フェニルアラニンは必須アミノ酸のひとつで、肝臓で作られる『フェニルアラニン水酸化酵素』によってチロシンへと合成されます。さらにチロシンを経て合成されるドーパミンノルアドレナリンアドレナリンのもととなる物質でもあり、血圧を上昇させる効果があります。

フェニルアラニンの効果

フェニルアラニンにはリウマチや腰痛、偏頭痛などの疼痛を緩和する作用(鎮痛効果)があり、人工合成されたD-フェニルアラニンは医療現場では鎮痛剤として用いられることがあります。

フェニルアラニンの主な効果や作用
抑うつ症状の緩和/うつ病やADHDの改善/ストレスの緩和/疲労の緩和/PMSや月経痛の症状緩和/白髪予防/白斑の治療

また、フェニルアラニンは神経伝達物質であるドーパミンノルアドレナリンの材料となる物質です。
フェニルアラニンによって、ドーパミンやノルアドレナリンが脳内で充足することで精神活動が活性化されると、一般的に以下のような作用が期待出来ます。

ノルアドレナリンの作用
心拍数・血圧の上昇/気分・精神の高揚/集中力や判断力の上昇/ストレスへの耐性/食欲の低下、便秘/痛覚の遮断

ドーパミンの作用
意欲の向上/動機付け/学習能力や長期記憶力の向上/運動機能や性機能の増強

メラニン色素を作る
フェニルアラニンから合成されるチロシンには、肌や髪の毛の黒色色素となる『メラニン』を生成する働きがあり、肌や髪の毛を黒く保つことで、皮膚を紫外線から守る作用があります。

甲状腺ホルモンを作る
フェニルアラニンから合成されるチロシンは、『甲状腺ホルモン』の原料となります。
甲状腺ホルモンには以下の様な働きがあります。

  • 炭水化物、たんぱく質、脂質などの合成と分解を促進する
  • 臓器の酸素消費量を増大させて、細胞の新陳代謝を活性化させる
  • 成長ホルモンの合成を促進する
  • 胎児の発育や子供の成長を促す
  • 熱産生を行い体温を上昇させる

人工甘味料の原料となる
フェニルアラニンは、アステルパームという人工甘味料の原料となります。化学合成によって作られる人工甘味料は、砂糖よりも甘くて低カロリーなことが売りですが、その安全性を問題視する声もあります。特に人工甘味料の大量摂取は、含有される物質を大量摂取したときと同じような副作用が懸念されます。例えばフェニルアラニンが含まれるアステルパームであれば、胎児の発達への影響が懸念されます。

フェニルアラニンが不足すると

フェニルアラニンはバランス良く食事をしていれば不足しにくい物質ですが、ダイエットや偏食、好き嫌いなど、何らかの原因で不足すると、以下の様な症状が現れる可能性があります。

ドーパミンやノルアドレナリンの不足に繋がる
フェニルアラニンが不足すると、その代謝物である神経伝達物質ドーパミンやノルアドレナリンの合成が不足する可能性があります。
ドーパミンやノルアドレナリンが不足すると、以下のような症状が現れやすくなります。
意欲の低下/抑うつ症状/無気力/無関心/ボーっとする/不安/イライラ/学習効果の低下/依存症(タバコ、アルコール、ギャンブルなど)/判断力低下/集中力低下/睡眠過多

さらに症状が進むとうつ病などの精神疾患を発症する場合があります。

睡眠過多
初期のフェニルアラニン不足では、ノルアドレナリンやアドレナリンなどによってその働きが支えられている、交感神経系が活性化されにくくります。すると自律神経系の乱れが生じやすくなり、日中の眠気の誘発や疲労感の増加、夜間の睡眠時間の増加を始めとした『睡眠過多』が起こりやすくなります。

やがて不眠にも
フェニルアラニン不足によるノルアドレナリンやドーパミンの不足が慢性化すると、次第にセロトニンが不足して行き、不眠に転じる可能性もあります。

運動機能の低下
ドーパミンは中枢神経の運動機能に関与しているため、フェニルアラニン不足によってドーパミンが不足すると振戦や筋組織の萎縮など運動機能の低下が生じる恐れがあります。ドーパミン不足で起こると考えられている代表的な運動障害に、パーキンソン病があります。

白髪が増えることも
フェニルアラニンから合成されるチロシンには、肌や皮膚の黒色色素であるメラニンを作り出す働きがあるため、フェニルアラニンが不足してチロシンの合成が減ると、白髪が増える原因になります。

腸内環境の悪化でフェニルアラニンが分解されにくくなる

フェニルアラニンやチロシンをはじめとした、食品に含まれるたんぱく質は、腸内に生息する腸内細菌によってアミノ酸への分解が促進されます。従って、腸内環境が悪化して腸内細菌が減ってしまうと、アミノ酸の分解が滞る可能性があり、ドーパミンやノルアドレナリンを合成する材料の不足に繋がる場合があります。

その他にも、腸内環境の悪化は人体に様々な悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。

フェニルアラニンを増やす方法

フェニルアラニンは人の体内では作り出すことが出来ない、『必須アミノ酸』です。従って、原則としてフェニルアラニンを増やすには、食事によって食品から摂取する必要があります。

フェニルアラニンを多く含む食品

フェニルアラニンは、たんぱく質に含まれるアミノ酸ですので、たんぱく質を豊富に含む食品に特に多く含まれています。

  • 乳製品(カゼイン、チーズ、ヨーグルト、牛乳)
  • 豆類(大豆、湯葉、高野豆腐、きなこ)
  • 小麦タンパク(グルテン、生麩(なまふ)、焼き麩)
  • 赤身魚(かつおやマグロ)
  • すじこ、たらこ
  • 肉(豚肉、牛肉、鳥胸肉)

フェニルアラニンは、私達が一般的に口にする食材に広く含まれている物質ですので、バランスよく食事をしていれば不足する可能性は低いです。ダイエットや偏食などによる栄養不足の場合、フェニルアラニンが不足してしまう懸念があります。

フェニルアラニン過剰摂取の副作用

フェニルアラニンを通常の食事で摂取する限りでは、ほとんど副作用の危険はありません。
ただしサプリメントや投薬などで過剰摂取をすることで、以下の様な副作用が発生する可能性が指摘されています。

  • 妊娠中の過剰摂取で血中濃度が高まると、先天的欠損症のリスクが高まる
  • 血圧を上昇させる作用があるため、過剰摂取で高血圧、心筋梗塞、脳卒中のリスクが高まる
  • フェニルアラニンを代謝できない『フェニルケトン尿症(知的障害)』の場合は、症状が悪化する可能性があるため、摂取は制限されます。
  • フェニルアラニンは血液脳関門(BBB)を通過する際、同じく必須アミノ酸であるトリプトファンと経路が競合するため、フェニルアラニンの摂取量が多いと、トリプトファンが血液脳関門を通過するのを阻害し、そのことから脳内でトリプトファンがセロトニンに合成されるのを阻害して、セロトニン不足を引き起こす可能性があります。

フェニルエチルアミンの材料になる

人工化合物であるD-フェニルアラニンは、フェニルエチルアミンへと合成されます。

フェニルエチルアミン(PEA)とは、他人への共感性を増す作用がある神経伝達物質で、オキシトシンなどと並んで『恋愛ホルモン』とも言われる物質で、ADHDの症状緩和の効果も研究されています。また、フェニルエチルアミンには食欲を抑制する効果があり、ダイエット効果が期待できます。さらに消化を促す作用があり、便秘や肌荒れ解消の効果があります。食品ではワインやチーズ、チョコレートのような発酵食品に多く含まれるとされています。

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