必須アミノ酸の一つであるトリプトファンは脳内物質『セロトニン』の材料です。 「セロトニン」は「ノルアドレナリン」「ドーパミン」と並んで三大神経伝達物質と言われ、体内で特に重要な役割を果たす物質です。 ノルアドレナリンは意欲・不安・恐怖といった感情・精神状態と深く関係し、ドーパミンは運動調節・ホルモンの調節・快感・意欲・学習に関わると言われています。

セロトニンとは

セロトニンは、人間の精神面に大きな影響与える神経伝達物質で、ノルアドレナリンやドーパミンの暴走を抑えて心のバランスを整える作用があると考えられており、セロトニンが不足すると、暴力的になったり、頭がぼーっとしたり、うつ病を発症すると考えられてます。

詳しくは『セロトニンとは』をご覧ください。

トリプトファンはセロトニンの原料

私達人間の精神に大きな影響を与える神経伝達物質セロトニンを作り出す材料となるのが、トリプトファンです。

そして、トリプトファンは人体内で作り出すことが出来ず、食品から摂取する必要がある「必須アミノ酸」の一つです。トリプトファンは、たんぱく質を豊富に含む食品に多く含まれています。牛乳・大豆(豆腐)・ゴマ・プロセスチーズの他、肉類、赤身魚にも含まれています。

ダイエットや好き嫌いで偏食が過ぎると、トリプトファンが不足する場合もあるため、健康管理のためにもバランスよく食事をすることをおすすめ致します。

詳しくは『トリプトファンを多く含む食品』をご覧下さい。

トリプトファンは炭水化物を一緒に取ると吸収効率がアップ

セロトニンの合成に必要なトリプトファンは、脳内に運ばれる際にアミノ酸トランスポーターという物質を介して血液脳関門(異物を脳内へ入れないようにする関門)を通過して脳へ到達します。しかし、トリプトファンが利用するアミノ酸トランスポーターは、トリプトファン以外にも『フェニルアラニン』というドーパミンやノルアドレナリンの原料となるアミノ酸や、BCAAと呼ばれる筋肉を構成するアミノ酸群など、様々なアミノ酸も同時に運んでおり、トリプトファンだけを運ぶことは出来ません。

また、アミノ酸トランスポーターは一度に多くのアミノ酸を運ぶことが出来ないため、トリプトファン以外のアミノ酸がアミノ酸トランスポーターを圧迫すると、脳内へ充分にトリプトファンを運ぶことが出来ません。

この状況を乗り物に例えると、『アミノ酸トランスポーターという脳内行きのバス』には、トリプトファン以外にも様々な乗客(アミノ酸)がいるため、満員になるとトリプトファンがバスに乗り込むことが出来ず、目的地(脳)へたどり着くことが出来なくなるのです。

炭水化物を摂取するとインスリンが分泌される
アミノ酸同士の競合を防いで、トリプトファンを脳へ効率的に送り込むには、食事の際に炭水化物を一緒に摂取するのが有効です。

炭水化物を摂取すると血糖値が上がります。すると血糖値を下げるためにインスリンが分泌されて、インスリンの血中濃度が上がります。インスリンには、BCAAが骨格筋に取り込まれるのを促進する作用があるため、トリプトファンと競合するBCAAのアミノ酸トランスポーターへの吸収が低下し、トリプトファンをより多く脳内へ運べるようになります。

こうして、トリプトファンの吸収率をアップさせるには、食事のときに炭水化物も一緒に食べたほうが良いということになります。炭水化物は、ご飯などの穀類、パンやうどんなどの麺類、じゃがいもなどのイモ類に豊富に含まれています。

セロトニンを作り出すもう一つの材料『ビタミンB6』

トリプトファンがセロトニンの材料となっていることを既に述べましたが、実はトリプトファン単体ではセロトニンを作ることができません。

セロトニンは脳内の『ほう線核』と言う部位で作り出されるのですが、その際に必要になるのが、トリプトファンと『ビタミンB6』です。

ビタミンB6はたんぱく質やアミノ酸の合成や分解を補助する働きを持っており、トリプトファンとビタミンB6が材料となり、脳内の『ほう線核』でセロトニンが作りだされます。つまり、セロトニンを効率よく作りだすためには、トリプトファンだけでなく、ビタミンB6も効率よく摂取しなくてはならないのです。

★ビタミンB6を含む食品のリスト

  • 赤身の魚(マグロ・カツオなど)
  • 肉類(豚肉・鶏肉・牛肉など)
  • レバー(豚・鶏・牛)
  • 豆類(大豆・小豆など)
  • 果物(バナナ・プルーンなど)

人体内で作り出すことが出来ない必須アミノ酸のトリプトファンとは異なり、ビタミンB6は一部体内でも作られるため、一般的には不足しにくい栄養素であると言われています。

ビタミンB6をはじめ、食品に含まれるビタミン群を胃や腸が分解して吸収するのを手伝っているのが腸内に生息する腸内細菌です。また、腸内細菌はビタミンB6を直接合成する働きもしています。

セロトニンの合成に必要なビタミンB6を効率よく摂取する上で、我々現代人が特に注意しなくてはならないのが、腸内環境の悪化です。腸内環境が悪化すると、腸内に生息する腸内細菌にも悪影響が出てしまい、ビタミンB6などの分解や合成量も減少してしまう可能性があります。下痢や便秘が続く場合は腸内環境悪化のサインです。

また、ビタミンB6以外にも、トリプトファンからセロトニンを合成する際に使用される酵素の働きを補助する栄養素として、鉄分』が必要です。鉄分は、ダイエット中で栄養が偏ってい流人や、月経による出血がある女性には不足しがちです。鉄分は赤身の肉や魚に豊富に含まれており、特にレバーに豊富なことが知られています。

私達現代人の多くは朝ごはん抜きの食習慣、好き嫌い、偏食、ダイエットなどで栄養分が偏り、また食事のサイクルも乱れがちです。普段の食生活からこれらの食品をバランスよく、また規則正しいサイクルで定期的に摂取することを心がけることで、セロトニンを作り出すことのみならず、睡眠や仕事など日常生活のリズムサイクルもうまく回るのではないかと考えております。

★次のページでは『トリプトファンによる障害や副作用』をご紹介します。

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