防したりすることが出来るはずです。

免疫寛容の働きが弱くなった原因

免疫寛容の働きが弱くなったことが、現代人にアレルギー症状が急増している原因の一つだとすると、その原因を知ることで、アレルギー症状を改善したり、予防することが出来るのではないでしょうか。以下に、免疫寛容が弱まる原因や生活習慣をご紹介します。

・免疫細胞のバランスが崩れやすくなった
ヘルパーT細胞という、細胞性免疫と液性免疫のバランスを調整する免疫細胞があります。ヘルパーT細胞は、Th1(細胞性免疫を促進)とTh2(液性免疫を促進)からなり、このバランスの崩れとアレルギーが起こりやすくなることがわかっています。特に、Th2が過剰に活性化することでTh1の働きが抑制されると、IgEという抗体が過剰に産生されて、免疫寛容を弱めてしまいます。
また、Th1が抑制されると、アレルギーが起こりやすいだけでなく、ガンなどの重篤な疾患も発症しやすくなります。ヘルパーT細胞は、いずれかの働きを強めるのではなく、バランスを取ることが重要であると考えられています。
・慢性的なストレス
ストレスを受けると、交感神経系が興奮します。交感神経系は、免疫機能の働き自体を抑制してしまうため、ストレスを受け続けると、免疫力が低下します。また、交感神経系は内臓機能の働きも制限するため、消化機能も低下します。

さらには、ストレスによって分泌されるコルチゾールノルアドレナリンなどのストレスホルモンが、悪玉菌の病原性を強くするなど、腸内環境の悪化の原因にもなり、ストレスによる悪影響が重なることで免疫寛容の働きを抑制してしまう可能性があります。

また、ストレスホルモンは、炎症反応(アレルギー反応)を抑える働きをしますが、長期的にストレスを受け続けると、徐々にストレスホルモンは不足していき、終いには枯渇します。すると、ストレスホルモンによって抑えられていた炎症反応が強くなり、アレルギー症状が一気に悪化します。
現代社会は、慢性的でしかも不可避なストレスが満ち溢れており、アレルギー症状を抑えるストレスホルモンが枯渇しやすい環境だといえます。
・過度な潔癖志向
現代では、菌は悪いものだと喧伝され、いつでもどこでも除菌や殺菌、そして風邪をひけば抗生物質が処方されます。しかし、そうした潔癖志向によって除菌や殺菌を徹底すると、皮膚を守る常在菌や腸内にいる乳酸菌ビフィズス菌など、人体に有益な菌までも損なわれてしまい、腸内細菌が担っていた免疫力を維持向上させる作用が損なわれてしまうため、潔癖志向が過ぎれば、本来持っている免疫力が低下してしまうことに繋がるのです。
過ぎたるは猶及ばざるが如し、というわけです。
・腸内細菌の減少
前述の潔癖志向や、現代人が負っているストレスなどは、腸内細菌の大敵であり、そうした生活習慣を続けることで、現代人の腸内細菌は減少傾向にあります。本来、腸内細菌は免疫細胞を刺激して免疫力を維持・向上させる作用を持っているため、腸内細菌が減少すると、免疫を維持する作用が失われてしまい、その結果、免疫力が低下し免疫寛容の働きも弱くなってしまうのです。
・腸壁バリアの損傷
免疫寛容の要は『腸の壁』という、文字通り物理的なバリアです。腸の壁には無数の小さな穴が空いており、そこからは、極小さく、人体に無害な栄養素だけが通過して血液中に運ばれます。この腸の壁が「人体に必要で無害な栄養素以外のものを物理的に通さない」という前提で、免疫寛容は成り立っています。
ところが、何らかの原因でこの腸の壁、腸壁バリアが損なわれてしまったとしたら、本来腸壁を通過することが出来ない、大きな分子(例えばたんぱく質や病原菌など)の物質も、血液中に漏れだしてしまい、そうした物質が抗原化することで、食物アレルギーを起こしやすくなるなど、免疫寛容が弱まってしまう原因となってしまうのです。
・リーキーガット症候群
腸壁バリアを損なわせる一つの原因として、注目されているのがリーキーガット症候群という症状です。リーキーガット症候群とは腸壁バリアが損傷して穴が空いたり、穴が大きくなってしまい、腸から異物が体内に漏れ出してしまっている状態を指します。
このリーキーガット症候群が、現代人を悩ませるアレルギー症状が頻発する主犯格と目されており、その原因の特定や、症状の改善方法や予防方法に注目が集まっています。

アレルギー症状を防ぐには

免疫寛容の衰え』こそが、現代人に急増しているアレルギー症状多発の原因の一つであるということをご紹介させて頂きました。そして、免疫寛容が弱くなる原因を一つ一つ紐解くと、その全てが腸内環境に帰結していることがわかります。

つまり、免疫寛容を正常化すること、そしてアレルギー症状を改善したり予防するためには、腸内環境を整えたり、改善することが第一である、という結論になるのです。免疫寛容を正常化するための、腸内環境を整える方法について、詳しくは『腸内環境を整える方法』をご覧ください。